王都からの早馬
カイベルトダンジョンを攻略してから10日余りが経った頃。突然私たちは、迷宮都市カイベルトの領主であるワトス=ポインテール=サレアレド。つまり、アケミの父親に呼び出され伯爵邸に来ていた。呼び出しを受けたのは、私とエリザの2人。後の6人は、今日もまったりとダンジョンに潜ったり、町を散策しているだろう。
そして、通された部屋は、謁見の間ではなく、伯爵の執務室だったことから、公的な要件ではないが、緊急性の高い要件なのだろうと予想はついている。
社交辞令を加えつつ、しばらくはダンジョン攻略の話や、近況報告をした後、頃合いを見て私はこう切り出した。
「…ところで、今回の緊急の呼び出しの件ですが。世間話をするだけではありませんよね?それならば、別に緊急招集しなくてもいいですので。」
「やっぱり気が付いておいででしたか?
その通りです。今までの会話は、ただの前置きみたいなものです。ここからが、今回アスカ殿とエリザベス様をお呼びたてした要件をお話いたします。」
そう前置きをして、伯爵は話を始めた。
「本日の早朝、王都から早馬がこの街にやってきました。
此処最近ならば、早馬ではなく、路線バスに乗せて手紙などは運ばれてくるのですが。そのほうが、確実に早いですからね。それなのに、今回は早馬でやってきたことで、王都方面で何か重大なことが起こっていると予想がつきました。
王都やその周辺部では、アスカ殿が出資し整備を担当しているおかげで、情報伝達システムに革命が起こっていますが、まだまだ地方にはその恩恵を受けておりません。したがって、王都から各地方都市への情報伝達は、昔ながらの早馬に頼っているのが現状です。それが、最近では、路線バスに乗せることで、だいぶん改善されてきていたのですが…。」
「…確かに。それはおかしいですね。昔ながらの早馬に頼ってくるとは。
順次整備は進めてはいますが、…この国の国土はとても広いですからね。王都周辺部から順に、整備を行ってははいますが…。はっきり言って国土の端っこのこの町までは、まだまだ整備は数年後の先になってしまいます。」
伯爵の言葉を補足するように、私が相槌を打つと、伯爵もその通りだと頷く。
「そのことについては、仕方のないことだと割り切っております。全く新しいシステムを構築するには、時間とお金、それと人員がかかりますからね。
それで本題なのですが、此処に、今朝がた早馬で届いた緊急伝がございます。」
そう言って伯爵は、懐から4通の手紙を机の上に置いた。その手紙のうち2通は、赤色の封筒に入れられ、今は破られてはいるが、王家の紋章が押された封蝋がしてある手紙だった。後の2通は白色の封筒に入れられている。
「赤紙…。」
エリザがぼそりと呟いている。私は初めて見るが、エリザの様子から察するに、とても重要なことが書かれている手紙なのだろう。
「これは?」
何も知らない私は、伯爵に質問を投げかける。
「この国では、伝令や早馬に託してやり取りしている手紙について、4つの基準がございます。その基準はそれぞれ、封筒の色で分けられています。白色が一般報告、青色が重要案件の報告、黄色が緊急報告、赤色が戦時緊急報告となっています。」
「伯爵の説明から行けば、今回は赤色の封筒に入れられてきています。ということは、王都で何かあったということですね?
ところで、この手紙の中身、私が読んでも差し支えはないのでしょうか?」
「それについては問題ありません。中の手紙にも書かれていますが、この手紙を読んでもいい者の名に、アスカ殿とエリザベス様の名前がしっかりと記されております。」
「そういうことでしたら、拝見させていただきます。」
私は、伯爵に断りを入れてから、手紙を開いた。
封筒の中には、十数枚の手紙が同封されており、一枚目は王都の近況報告みたいなものだった。赤い封筒に入れられていることから、緊急性の高いものなのだろう。
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戦時緊急伝(第13445号)
発行日 446年8月10日
発行者 バーランチア王国国王 カリオスト=カトレシア=バーランチア
8月1日未明、王都に魔王軍約2万が来襲。
善戦空しく、魔王軍の蹂躙により王都は壊滅。王都守備兵10万のうち、約半数の5万人が戦死。
王都市民約100万人のうち60万人(うち民間人は約50万人)は、アスカ殿が構築した避難施設に収容することに成功。初期戦闘時に於いて、約20万人(民間人は約15万人)が戦死した模様。国王以下王族お呼び、アスカ殿のお店にいる従業員については、全員の生存を確認。
残りの20万人(各貴族の家族お呼び城内従事者約1万人は全員)については、斥候による調査の結果、魔王軍の奴隷となっている模様。奴隷になった後の詳細については不明(現在調査中)。
現在は市街戦を敢行し、散発的に反撃をしているが、戦果は芳しくない。
アスカ殿率いるパーティ『狐とエルフの落し児』については、王都奪回作戦に参加を要請する。
勇者一行は、クレアレド聖王国に出立する直前に魔王軍が来襲。現在は、最前線の戦線維持に奮闘中(最前線は広範囲に及んでいるため、現在何処にいるのかは不明)。
追記
クレアレド聖王国について記す。
