ダンジョン内で生産しよう!!
「では、軍師に任命されて初めての仕事をしましょう。」
エリザを落ち着かせたあと、私はこう切り出して今後の予定を話していく。
「先んず始めたいと思うことは、軍需物資の補給及び量産についてです。」
「軍需物資とは何ですか?アスカさん?」
頭に大きな?マークを作ったエリザが聴いてくる。こういう場合は、1つ1つ疑問点を与え、自らの力で疑問を解消していったほうがその人の力になっていく。
「ではまずエリザの疑問を解決しましょう。大将たるエリザが何も知らないのでは、これから先の行動にも支障が出かねません。
では、こちらからエリザに質問しますが、エリザは今まで従軍経験はありますか?」
「いえ、ありません。そもそもここ100年ほど、この国では、大きな戦果を経験したことがありません。」
予想した答えが返ってきたところで、改めてエリザに質問を投げかける。
「では、改めて質問していきましょう。
軍隊行動にしろ、冒険者の活動にしろ、『人』が何処かに移動するにあたり、何が必要だと思いますか?」
私の問いに、エリザが答えていく。
「…そうですね。先んずは、移動する日数に合わせた食料は持っていかなければいけません。
冒険者の場合は、本拠地から、討伐対象となる魔物までの距離の往復分の移動日数と、予想されるその魔物との戦闘の日数。それらを足した日数に、不測の事態に備えた予備の日数を足した分だけ食料を持っていかなければいけません。
…次に必要なのは、武器屋防具類でしょうか。アスカさんとともに行動していて理解しましたが、メインで使う武器のほかに、数種類の武器を携帯しておかないといけない事が解りました。ここの街中やギルドでよく観察してみると、約3割くらいの冒険者が、数種類の武器を何時でも使用できる状態で携帯していますね。私も、ダンジョンに潜って初めて理解しましたが、攻撃手段は多ければ多いほど、こちらが有利に戦闘を運ぶことができます。
防具についても、武器と同じことが言えます。防具に付随して、着替えも何着か用意しておかないといけません。また、武器屋防具を応急的に修理する道具も持っていたほうがいいですね。
焚火を熾すための薪は現地調達が可能ですが、場合によっては持っていかないといけませんね。
まだ、自立走行型魔道馬車を持っている冒険者パーティは少ないと聞きますので、これらのことを考えていくと、数日間の行動でもすごく嵩張りますよね。それを考えると、アスカさんから頂いたこの『天衣の羽衣』はとても便利ですね。空間魔法を持たない者でも、自分の荷物を食料品以外は持ち運ぶことができるのですから。
それが軍となると、…そもそも行動を共にする人数が桁違いに多いですから、持ち運ぶ荷物だけでも相当な数だと思います。」
エリザの答えに満足する私と伯爵。その答えに私は、少し付け足していく。
「エリザの答えは、100点満点中70点を差し上げましょう。私たち『狐とエルフの落し児』は、全員が空間保管庫が使用できるので、これらすべての事柄を解決していますが、世間一般の冒険者は、空間保管庫どころか、空間保管庫の劣化版のアイテムボックスすら持っている者がいませんからね。自分たちの荷物を運ぶだけでも一苦労していると思います。
つい最近マツリが、私の作った『天衣の羽衣』を改良して『空間保管機能付き腕輪』を発明して、この町で購入した屋敷の一角で経営している『秘密の隠れ家』カイベルト支店で売り出したところ、100,000レシア(金貨10枚)という値段設定にもかかわらず、飛ぶように売れているみたいだからね。
話がそれたけれど、これからの計画としては、まず軍需物資の増産をこの町で行いたいと思っています。」
「アスカ殿。この町でをおっしゃいましたが、この町の生産能力では、そもそもアスカ殿が計画している量を作り出すことは無理があります。その辺のことは、どう解決していくおつもりですかな?」
伯爵が、この町の生産能力を鑑みて、私に質問してきた。
「それについては考えていることがあります。
この町には、ダンジョンという亜空間に広がるとてつもなく大きな土地があります。私の計画では、ダンジョン内に生産区画を設けて生産すれば、計画量を計画した日数で生産することが可能です。」
そして私は、ダンジョン内での生産区画整備と、人員の確保等を話していく。
この計画は、エリザ、私、伯爵の合意の元、極秘裏に進められた。
ダンジョン内での生産計画が始まって30日が経った。
