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4.モフっとした獣と鳥と、あとは大きな

 目の前の〈それ〉は、四つ足の獣。犬……じゃないと思う、たぶんオオカミ。

 でも、青みがかった雪原の上では浮いて見える薄茶色の毛並みは、どことなく獰猛さよりも穏やかさを感じさせられた。


『これが、例の気配のようだな』

 ……え? 今、喋りました? オオカミさん。

 慌てて周囲を見渡しても、他に誰もいない――と思ったら、バサバサ……と鳥の羽音が聞こえてきた。カラスより大きいくらいの鳥が、近くの樹のさほど高くない梢に止まる。

『そのようだ』

 んん、微妙に声の聞こえてきた位置が違う? 今度は鳥のほうから?

 ――その鳥は、ワシやタカのような猛禽類に似ているけれど、それよりも柔らかそうな羽毛に覆われていた。いや実際のところは触ってないからわからないけど。毛色はこれも明るい薄茶色で、オオカミと並ぶと、なぜか揃いの毛皮でつくられた精巧なつくりもののように見える。それくらい毛色や毛質が似ている印象。そしてやはり同じような、透明感のある蒼い瞳で見つめられる。……ガン見されてる……?


「リグル! スィム!」

 また違う声が聞こえた。今度は何の動物だろう――と思って声のほうを注視していると、もっとずっと大きい、焦茶色の毛皮の大きな熊さんがのっしのっしと雪を踏みしめて――すみません、間違えました。

 よく見たら、毛皮を着込んでランタンを掲げた大柄な男の人だ。背中には弓と矢筒を背負い、腰のベルトには手斧を着けている。猟師さんだろうか、オオカミと鳥のほうに遠慮なく近付いて、彼ら(?)のほうも特に逃げる様子がないんだけど……


「こ……こんばんは……」

 ああっ、猟師さんとバッチリ目が合っちゃった! ランタンの灯りのせいか、彼の瞳は金色に照らされていて、またじーっとこっちをガン見してくる。うう、なんか気まずい……

「は、じめまして。……道に迷ったんです。どこか、休ませてもらえるところはないでしょうか」

 言ったら猟師さんの眉間の皺が寄った気がする!

『どこから来た』

「えー……あっち、から歩いて来ました」

 その前を聞かれると困るけど。どうやって自宅から移動したのか自分でもわからないから。

『人の棲む領域ではないな』

『だが、成りは限りなく人間に近い』

 今喋ったの鳥とオオカミですよね?そんでもってめちゃくちゃ不審がられてますよね?

「こ、こっちに行けば人がいるって、助けてくれるかもしれないって言われて来たんです。白い髪の女の子でした。ほんとに、もう、ずーっと歩いてきたんで、足がガクガクで。どうにかお願いできないでしょうか」

 言ってたらほんとに辛くなってその場にへたり込んでしまった。人に会えて安心して気が抜けたんだろうか。雪の上に膝をついたけれど、ほんのりひやっとするくらいで、やっぱり思ってるよりも冷たくない……


 すると、オオカミが私のほうに寄って来て、わたしの着ている白い毛皮に鼻先を寄せた。毛皮の臭いを嗅いでる。

『〈雪〉の匂いがする』

 ? 雪の匂いって、水っぽい匂いってこと? そんなの、この雪一色の景色にとりまかれてたら当然なんじゃ……

『加護か。下手に害するとあらぬところの不興を買うやもしれぬぞ』

 鳥さん鳥さん、ガイスルってなんかとっても不吉な言葉に聞こえるんですけど……なんかおかしな方向に話が行ってない、よね? 不安になってその場にいる唯一の人に助けの視線を求めると、

『案内する。ただし、俺の断りなしに他の里の者に近付いたり、話しかけたり、その他不審なことをしないと約束しろ』

「は、はいっっっ!!」

 にこりともしない顔で告げられた言葉に気圧されて、条件反射で即答したら、猟師さんは屈み気味になって手を差し出してきた。これっていちおう救いの手ですよね? ちょっと緊張するけど、恐る恐るその手を借りて立ち上がる。


『もう少し歩く。また歩けなくなったら言え』

「わ、わかりました! いまはまだ大丈夫です!」

 毛皮に包まれた大きな背中の後についていく。彼の肩に鳥が留まって、わたしの後ろにオオカミがついて。二人と一羽と一匹でまたしばらく雪の道を歩き続けた。

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