反攻作戦開始です
王都奪還作戦が始めて3か月が経過した。
最初こそ、別部隊との連携がうまく取れていなかった我ら貴族連合軍であったが、1か月ほど経過したころには、横どころか数十キロ離れた部隊とも連携が取れるようになっていた。
対する魔王軍も、結構反撃がきつく手間取る場面もあるにはあるが、ダンジョン産の素材をふんだんに使用したこちら側の装備の前では、支配地域から接収した装備を使う魔王軍とは天と地ほどの差がある。また、装備や武器の故障には、すぐさま対応できる体制と維持している私たちと、故障すればそれまでの魔王軍とでは、それだけでも軍の士気が大いに違ってくる。魔法軍の構成の大半が魔物なので、士気があるのかが疑問があるが。
兵站の維持にしても然り。兵站の中でも、特に食料の供給は、軍を動かす者にとっては頭の痛い問題でもある。現地の食料を接収すれば、そこで暮らす者に反感を買うことになる。対して、自国や生産基地から輸送すれば、戦線が移動すればそれだけ補給線が伸びていくことになる。そうすればおのずと、補給路を叩く作戦が発動するため、輸送費がかさむ結果になってくる。
この問題について私たちの軍では、転移門という荒業で解決しているが、魔王軍の方ではどうなんだろう?
疑問に思ったことは、即調べるのが私の癖だ。
早速調べてみると、海の向こう側の大陸から王都までは補給船が行き来していることが解った。王都周辺の田畑は、魔王軍侵攻の折に踏み荒らされて使い物にならない状態らしい。王都から先に輸送については、どうも奴隷にした我が国民たちを使って、陸路で輸送をしているみたいだ。
そこで考えたのが、オーソドックスに補給線を叩くことだ。
まず初めに、魔王軍が支配している地域において、町や村の周辺はとりあえず無視しておいて、その周りにある草原や荒れ地、森などをこちら側の支配地域にしていく。この工程は秘密裏に行っていき、戦闘もなるべく避けるようにする。そうして徐々に切り崩していき、魔王軍が兵站輸送に使用している街道脇まで軍を進め、輸送部隊を待ち伏せにする。
輸送部隊が通過するときに攻撃し、物資を横取りしていく。
あとは、町や村を包囲して兵料攻めを行えばいい。
ここまでは何処の国でも行っている、補給線叩きの方法なのだが、私たちにはもう一仕事残っている。それは、奴隷化された住民たちの解放である。『隷属の首輪』というスキルの効果を無効化するには、私が持っているような特殊スキル『スキル操作』もしくは、奴隷商人が持っているスキル『隷属の首輪』でないと開放することができない。なので、この作戦に関しては、現場の部隊の中に1人は奴隷商人を入れる必要がある。
大多数の奴隷商人たちは、とても協力的で見返りを求めてくるものもいない。それは、商売上いろいろなやっかみや恨みがあるからだろう。こんな時にでもなければ、人を助けることはできないと思っているのだろう。地球の知識がある私からしてみれば、一部の奴隷を除き、地球における刑務所よりも自由があると思う。さすがに犯罪奴隷はいろいろな制約が施されているが、借金などで奴隷に落ちたものは、主人の裁量内である程度の自由があるのだ。現に私の店で働いている奴隷たちは、犯罪行為以外は何をしていても自由にしている。
しかし、何処にでも馬鹿な行動をとる者はいるのだ。
これを機に、違法に奴隷を集めようと画策した奴隷商人もいた。中には、同行する部隊に賄賂を手渡して、融通してもらおうとする者や、逆に賄賂を要求する部隊もいた。彼らは見つけ次第、すぐさま公開処刑で火炙りや斬首にしたが。もちろんこの行為の先で奴隷を買った者たちには、身分を問わずに犯罪奴隷として鉱山送りの刑になっている。鉱山の場所は、カイベルトダンジョン内にある最も過酷な鉱山だ。この行為で取引された奴隷は自由にしてあげた。
閑話休題
この作戦が大きく成功したのが、例の私の指示には従わないと、この貴族連合軍に参加しなかった者たちが担当していた地区だ。最初の1人(私に盾突いたダマントス男爵)の軍勢が、あれから兵站の確保がままならなくなり、1か月後に物資を枯渇させて魔王軍に敗退していった。それに連呼して、周りに固まっていたダマントス男爵派の貴族の軍勢も次々に兵站を枯渇させて敗北してしまう。
そのことを予期してこの作戦を立てていた私は、魔王軍が支配した土地をすぐさま包囲して兵料攻めを行い完全に殲滅をすることになる。本当に無駄な仕事を作ったと愚痴ったりしている。この兵料攻めで少なくとも、奴隷にされた約5,000人の国民が、魔王軍とともに無駄に命を落としてしまったからだ。この作戦を承認したエリザも、心を鬼にして耐えていたように見えた。
戦争に犠牲はつきものというが、無駄な犠牲は今後は出したくないと、私とエリザは心に決めている。
ダマントス男爵一派の敗北劇を見て、泣きついてきた残りの貴族については、連合軍に組み入れてあげた。
