32-巻き込まれた先
エルミアの魔法で出来た道を歩いて行くと、村が見えてきた。
大木に小屋が張り付いたような、これぞファンタジーと言わんばかりのエルフの村だ。
魔物に慣れた今久しぶりに見るファンタジーに、顔がニヤニヤするのを抑えながら、先を行くエルミアに付いていく。
「エルミアか、森はどう……なんだその人間族は」
村の入口に立っていた門番らしきダークエルフに話しかけられる。ヤバイ、なんかあの人凄い睨んでるんですけど。
「えぇ、戻ったわ。そのことも含めて長に報告があるの。通してもらえるかしら?」
エルミアが門番の様子を気にも止めずに言い放つ。暫く訝しげに俺とエルミアを見ていた門番だったが、渋々道を開けてくれた。
エルミアの後に続いて村に入る。通り過ぎる際に「少しでもおかしな行動をしたら……削ぐ」と呟かれた。こ、怖いんですけど。
黙々と歩くエルミアに先導されながら、俺は村の様子を見る。彼女のように斥候として出払っているのか、村に大人のダークエルフが少ない。
広場的な場所を通過した時は、子供たちがはしゃいで遊んでいた。エルフ耳がはしゃいでる姿って、なんか貴重だよな。
そういえばエルフって長命種なんだっけ? 物語に出てくるのは総じて長生きだった気がする。ダークエルフはどうなんだろう。
「エルミア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「長と話した後にね」
声をかけてみたが、意に介されず。これでもか~と分かり易くスルーされてしまう。
仕方ないので黙々と後を付いていく。少しして、他の小屋とは大きさが2回りくらい違う小屋に案内される。
「長ー、いるー?」
近所のじいちゃんに声をかけるようなノリで小屋に入っていく。え、長に対する敬意とか無いんだ……。苦笑しながらエルミアに続く。
その小屋には、深く皺が刻まれた老人が2人。それと若い長身のダークエルフが1人いた。イケメン爆発しろ。
驚いた表情の老人と、俺を刺すように睨む若者。なんでこんなに人間族は敵視されているんだろう。
「戻ったか、リーリーの子エルミア。して、その人間族は何だ?」
若者の口から謎の言葉が紡がれる。……リーリー?
「……えぇ、見回りをしてる途中に森にいたから連れて来たのよ。」
「そうか、さすがは歴戦の勇カンカンの娘よ。」
満足そうに頷く老人A。二回目は耐えれなかった、「ブフー!」と口から笑いが漏れる。ソレを見られて老人が険のある表情に変わる。いや、だってリーリーにカンカンって。
その視線から救ってくれたのは、エルミアだった。
「長、トウコンの儀を行いたく思います。」
「何! 唐突の申し出だが……ようやく心が決まったか。よかろう、して相手は。」
「この人間族の男です」
突然話し始めたかと思えば、長達が驚愕の表情で騒ぎ出した。どれが長なのか未だに分からないが、各々「巫山戯るな」「おぉ、神よ」「森精霊様にどう申し開きを……」など騒いでいる。つうかトウコンって何? A.猪○氏的な事?
「理由はあるのだろうな?」
「えぇ、私はこの男に身体を触られました。それもその……口では言いにくい場所を。」
顔に伏せながらそんなことを言っている。若者の視線が痛くなった気がする。……いや、たしかに臀部を触っちゃったけどさ。
「更に、この男は跪き、私の手を両の手で握りしめました。」
「まさか! 人間族が我らダークエルフのイコンを!?」
驚愕に染まる老人B。……いや、座り込んでたのを引き上げてもらっただけでしょ? なんでそんなに恭しく言うかね。
「私はそれを受けることにしました。しかし、私より弱い者は必要ありません。ですので、トウコンの儀を行いたいのです。」
「にわかには信じがたいが……。『森精霊の御子』と言われるお前が言うなら本当なのであろうな。よかろう、明日には行えるよう準備しよう。」
俺の目の前で、俺の事が、俺の意見無しに決められていく。なんつーか、質の悪いお伽話を見ている気分だ。
話は終わったみたいで、俺はそのまま一つの部屋に連れて行かれる。エルミアも同じ部屋に入ってきたので、さっきからの疑問を投げつける。
「リーリーとカンカンって何!?」
「……貴男、開口一番にそれ?」
呆れた様な口調で返される。一番気になってた事から聞かないとな。
