アスカと腐れ縁たち(その2)
翌日の朝食の後、私たちとキョウスケたちは、町の郊外にある闘技場に来ていた。
『勇者様たちの実力を見てみたい』という建前の元、私の正体に全く気付いていないおバカな2人に制裁を加えるためだ。
すでに私たちの正体を見破っている2人には、制裁はなしの方向で行くが、その時の気分でやっちゃうかもしれない。
まあそれはいいとして。
現在私たちは、武闘台の端に並んで対峙しているわけだが、まだおバカな2人は私たちの正体に気付いていない。つい先ほど、入口からここまでくる間に、
「君たちはいったい誰なんだい?
俺たちの事を知っている口ぶりみたいなんだけど。俺には、こんなかわいいキツネちゃんやエルフちゃんの知り合いはいないのだけど。
『アスカ』という名前の人物には心当たりはあるんだが、…あいつは男だしな。それに、マツリ・ミヤビ…どこかで聞いたことのある名前だが、…思い出せない。」
こんなおバカなことを、キョウスケの口から聞けるなんて夢にも思わなかった。
君…。2人の嫁さんと毎晩激しく運動しているみたいだけど。その運動で、頭までおかしくなっちゃったんだろうか?
昨日も激しかったみたいだし。
まだあれから2~3年しか経っていないよ?
頭の中まで桃色一色なの?
この発言には、私たちはおろか、キョウスケの味方であるアヤカやアリサも言葉を失っていた。
さらに、キョウスケの発言に同意しているおバカが1人。
唯一取り残されたお姫様2人は、われ関せずといった態度で、仲良く談笑していた。いつの間に仲良くなったのかな?エリザとキャナルさま。
この時私の中で、おバカ2人の制裁ランクが2つ3つ上がっていた。そして、やっぱり女性陣も制裁対象に加えたい思います。連帯責任という事で。
制裁の時間が始まりました。
まずは下準備と秘密裏に行います。
武闘台の周り(大体1mくらい外側)を囲むように特殊な結界でくるりと囲みます。もちろんドーム状になっているため、中にいる者たちは、私が結界を解くか、私が死なない限り出ることも出来ません。
さて、結界に施された機能ですが、まずは安定の『何があっても死ねない』というファンタジーな機能。
これは定番ですね。
ただしちょっと…かな。いや、かなりの鬼畜仕様にしております。
定番モノならば、死ぬほどの攻撃を受ければ結界の外にはじき出されるという感じだが、今回は制裁の意味もあるので、その機能化カットしております。つまり、たとえ首と胴体が離れていようとも、死ぬこともなく、戦線を離脱する事も出来ない。
激痛で気を失わないように、ある程度の激痛以上はカットしております。
この仕様は、結界の中にいる者すべてに対して発動するので、公平といやあ公平になっている。
もう1つの機能は、空間を遮断しており、元の空間に戻ったときは、戦闘で受けた傷や怪我などがなくなる仕様となっております。つまり、首と胴体が離れていても、元の空間に戻れば戦闘開始直前に戻っているという事。なので、どれだけ無茶な事をしても大丈夫だ。
もちろん元の時間の時間凍結もしております。
最後の仕掛けとして、転送した空間は、何処までも続く不毛の荒野にしてあります。
準備が整ったところで、まずは普通に総当たり戦の試合を行います。勇者様の人数は5人なのですが、そこは、制裁の意味を含めて、こちらはフルメンバーで叩き潰す予定です。
さて始まりました。勇者様御一行の制裁大会!(王女様含む)。
まずは、私とキョウスケから行きましょう。
「キ・ョ・ウ・ス・ケ・サ・ン。
まだ私の事、思い出せれませんか?」
「…いや、思い出すも何も、君みたいなかわいいキツネちゃんの知り合いは、俺は持ち合わせていないんだが。本当に、君は誰なんだい?」
「寝言は寝てから言ってくださいな。
その蕩けきった脳ミソでも解るように物理的に思い出させてあげます。もちろん理解できるまで、徹底的に再教育です。」
そう言って私は、右腕を上から下へと動かします。すると、キョウスケを中心に、直径5m、深さ3mほどのクレーターが出来上がりました。中心には、地面に縫い付けられて仰向けに転がる勇者様。私は、そんなキョウスケに対し、呆れ半分で挑発を駆ける。
「どうしたのですか?たかが重力10倍程度、さっさと抜け出してください。それとも勇者なんて大層な二つ名名乗っているくせに、その程度の実力なんですか?これから向かうダンジョン内では、これ以上の重力空間も存在しているんですよ?こんなんでまともに戦えるんですか?」
私の挑発に、地面に縫い付けられたキョウスケが立ち上がろうともがいている。私は、平気な顔をして、重力10倍の空間の中に足を踏み入れる。
サクサクとキョウスケの元まで進む私。
キョウスケの胸ぐら左腕1本で掴んでひきおこし、空いた右手で思い切り殴り飛ばした。10倍の重力空間で、放物線を描きながら再び地面に縫い付けられる勇者様。片手で持ち上げては殴り飛ばすと言う作業を十数回行い、昔のように少しふっくらとした顔つきになったところで地面に転がす。
たかが10倍程度の重力空間だ。なんで動けないんだろうか?
