王都を解放しよう(その1)
王都の外壁は、無残な姿を晒している。
高さ20mほどあった外壁は、その基礎の部分を残してすべて破壊されており、今は瓦礫に山と化している。その瓦礫の山から中を覗けば、名前も知らない肉食の魔物たちがうようよと彷徨い、近づく物を片っ端から捕食している様子が見て取れる。約1匹が。体の形はそこらにいるトラそのものだ。顔つきは、トラとトカゲを足して2で割った感じ。ちょっとグロテスク。大きさは…、とてもでかい。大きな一軒家が歩いている感じだ。
その巨大な1匹の魔物。…広大な王都の外壁際から、内壁近くに見える一際大きな魔物に狙いを定めて鑑定をかけてみた。
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【魔物名】タイガードラゴン(Lv990)
【討伐ランク】SS
【討伐報奨金】??
【討伐証明部位】??
【素材価値】??
【特徴】ポイステリア大陸にある大森林地帯に生息する、保護色を持つ白色と黄色の鱗に覆われいる4足歩行のドラゴン。成獣での平均体長約50m、体重約100t、全高約10m、全幅約5m。
空を飛ぶ事と、ドラゴン種の特徴であるブレスを吐く事はできないが、走る速度は陸上生物の中では最も速い。瞬間最大速度は、120㎞/hを超える事もあり、平均80㎞/hで1時間ほど走ることができる。その巨体で走る際には、大地が大きく揺れ、獲物となった獣たちの行動を大きく妨害する。
泳ぐことが苦手なため、海を渡ることができず大陸間を移動することはない。
ポイステリア大陸では、食物連鎖の頂点に君臨しており、すべての生物に恐れられている存在でもある。
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「なに、?こいつ?」
鑑定けった、最初にそんな事を呟いてしまった。
「アスカさん、あの魔物…。いったい何ですか?私の記憶では、この大陸には生息していない魔物のようですが。」
「ああ、エリザ。あいつはタイガードラゴン。ポイステリア大陸にある大森林地帯に生息している魔物みたいだよ。」
「ポイステリア大陸というと、魔王が最初に支配した大陸ですか?」
「…そう、その大陸に生息している魔物だよ…。」
「なぜ、そんな魔物が、この大陸にいるんですか?」
「そんなこと知らないよ。…あいつは空を飛べないし、泳ぐことも苦手だから、普通ならば大陸間を移動なんかできないはず。
どうして、こんなところにいるんだろうね?」
何故ここにいるのか解らない。3日ほど前に偵察した際には、こんなやつはいなかった。この3日間のうちに、新たに王都に連れてこられたのだろう。3日前には1万匹近くいた魔物が今では数百匹にまで減っているところからして、あいつの胃袋に収まってしまったのだろう。それに対しては、あいつに感謝を送らなければいけない。
…大方、魔王軍の誰かが使った転移魔法の範囲に、たまたまいたのだろうと推測してみる。転移魔法を使用した魔法軍の誰かも、こいつが転移されてきたときには、たぶん腰を抜かしたのだと思う。
そして、どうにもできないため、そのまま放置しているのが現状だろうか?それとも、真っ先に食われてしまったのか?
…、まあ、どっちでも構わないが、とんでもない置き土産を置いて行ってくれたものだ。
そんなことを考えている時、件のタイガードラゴンが動き出した。
移動先は、王都の内郭の中心にあるバルモアス城だ。
こいつが1歩踏み出すたびに、大地が大きく揺れており、王都内の建物がいくつか崩落している。その揺れが、王都を取り囲んでいる私たちにまで届いてくる。まるで、大地震のような感じだ。
内郭の一番外側、住民区を囲む第5区画の壁は、こいつにより破壊されているようだ。何処まで破壊されているのかはここからでは確認できないが、こいつが歩いて行ったあとは、すべて瓦礫に山と化しており、王都の景観は見る影もなくなっていた。
そして数分後、バルモアス城にタイガードラゴンがたどり着いた。
とたんに城内から数々の魔法が飛び交い、タイガードラゴンに襲い掛かっている。しかし、タイガードラゴンは、意に介することもなく突き進み、城内にある建物を破壊している。何やらごそごそと、口を建物のがれきの中に突っ込んでいたと思うと、小さな黒い塊を咥えていた。
何だろうと、目に魔力をまとわせて望遠魔法を発動させてみると、それは数十人の人型の生物が、何らかの方法で一纏めにされていた。その一纏めにされている1人が、必死になって何やら魔法を浴びせているみたいだが全く効果がなく、魔物の口の中へと消えていった。
「・・・・」
しばらく言葉をなくす私たち。
まずあいつを何とかしなければならない。王都を取り囲む連合軍も、あいつをどうにかしないと近づく事も困難だと認識している。さらに、王都から出してはいけないということも。
また、あいつが破壊の限りを尽くしている王都には、もう生存者は魔王軍を含めていないことも、なんとなくだが理解していた。いや、そう理解するしかなかったというのが正解だろう。
「とりあえず、あいつが王都から出ないように、結界を張りたいと思います。」
そう宣言した私は、最大出力でもって隔離結界を発動させた。
王都の崩壊した外壁沿いに張られた100層にも及ぶ連続複合結界だ。
ラグナレシアにおいて生息している生命体で、最強にして最凶である存在であった『全属皇帝九頭竜』の攻撃にも耐える結界だ。