クレアレド聖王国及び周辺国家は、現在その全域を魔王軍の占領下にあり、各国国内情勢等詳細は一切不明(現在、わが国にも魔王軍が襲来したため、調査等は一切行っていない)。1ヶ月前の報告によると、各国の王族はすべて魔王軍により処刑された模様。なお、処刑を逃れた王族は、魔王軍により指名手配されており、拘束され次第順次処刑されている模様である。
現在、亡命等により、その存在がはっきりしている王族は、キャナルシア=アーレル=キサラギ=クレアレド1人のみ。
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「なんか、私たちがダンジョンに潜っている間に、相当きな臭くなってきていますね。ここら一帯はまだ平和ですが、そのうち戦渦に巻き込まれていくんでしょうね。」
近況報告を読んだ私の、率直な感想がこれだ。後の数枚の紙は、『戦時緊急人事指令所』と各紙の上のほうに書かれている。そのうち2枚は、国王の名で人事指令が書かれているが、起こりの10枚前後の紙は、何も書かれていない白紙の紙だ。そのうち、指令が書かれている二枚を取り出して、内容を確認してみる。
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戦時緊急人事指令所(第17552号)
発行日 446年8月10日
発行者 バーランチア王国国王 カリオスト=カトレシア=バーランチア
エリザベス=カトレシア=セルア=バーランチア
上の者を、王都バルモアス及び、周辺部の魔王軍討伐軍総合司令官に任命する
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戦時緊急人事指令所(第17552号)
発行日 446年8月10日
発行者 バーランチア王国国王 カリオスト=カトレシア=バーランチア
アスカ=ラングレイ=ヨシオカ
上の者を、王都バルモアス及び、周辺部の魔王軍討伐軍軍師に任命する
追記
奪還作戦上、必要とする人事権については、戦時特別処置法第55条により、総合司令官の名に於いて、軍師が任命することを可能とする
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エリザが、大将に選任されるのはまだわかる。この国の次期国王だ。たまたま安全圏にいた王族を旗印に、奪還作戦を行うのはいい。それよりも、何故、私が軍師に任命されなければならないのか?私は今まで、軍隊じみた行動は、一切行っていなかったはずだ。
その答えは、私に宛てられた手紙の文面で判明したが。
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拝啓
アスカ=ラングレイ=ヨシオカ殿
このたび、貴殿を魔王軍討伐軍軍師に任命したのは、先日行われた模擬戦闘訓練に於いて、貴殿が指揮した隊が優勝をしたからだ。
その訓練で、貴殿の持つ軍隊統率力、作戦指揮力等を考慮し、今現在この場にいる宰相と協議した結果、魔王軍と戦闘を続けている貴族連中を統率できると踏んだからだ。
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追伸
今回の戦闘では、まだまだ年若いエリザを大将に据えなければならなくなった。アスカ殿には迷惑をかけると思うが、どうか、エリザを支えてやってほしい。
そして、この戦闘が、エリザにとって、次期国王と苗うための布石になればいいと私は考えている。
446年8月10日
バーランチア王国国王 カリオスト=カトレシア=バーランチア
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国王様にお願いされたのならば、頑張ってエリザを支えていかないといけないかな。
そう思い、エリザを見てみれば、なんかワナワナと体が震えだしている。
これは、暴走一歩手前と見た。
此処で暴走して戦場にかけだしてしまえば、勝てる戦争も勝てなくなってしまう。まさかこんなところで、キョウスケたちと地球で遊んでいた戦争シミュレーションゲームが役に立つとは思わなかった。どこかで戦っているだろうキョウスケ。お前たちも、このゲームの知識を如何なく使っていることだろう。
その前に、
「エリザ、とりあえずは、一杯飲みなさい。
今は『待ち』の時ですよ。
しっかりと事前準備をしてから、戦場に行かなければなりません。私たちには、準備をする時間がたっぷりとあるのですからね。
準備をしっかりとしないと、勝てるモノも勝てなくなりますよ。」
「でも!!」
「でもじゃありません。
誰も、助けに行かないとは言っていません。今は『待て』といっているのです。
大将が脳筋ではいけません。大将たるもの、全体を見渡す能力を持っていなければいけないのです。現場は、脳筋に任せておけばいいのです。大将たるもの、どんな時でもデンと構えていなさい。
さあ、まずは、頭を冷やすために、冷たいお茶でも飲みなさい。」
「…はい、アスカさん。」
私は、今にも飛び出していきそうなエリザに、冷たいお茶を飲ませて頭を冷やさせる。
さて、どんなさくせんをたてようかな。私は、ゆっくりとお茶を飲みながあ、頭の中で王都解放作戦の工程表を立て始めた。




