ノーマークから
(ダメだ............もう攻める手段が無い!)
こうしている間にも24秒タイマーは、刻一刻と数を減らしている。頼みの綱である三春と絵馬が封じられ、24秒タイマーが残り10秒を切った。
まさしく万策尽きた。その時だった。
「小春、行って!!」
左サイドゴール下近くから心の怒号が上がる。
「はいっ!」
同じく左サイドのコーナーにいた小春が心の元へ向かって駆け出した。身長の高い選手が密集しているゴール下へ一直線だ。
「なんだ!?」
ベンチにいた俺は思わず声を出してしまった。いや、ほんとにどうするつもりなんだ。試合出てからいいとこ無しの小春だが、何かするつもりなのか?初心者のあいつに何かできるのか?
当の小春は3クォーターが始まる直前に心に耳打ちされたことを、数秒前から何度も思い返していた。それはひとつの作戦。
『小春。3クォーター目はあなたが重要になる。海清の隙を突いて、場を乱して』
『わっ、私がですか......?』
『大丈夫、私も協力するから。いい?私が合図したら............』
『............わかりました。やりますっ!』
(心先輩にスクリーンをかけてもらう!!それで、フリーになるっ!!)
今動く時。ショートコーナーの心の肩に、ギリギリぶつかってしまうほどの至近距離をつっ走る。これにより小春の後を追う5番は、心を避けるために少しばかりのまわり道をすることになる。この少しばかりの誤差だけでも、足の遅い小春がディフェンスを出し抜くのには充分な時間稼ぎだ。
ゴールの真下を通り、右サイドへ切れる。ついに、小春がフリーになった。
「そういうことか......!」
先ほどから右サイドにいた絵馬は、心と小春の一手を察して左サイドのコーナーへ走った。これは小春のシュートスペースを空けるため。絵馬のマークマンの千夏が、小春のシュートブロックへ向かわせないためである。
「刹那ちゃんっ!!」
懸命に張り上げた小春のパスコール。
「おうっ!」
流石は同学年の親友同士か、タイミングがバッチリ合ったところで刹那が小春へパスを入れる。そしてミドルの位置でターンを踏み、小春はジャンプシュートを放った。
ビーーーーーーーーーーーーーーッ
瞬間、24秒タイマーの数字が0になり、ブザーが鳴る。シュートは––––––––決まった。が。
会場が静まり、全員の視線は審判へ向かう。小春がシュートを放つ前にタイマーが鳴ったか、シュート後に鳴ったかで得点の有無が決まるからだ。審判の目にはどう映ったのか。
「カウントッ!!」
審判の二本指が得点板へ振られる。そして、記された得点は31:36へ動いたのだった。
一瞬の静寂とは真逆、一気に会場が湧き上がる。攻め手を無くしていた滝蓮だったが、その中で追い上げの口火を切ったのは一番の初心者である影染小春だった。
後半初得点、そして何より彼女の人生初得点が決まったのだ。そして喜ぶ暇も無く攻守が交代するが、今の小春のシュートで滝蓮側に勢いが戻ったことは確かだ。
味方のギリギリを通ってスクリーンをかけることを、"ブラッシング"と言ったりします。
スクリーナーとブラシで磨き上げるようにすれ違うからですね。