その間、まず私がしたことといえば、カイベルトのダンジョン内に巨大な食糧生産施設と、武器などを作る工房を建設したことだ。建設した階層は、農場及び牧場が26階層の草原フィールド、武器工房が27階層の荒野フィールド。28階層の湿地帯には稲作用の田圃を設置し、29階層の海原フィールドは、魚貝類の養殖場とした。武器の素材なる鉱石は、下に潜るほど良質な鉱石が採掘できるため51階層とし、オリハルコンなどの上位鉱石は、それぞれ採掘できる階層が異なるため、それぞれの階層での採掘となっている。
「ミヤビ、どんな感じ?」
26階層の農場で、野菜の発育状況を見ていたミヤビに声をかける。
「お姉ちゃん。まだ開墾を始めて30日ほどだけど、一部の作物はすでに収穫可能だよ!さすが、ダンジョン内の不可思議空間だね。ゴブリンちゃんたちの働きもあるけれど、あたしのスキルと合わせると、とんでもなく早く成長させることができるよ。
28階層で育てているコメは、収穫までにあと1か月ほどかかるね。」
農業区画や牧場区画の従業員は、たくさんの人員を確保する必要があるため、この階層にいた人型魔物を総動員している。奴隷を使うのもありなのだが、このダンジョン内にいる魔物ならば、食事を心配する必要がないからだ。
「そう?まあ、はじめての経験だからね。確実に成功させていこう。
今現在、どのくらい兵糧が貯まっている?」
「兵糧?…そうだねえ…。現状計画量の約1割というところだね。計画量まで兵糧を貯めるとなると、約、2か月間はかかる計算だね。もっとも、農場の面積を今の5倍ほどの拡張すれば、1ヶ月くらいは短縮できると思うよ。」
「拡張ですか…。
じゃあミヤビ、この階層の農場の拡張お願いできる?ついでに、28階層の田圃も拡張しておいてね。」
「了解。早速明日から開墾を開始するね。」
27階層に造られた生産施設群。
巨大な湖(淡水湖エリアだった158階層にある湖の1つから転移魔法で水を引き入れた)を背景に製鉄所がある。製鉄所には、各種金属別に大きさの異なる高炉が乱立している。大量に発生する水蒸気を使用した発電所が併設されており、工業区画のすべての工房に電力を供給している。製鉄所で作られた金属は、工業区画を走る無人の鉄道に乗せられ、各武器工房や武具工房に運ばれる。
此処の工業区画には、カイベルトにいたすべての職人が工房を移しており、各工房と此処の工房との間には、専用の転送門が設置されている。これは、私たちがこのダンジョンを制覇した際、ここのダンジョンコアの管理人が私になったためだ。そのため、私が指定した者は、指定した区画にだけは無条件で行き来することができる。
ダンジョンの各階層や出没する魔物等の構成は何も触っていないので、此処カイベルトダンジョンのレベルは、私たちが攻略したころより何1つ変化していない。
金属の原料である鉱石や高炉を動かすための石炭などは、それぞれ採掘できる階層で、そこにいる魔物を使って採掘をしている。もちろん採掘した鉱石や石炭は、水と同じように適量高炉内に、直接各階層に造られた集積所から転移されていく仕組みだ。わざわざ、2つも3つも集積所を作る必要はないからね。
話は戻すが、此処が稼働し始めてまだ10日ほど。農業区画よりも稼働し始めた日数が短いのは、単に設備を作るのが大変だっただけである。それでも、一日に生産される金属の量が、此処が稼働する前よりもはるかに多いため、すでに剣や農機具などの製品がすでに元来の生産量よりも多く、また高性能の製品を供給している。
現在、設備をフル稼働させた結果、討伐軍専用の装備は約1000人分確保されている。計画数は初回配備分で1万人前後なので、まだまだ1割ほどしか確保できていないのだが。この感じだと、あと1ヶ月ほどで計画数を上回る予定なので、そのころには農作物も十分確保できるだろう。
それはいいとして、その副次効果でダンジョンを攻略する冒険者が使用する装備もグレードが上がり、攻略階層が進んでいる。
ただ、深くなればなるほど生息する魔物やモンスターのレベルも上がってくるので、冒険者たちの平均レベルを鑑みると、300階層を超える事はできないだろう。
300階層を超える事ができても、その下に控える351階は、運と実力と空中戦闘スキルか、水中戦闘スキルがないとあのボスイカを倒すことは不可能だろう。
そして、約1か月後。
すべての準備を終えた私たちは、最前線に隣接している町、タイマン公爵領領都ぺテルワリスに到着した。