「存在であった」といったのは、この世界における神々の代行者である全属皇帝九頭竜は、私が技能神の代行者になった時に喧嘩を売りに行き、私の僕に成ってしまったという落ちがある。つまり、今の現状ラグナレシアで最強で最凶である存在は、私ということになる。
まあ、その話は今はどうでもいい事だし、これから先も知れ渡ることはない私の黒歴史の1つでもある。
「一番手っ取り早い方法は、元いた生息地に送り返すことですが…。残念ながら、何処にいたのかが解りません。
よって、この場で討伐しようと思います。」
討伐する方向での緊急会議をしている間、討伐対象であるタイガードラゴンは、結界内を暴れまわり、王都の建物をすべてを破壊し始めた。結界に隔離されたことにより、タイガードラゴンがどれだけ暴れまわっても、結界の外側の大地が触れることはない。しかし結界内では、巨大地震が起こった時のように、大地が大きくうねり、その衝撃で建物が瓦礫と化していっている。あれでは、中にいる魔王軍は、何もしなくても壊滅しているだろう。
「アスカさん、誰があれを討伐するのですか?」
「狐とエルフの落し児が討伐しもいいのですが、ここは、実戦訓練の一環として、勇者様一行にやってもらいましょう。あの程度なんとかできないようでは、とても魔王と殺しあうことは不可能ですからね。
…ということで、キョウスケ。」
「なんだ?アスカ?」
突然話をふったにもかかわらず、会話に参加するキョウスケ。」
「ちゃっちゃとあいつを、倒してきなさい。
残っている建物については、なるべく残そうなどと考えなくてもいいです。どうせすでにあの化け物によって、7割以上が瓦礫の山と化しています。また、この巨大地震のような揺れが、すでに30分以上も続いています。残っている建物も、安全に使用することが困難な状態でしょう。どうせ壊して一から作り直しですから、どんどん破壊してもらっても構いません。
…本音を言うならば、以前王様と私が中心となって計画した、王都全体の再開発計画では、現状の建物では半分近く移動をしなければいけないことが解っています。中途半端に残っているくらいならば、すべてが瓦礫の山になっていたほうが、いろいろと工事がやりやすいというのがあります。」
そんな会話をしている途中に、貴族の誰かが会話を割り込んできた。
「アスカ殿、1つ質問があるのだが。よろしいか?」
「何でしょうか、え~~と。アッヘン伯爵?」
名前を度忘れしていた私に、苦笑を浮かべながら質問してくるアッヘン伯爵。
「いいですよ、しっかりと自己紹介をしているわけではありませんから。私ですら、この国にいるすべての貴族の、名前と顔が一致しているわけではありません。名前を思い出してくれただけでも僥倖です。
質問というのは、王都に住んでいる、いや、今の現状では住んでいたというのが正しいですね。王都に住んでいた市民たちは、いったい何処にいるのでしょうか?避難してきた市民の数と、実際に王都に住んでいた市民の数が、あまりにも違いすぎているので少し疑問に思っていました。」
「ああ、そのことですか。私が軍師に任命された時に頂いた手紙にこう書かれていました。
『王都守備兵10万のうち、約半数の5万人が戦死。
王都市民約100万人のうち60万人(うち民間人は約50万人)は、アスカ殿が構築した避難施設に収容することに成功。初期戦闘時に於いて、約20万人(民間人は約15万人)が戦死した模様。国王以下王族お呼び、アスカ殿のお店にいる従業員については、全員の生存を確認。
残りの20万人(各貴族の家族お呼び城内従事者約1万人は全員)については、斥候による調査の結果、魔王軍の奴隷となっている模様。奴隷になった後の詳細については不明(現在調査中)。』とね。
この件については、連合軍を組織するときに、中心的なメンバーにいた者以外が教えていません。タイマン公爵様からの進言で、事実を知れば兵全体の士気にかかわる可能性があるからと。」
「そうですか、アスカ殿の話を要約すると、王都市民の約6割は無事であり、約4割が、初期戦闘時において戦死もしくは奴隷になったと。」
「はい。そう考えていただいて結構です。それから、避難施設のっで入り口は、王都内の各所に設置してありましたが、王都の外から入ることができない仕組みになっています。そのため現在、避難施設との連絡が一切できません。避難した市民の中でどれだけの市民が、この6か月間のうちで亡くなったのかを知る術はありません。
避難施設に入れるのは、魔王軍の襲撃前に、王都に住んでいたもしくは、何らかの目的があって王都に来ていた者たちに限られています。したがって、魔王軍に属している者が、避難施設に侵入することはありません。また、奴隷にされたものは、その時点で魔王軍関係者となるので、奴隷を介して避難施設に入る事もできません。
もう1つ、残念なお知らせがあります。」
「残念な知らせとは何でしょうか?アスカ殿。」
「はい。現在の王都は、見ての通り瓦礫の山と化しています。何処に出入り口があるのかは把握していますが、その出入り口が使用可能な状態で残っている保証がありません。出入口自体は破壊されることはないのですが、偽装するためにあった建物は普通の建物です。なので、瓦礫の山から出入り口を発掘しなければいけません。
まあ、この件については、あれを何とかした後でもいいでしょう。
そういうことでキョウスケ。ちゃっちゃとあいつを、倒してきなさい。」
「はいよ~~。アスカには敵わないからな。言いつけ通りに、ちゃっちゃと倒してきますよ。」
勇者5人組は、数秒間だけ一部が開かれた結界の中に入っていった。