現在の最前線は、王都を中心とした半径30~50㎞ほどの場所にある。見通しの良い場所では、遠くに王都が霞んで見えている。王都はもう、目と鼻の先にあるのだ。そのため、中央指令本部の位置も前進しており、現在はタイマン公爵領領都ぺテルワリスから50㎞王都寄り、最前線からは10㎞ほど離れている町【ペンタルウス(タイマン公爵領の南端の町)】の冒険者ギルドの建物内に設置されている。今回は一時的に借用しているだけなので、地下施設は造らず訓練所に設置している。
解放軍の両翼は、海岸線まで進出しており、王都のあるバルモ湾を囲む2つの半島を開放しており、2つの半島の岬の部分では、軍港が整備されている。そして、2つの半島のの岬同士をつなぐ形で、バルモ湾を封鎖する作戦と、輸送艦隊殲滅作戦が同時に始まっている。また、長い海岸線の何処かに、魔王軍が再び上陸しないように、海岸線の防衛も彼らの仕事の1つになっている。
この作戦は、国軍自ら買って出ており、住民の護衛として王都を脱出したのだが、やはり負い目があったのだろう。最も過酷な場所を買って出てくれた。
海岸線の長さは約2000㎞。
そのため、国王様から注文があった20隻の大型戦艦と100隻の駆逐艦、合計120隻の軍船を使用することにした。120隻とも既に完成しており、あとは引き渡すだけの状態だったのだが、引渡し前に王都が魔王軍に支配されてしまい、そのため亜空間にあるドックで保管してあったのだ。一応空も飛ぶことは可能だが、今回は海の上の防衛に専念してもらっている。
この軍船を動かすための専用のスキル習得は、カイベルトダンジョン351階層の大海原での秘密特訓において実施済みである。もちろん、例のボスイカの討伐も、訓練の卒業試験として実施した。
約2000㎞ある長い海岸線の沖合に、新造の20隻の大型戦艦と100隻の駆逐艦、そして生き残っていた海軍のガレー船型軍船約50隻が展開して警戒網を敷いている。これらの船で、我が国に近づく魔王軍の補給船を殲滅するのだ。
空の守りは、私が保有する空中移動要塞『ラングレイ』と、勇者一行が保有している魔道船『ア〇カ〇デ〇ア号』で対応している。
つまり現状、王都を完全に取り囲んでいる状態であり、魔王軍の兵站輸送路は、陸と海に関しては完全に封鎖している状態だ。私たちも行っている、空間魔法を使用した輸送についてはどうすることもできないが、陸海空からの輸送については何とか対応できる状態だ。
一番の問題は、国境線の警備だ。我がバーランチア王国は、後王都を残すのみで魔王軍の支配を解放しているが、国境の向こうはそうではない。国境の向こう側は、今でも魔王軍の支配地なのだ。偵察した結果、ゲリラと化した元国軍や貴族軍が、散発的に魔王軍と戦闘をしているようだが、あまりいい結果を残していないみたいだ。
手助けしてあげたいのだが、国土の全土を解放したわけでもない。王都を解放した後、ある程度復興ができてからでないと、国境を超えて解放の手助けをしないというのが、私をはじめとした解放軍の幹部の相違でもある。
つまり、我が国としても、まだまだ隣国を助けるまでの余力はないのだ。
背後を攻撃されてはたまらないため、海岸線の警備とともに国境警備は最重要課題となっている。警備については、国境沿いに領地がある辺境伯の軍に一任している。彼らには、王都解放軍に与えてある装備のほか、警備上必要を思われる魔道具のあれこれを貸し与えている。
王都からの距離が20㎞をきると、魔王軍の抵抗が過激になってきた。双方ともに、戦力が集中してきたからだ。町や村の建物に対する被害も無視できなくなり、ある町では、解放軍が街に入城すると、いきなり爆破されるといった事もしばしば起こっている。
もちろん魔王軍の仕業だが、その方法が残忍なのだ。彼らは、人族の国ならば禁忌魔法に指定されている極悪魔法を使ったのだ。
奴隷化した住民に対し、奴隷から解放した瞬間に住民の体内に存在する魔量を暴走させ爆発させる。それをトリガーとして、町や村の中に漂う魔力を火属性に変換して大爆発をさせるという残忍な広域殲滅魔法を仕掛けていたのだ。
その被害は、爆発の範囲にいるすべての生物や建物を無に帰すほどだ。
私は、総大将たるエリザに進言する。
「現状、町や村、集落に残されている奴隷たちは、すでに人として生存することはできない。なぜならば、奴隷から解放した瞬間、広域殲滅魔法のトリガーにされてしまうからだ。彼らを奴隷から解放することは、すなわち命を刈り取ることと同義と考える。
よって私は、今後王都まで点在する町や村、集落に対し、開放するのではなく、其処の残っているだろう奴隷たち元住民とともに、破壊してしまうのが望ましいと考える。」
私の進言に対し、エリザは、苦渋の決断をした。
「これより先、王都までに点在している町や村、集落に対し、中で暮らしている者たちを含めて、すべてを広域殲滅魔法や、広域殲滅を可能とする魔道具での破壊を命じます。
仮に、王都内でも同じ状態ならば、王都の破壊も容認します。」
エリザが決断してから、点在する町や村に対し、警告なしの遠距離破壊が始まる。こちら側の被害をなくすためとはいえ、軍全体が浮かない顔になっていく。中には、元家族や恋人、故郷を破壊しなければならなかった者のいるのだ。
更地になった大地を進軍して1か月、私たちは王都の外壁に取り付くことができた。
いよいよ王都決戦である。




