亜人の王
「クソがッ‼︎」
リュザが毒づく。
「亜人種超大型種アデウス…。なんでこんなところに…」
クロハの疑問はアデウスの雄叫びに掻き消される。
アデウス。
基本的にはどこにでもいるモンスターの種族の一つ。
代表的なものとしては、ゴブリンやミノタウロスなんかがよく依頼に出る。
知性は確認されていないが形が人型で、手を使うことができるので厄介だ。つまりは武器を使う。このアデウスはその亜人種の頂点に君臨する絶対の王。姿形は限りなく人に近く、筋骨逞しい半裸の身体の上に山羊の頭蓋を被った顔。捩れた角には魔力が宿ると言われ、超高値で取引される。右手には刀身だけで大人の背丈ほどありそうな肉厚の大型剣。それを片手で振り回す。左手には角から出る魔力を魔法として顕すことができるので、色とりどりの光が躍る。
「リュザ!セイトを抱えてさがりな!」
チスタが指示を出すが、リュザが下がると誰がアデウスの注意を引くのか。だが、クロハにセイトを持ち上げることはできないし、チスタも、ましてシュエにも無理だろう。
「出番だね」
のんびりした口調でシュエが微笑む。
「クロハ!」
チスタの声にクロハは頷く。目を合わせるだけで意思が伝わる。
詠唱無視の遠距離狭範囲攻撃魔法「エル・スフィア」。
重ねた掌から透き通った黒い紫の球は、確かなスピードでアデウスの左脚に着弾。範囲を限定された爆発が起こって、アデウスがたたらを踏む。
「ナイスだよ!」
チスタがアデウスの後頭部に刃を突き立てる。
カツカツカツカツッ‼︎
硬質な音が響くが、
「チクショウ、傷一つつかないね!」
ゔおおおおおおおおお!
アデウスの叫びが空気を震わせる。虫を払うように振られた右手をチスタは身軽な動きでよけると、今度はクロハの番。
またも詠唱無視の攻撃魔法「エルネー」。
無数の光の矢がアデウスに降り注ぐが、山羊の角の魔法障壁に阻まれ届かない。
「スマン!入るぜ」
リュザがタワーシールドをかざして、クロハとアデウスの直線上に割り込む。横薙ぎの右腕を受け流すともう一度振るわれた上段切りを受ける。
「おお⁉︎」
1メートルくらいずり下がったリュザだったが、チャンスとみたか、タワーランスの剣技魔法発動。上段から槍を叩きつけると引き戻し、突く。見えない力に押されて目に見えない速さで繰り出される槍は、アデウスの脛を掠めた。
視界の端では、シュエの体が緑色に光って、その光の先には仰向けのセイトがいる。
「セイト、早く起きて--」
クロハは知らないうちに呟いていた。
やたら『!』を書いた気がします。