『修行』と言ったら、高重力空間で行うものだろ?
孫〇空だって、100倍の重力空間で修行していたんだから。
実際、マツリやミヤビをはじめとした私のパーティメンバー全員も、50倍程度ならば普通に動けれるよ。最近弟子入りしてきたエリザですら、10倍程度ならば普通に運動できているのに。
現に今この瞬間でも、私たちパーティメンバーは、1つ当たり重力を倍にする魔導具を両方の手足に1つづつ付けているんだからね。合計して8倍の重力負荷をかけていることになるんだよ。それでも普通に運動できるんだからね。
おっと、あまりにヘタレなんで、少し意識が飛んでいましたね。
「まだ私の事を思い出せませんか?」
襤褸雑巾のように地面に転がっているキョウスケに、私はそう問いかける。
「だから、誰何だ?君は?」
予想通りの回答、ありがとうございます。
少し話し方を昔に戻そうかな。
まあ、今のままでいいか。
私は、呆れ混じりのため息をつきながら話していく。
「別れてからまだ2~3年しか経っていませんよ。勇者様?
私たちの会話の端々に、ヒントが散りばめられているのに気付かないなんて、本当にダメな脳ミソですね。あなたの相棒は、昨日のうちに気付いていましたよ?」
反撃すらまとものできない木偶人形は、私に一方的に虐められる。物理的にも、精神的にも。
それでも気づかないとは、呆れてモノも言えない。
「…改めてヒントを出しましょうか。
私の名前は、”アスカ”=ラングレイ=”ヨシオカ”といいます。そして君に与えられているクエスト。そのウエストの表記に、何か変化はありませんか?」
”アスカ”と”ヨシオカ”という単語を、ことさら強調して自己紹介をする。
「クエスト?何故君がそれを知っているんだ?
それに、”アスカ=ヨシオカ”と言えば、やっぱり腐れ縁の悪友の名前だな。でもあいつは男だし。」
目の前にその腐れ縁の悪友がいるのに、いまだに気づかないキョウスケ。
「何故クエストのことを知っているのかは、この際どうでもいいことです。そんなものは、あとでいくらでも調べることができますので。
それよりも、クエストの表記を見て、何か気づきませんか?」
私の問いかけにキョウスケは、急いでクエストの内容を見直しているようだ。虚空を見る瞳が、はたから見れば挙動不審な動きをしている。
そして、該当するクエストを見つけたようだ。
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【神(代行者)からのクエスト】▽△
《クエスト挑戦者》勇者パーティ5人に対して
《クエスト期間》王都バルモアスに到着するまで
《クエスト内容》勇者召喚の際に巻き添えを受けて死亡した者たちのうち、ラグナレシアに転生した20人。その内王都バルモアスに住む10人と連絡を取ること
追伸
転生しているので姿かたちは変わってしまっているが、この10人は、元◯◯なので、名前さえ知っていれば簡単に見つけることができるよ
《達成報酬》???
《達成状況》10人中8人と再会済み(残り2人)
《承諾》Y(承諾のサインは、このクエストを読んだ瞬間とする)
《クエスト発行者》技能神(代行者)
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「《達成状況》10人中8人と再会済み(残り2人)?
この表記は何だ?すでに8人も再開しているぞ?王都バルモアスにはまだたどり着いてもいないのに…。
8人?
1人、2人、3人…王女様を含めて7人。数が足りない…。
いや、昨日は確か王様を含めて…。」
何やらブツブツと呪文のように呟きだしたキョウスケ。
「これでもまだわかりませんか?」
私の問いかけに、キョウスケは答えていく。
「君は、…いや、君達は『転生者』なのか?」
やっと正解の半分を言い当てたキョウスケであった。
なんでこんな簡単な事、言い当てることができないんだろう。
私は不思議でたまらなかった。