「その2人は、私の親。この村では、一人前になると自分で名前を変えられるの。一度だけだけどね。だから私の名前も本当はエルミアじゃないわ。」
「本当の名前は?」
「……ルンルン」
「ブフーー!!」
俺は我慢できすに吹き出した。本日二度目だ。花の子か!? おっと、エルミアの視線が怖い。必死になって取り繕う。
「一族のネーミングセンスに不満があるみたいね……。まぁ、いいけどね。とりあえず明日になるまでここで休んでもらうわ。何か聞きたいことはある?」
暗に明日まで開放しないと宣言されたが、ようやく落ち着いて話ができる。
「トウコンの儀って何?」
「あぁ、私と貴男が戦うのよ。これからを賭けて、ね。」
「これから?」
「そう、私が勝てば貴男は死ぬ。貴男が勝てば、貴男は私の持つ知識全てを手に入れる。乙女に痴漢を働いた罰にしては、歩の良い話でしょ?」
負けて死刑になるか、勝って知識を手に入れるか。なんというか、殺伐としているなぁ。
その他にも、色々なことを聞いた。
ダークエルフは、人間族と同じく平均寿命は80歳。主に狩猟を行って生活しており、森精霊のドイルドを主神として崇めているらしい。
本来は別の森で多数の仲間と住んでいたらしいが、魔族の侵攻で森を追われたドイルドの一人に着いて来た者達が、エルミアの一族。
村に結界を張っているのは、魔族は勿論だが、人間族にも見つからないようにする為。ダークエルフは、森を汚す者を良しとしない。これはエルフも同じだが、好戦的な性格から分かる通りダークエルフは実力を持ってそれを排除する。
また、ダークエルフはその見た目から奴隷として攫われることが多い。それを防ぐためにも、村は見つからないように結界を張っているとのことだ。
等など聞いていたら、外から先ほどの若者に呼ばれて、エルミアは出て行った。あ、あの3人の誰が長なのか聞き忘れたな……。
一人になってしまい、やることもないので魔力操作の練習をしていた。元々思いついたのはこれだったしね。
魔力結界を作り出し、魔力が外に漏れないようにする。そして中で『灯火』を使う。魔力量は先日の魔族の放った火球をイメージする。
大きさまでその通りにすると、俺の居る小屋が燃えてしまうかもしれないので小さめに。松明の火くらいの大きさでいいか。
小さな炎の弾が出来上がった。威力を確かめるために、詠唱付きの中級魔法『氷結檻』で囲む。が、すぐに溶けてしまう。10回ほど撃ってみたが全て溶けた後も炎は残っている。
炎の威力にため息をつく。なんというか、「これが予のメラだ」みたいな威力だな。災害級恐るべし。
それからしばらくして、女性のダークエルフが食事を持ってきてくれた。白髮や褐色。それに美人なのは変わらないが、凶悪な胸のサイズをしている。ダークエルフって、豊満な身体が多い種族なの!?
「食事よ……。なにやら魔法を使ってたみたいだけど、ここじゃあれくらいの魔法は意味ないわ。上級魔法でかき消されるわよ。」
どうやら結界から魔力が漏れていたらしい。それに魔力操作に長けるというのは本当らしい。上級魔法を使える人がいるのか……凄いな。
「ありがとうございます、忠告とお食事、ありがたくいただきます。因みに貴女のお名前は?」
「ソンソンよ。せいぜい明日までは自分の生に感謝することね。明日には御子の手で死んでしまうんだから。」
そう言い残して、爆乳の女性は去っていった。俺としては、その言葉を噛みしめるよりも、笑いを表情に出さないようにするのに必死だったんだけど。
食事が終わった後も、続けて魔法の練習をすることにした。さっきの教訓を活かして、結界は二重にかける。これだけ連続して魔法を使っても疲れたりしない。俺の魔力ってどうなっているんだろう。
夕食も、さきほどの爆乳エルフことソンソンさんが持ってきてくれた。どちらかと言えば小さい胸が好きな俺だが、胸に貴賤はない。抜群のプロポーションに思わず生唾を飲む。
それに気づいているのか、食事を置くときに少し胸を強調した後、軽く笑ってソンソンさんは出て行った。いやぁ、余裕のある仕草っていいよね!
運ばれた夕食に舌鼓を打ち、魔力と気力操作の訓練を少し行った後は、特に何もせず眠ることにした。明日はトウコンの儀か……。なにやら面倒くさい事に巻き込まれたぞ。
読んでいただき有難うございます
次回更新は22日予定です
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