6.カントリーライフを満喫、まではいかない
彼は身支度を整えた後、地下に降りて行った様子。部屋が徐々に暖かくなりつつある頃、いくらかの食材を持って彼が戻ってきて、暖炉のそばの調理スペースらしきところにそれを置いたところで目が合った。
『食事の支度はもう少しかかる。まだ寝ていてもいいが、それとも顔を洗うか?』
「あ……では、顔を洗わせてもらえるでしょうか」
洗面器らしき受け皿のあるところの下に水桶が置いてあって、その水を受け皿に移して使うようだった。使い終わった水はその傍の、排水を流す穴に入れるらしい。
顔を洗い終えて戻ると、昨日からかまどに置いてあった鍋からいい匂いの湯気が立ちこめる中、その脇の作業台で彼がパンや肉を切り分けていた。――どう考えても昨日から座ったり寝たりしている椅子と、その傍のテーブルがダイニング用に思えるので、わたしは敷いていた寝具と毛皮をたたんで脇に押しやった。テーブル付近がそれなりに片付いてきたところで、彼が木製の深皿に鍋からスープを取り分けてくれた。
『いま肉とパンを暖めてるから、そいつから先に食え』
スープは野菜がくったりと煮込まれていて、キャベツか玉葱とおぼしき透きとおった野菜や、たぶん人参らしきオレンジ色の細切りのモノなどが混ざっていた。食欲の赴くままに一口すすると温かさが身体に沁み入る。わずかに酸味がしたのは、お酢が入ってるのかな。酢漬けの野菜をスープに混ぜたら多分こうなるだろうという味。
半分くらい食べてたところで炙られた肉……ミートローフだろうか、あと雑穀パンを出されたので、それらも有難くいただいた。パンはかなり固く、彼がちぎってスープに浸して食べていたので、わたしもそれに倣って同じように食べる。
とてもおいしかったので終始無言で食べていたら、最後にハーブティーと、ベリーやぶつ切りの果物のコンポートが出てきました。これはデザートってことでしょうか。わたしの普段の朝食より、ずっと豪華でヘルシーなメニューをいただいてしまったなー……
――は、いけないいけない。胃袋が満たされて幸せとか、それで終わらせられる状況じゃなかったよね!
「あの、ご馳走さまでした。本当に、とても助かりました。ありがとうございます。ええと、それでですね……いろいろ聞きたいことがあるんですけど……」
『そうだな、俺もいろいろ聞きたい。――どうだろう、俺がひとつ質問してあんたがそれに答えたら、次はあんたが質問して俺に答えるというのは』
「あ、はい、そんな感じでよろしくお願いします!」
なんだか彼、無口でぶっきらぼうなんだけど聞きたいことは沢山あるぞって顔してたんだよね! とりあえず今はどう考えてもわたしのほうが彼に借りを作りまくった状態なので、最初の質問を彼からはじめてもらった。
『迷ったと言っていたな。そして、人に言われてこちらに歩いて来たと。もともとどこへ行こうとしていたのかと、なぜ迷ったのかと、そこで会ってこちらへの道を教えた人について聞かせてくれ』
質問が3つくらいの気がするけれど、こっちも連れてきてもらって休ませてもらってごはん頂いてーので作った借りが3つどころじゃないので、細かいことは気にせずなるだけ答えようと努力します。
「昨晩、自分の住まいの――アパートなんですけど、そこの自分の部屋で寝そうになってたら、気がついたらまったく知らない場所にいました。なので、どこに行こうとしていたとか、そういう目的があったわけじゃないんです。強いて言えば朝起きたら、勤め先に行こうとは思っていたんですけど」
あー、もう朝なんだよね、どう考えても間に合う気がしない、連絡入れたくても連絡とれそうな気がしない……
「……だから、なぜ迷ったのか、というのも全くわからないんです。で、寒いなって思ってたら、白い髪で青い眼の女の子が近寄ってきて、あの毛皮をくれて」
脇に畳んでおいた、白い毛皮のマントのほうに目をやる。
「女の子に連れられて森の中をしばらく歩いてたら、空にオーロラが見えて。あの方向に人が住んでるから、なんとかしてもらえって言われて、それから彼女はいつの間にかいなくなってました。で、またしばらく歩いて、それでお会いしたことになるんですけど……ええと……」
『エドゥアールト。エーディクでいい。お前はどう呼べばいい』
「エーディクさん、ですね? わたしは久澄舞夜です。久澄が姓で、舞夜が名前です」
『……マイヤ、でいいか』
「はい。お構いなく」
あれ、今さらっと名前呼び要求されました? いやでもエーディクってのも名前だよね。最初に言った名前のほうはちゃんと聞き取れた自信がないんだけど、あれが本名でエーディクってのは外国人によくある愛称、みたいな気がする。……彼にとっては名前で呼ぶのが普通なんじゃないのかな。
それにしても、最初の暖炉ベッドといい、本当に文化が違うんだな。――本当に、ここ、どこなんだろう……




