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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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32-巻き込まれた先

 エルミアの魔法で出来た道を歩いて行くと、村が見えてきた。

 大木に小屋が張り付いたような、これぞファンタジーと言わんばかりのエルフの村だ。

 魔物に慣れた今久しぶりに見るファンタジーに、顔がニヤニヤするのを抑えながら、先を行くエルミアに付いていく。


「エルミアか、森はどう……なんだその人間族は」


 村の入口に立っていた門番らしきダークエルフに話しかけられる。ヤバイ、なんかあの人凄い睨んでるんですけど。


「えぇ、戻ったわ。そのことも含めて長に報告があるの。通してもらえるかしら?」


 エルミアが門番の様子を気にも止めずに言い放つ。暫く訝しげに俺とエルミアを見ていた門番だったが、渋々道を開けてくれた。

 エルミアの後に続いて村に入る。通り過ぎる際に「少しでもおかしな行動をしたら……削ぐ」と呟かれた。こ、怖いんですけど。

 黙々と歩くエルミアに先導されながら、俺は村の様子を見る。彼女のように斥候として出払っているのか、村に大人のダークエルフが少ない。

 広場的な場所を通過した時は、子供たちがはしゃいで遊んでいた。エルフ耳がはしゃいでる姿って、なんか貴重だよな。

 そういえばエルフって長命種なんだっけ? 物語に出てくるのは総じて長生きだった気がする。ダークエルフはどうなんだろう。


「エルミア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「長と話した後にね」


 声をかけてみたが、意に介されず。これでもか~と分かり易くスルーされてしまう。

 仕方ないので黙々と後を付いていく。少しして、他の小屋とは大きさが2回りくらい違う小屋に案内される。


「長ー、いるー?」


 近所のじいちゃんに声をかけるようなノリで小屋に入っていく。え、長に対する敬意とか無いんだ……。苦笑しながらエルミアに続く。

 その小屋には、深く皺が刻まれた老人が2人。それと若い長身のダークエルフが1人いた。イケメン爆発しろ。

 驚いた表情の老人と、俺を刺すように睨む若者。なんでこんなに人間族は敵視されているんだろう。


「戻ったか、リーリーの子エルミア。して、その人間族は何だ?」


 若者の口から謎の言葉が紡がれる。……リーリー?


「……えぇ、見回りをしてる途中に森にいたから連れて来たのよ。」


「そうか、さすがは歴戦の勇カンカンの娘よ。」


 満足そうに頷く老人A。二回目は耐えれなかった、「ブフー!」と口から笑いが漏れる。ソレを見られて老人が険のある表情に変わる。いや、だってリーリーにカンカンって。

 その視線から救ってくれたのは、エルミアだった。


「長、トウコンの儀を行いたく思います。」


「何! 唐突の申し出だが……ようやく心が決まったか。よかろう、して相手は。」


「この人間族の男です」


 突然話し始めたかと思えば、長達が驚愕の表情で騒ぎ出した。どれが長なのか未だに分からないが、各々「巫山戯るな」「おぉ、神よ」「森精霊様にどう申し開きを……」など騒いでいる。つうかトウコンって何? A.猪○氏的な事?


「理由はあるのだろうな?」


「えぇ、私はこの男に身体を触られました。それもその……口では言いにくい場所を。」


 顔に伏せながらそんなことを言っている。若者の視線が痛くなった気がする。……いや、たしかに臀部を触っちゃったけどさ。


「更に、この男は跪き、私の手を両の手で握りしめました。」


「まさか! 人間族が我らダークエルフのイコンを!?」


 驚愕に染まる老人B。……いや、座り込んでたのを引き上げてもらっただけでしょ? なんでそんなに恭しく言うかね。


「私はそれを受けることにしました。しかし、私より弱い者は必要ありません。ですので、トウコンの儀を行いたいのです。」


「にわかには信じがたいが……。『森精霊ドイルドの御子』と言われるお前が言うなら本当なのであろうな。よかろう、明日には行えるよう準備しよう。」


 俺の目の前で、俺の事が、俺の意見無しに決められていく。なんつーか、質の悪いお伽話を見ている気分だ。

 話は終わったみたいで、俺はそのまま一つの部屋に連れて行かれる。エルミアも同じ部屋に入ってきたので、さっきからの疑問を投げつける。


「リーリーとカンカンって何!?」


「……貴男、開口一番にそれ?」


 呆れた様な口調で返される。一番気になってた事から聞かないとな。


「その2人は、私の親。この村では、一人前になると自分で名前を変えられるの。一度だけだけどね。だから私の名前も本当はエルミアじゃないわ。」


「本当の名前は?」


「……ルンルン」


「ブフーー!!」


 俺は我慢できすに吹き出した。本日二度目だ。花の子か!? おっと、エルミアの視線が怖い。必死になって取り繕う。


「一族のネーミングセンスに不満があるみたいね……。まぁ、いいけどね。とりあえず明日になるまでここで休んでもらうわ。何か聞きたいことはある?」


 暗に明日まで開放しないと宣言されたが、ようやく落ち着いて話ができる。


「トウコンの儀って何?」


「あぁ、私と貴男が戦うのよ。これからを賭けて、ね。」


「これから?」


「そう、私が勝てば貴男は死ぬ。貴男が勝てば、貴男は私の持つ知識全てを手に入れる。乙女に痴漢を働いた罰にしては、歩の良い話でしょ?」


 負けて死刑になるか、勝って知識を手に入れるか。なんというか、殺伐としているなぁ。

 その他にも、色々なことを聞いた。

 ダークエルフは、人間族と同じく平均寿命は80歳。主に狩猟を行って生活しており、森精霊のドイルドを主神として崇めているらしい。

 本来は別の森で多数の仲間と住んでいたらしいが、魔族の侵攻で森を追われたドイルドの一人に着いて来た者達が、エルミアの一族。

 村に結界を張っているのは、魔族は勿論だが、人間族にも見つからないようにする為。ダークエルフは、森を汚す者を良しとしない。これはエルフも同じだが、好戦的な性格から分かる通りダークエルフは実力を持ってそれを排除する。

 また、ダークエルフはその見た目から奴隷として攫われることが多い。それを防ぐためにも、村は見つからないように結界を張っているとのことだ。

 等など聞いていたら、外から先ほどの若者に呼ばれて、エルミアは出て行った。あ、あの3人の誰が長なのか聞き忘れたな……。

 一人になってしまい、やることもないので魔力操作の練習をしていた。元々思いついたのはこれだったしね。

 魔力結界を作り出し、魔力が外に漏れないようにする。そして中で『灯火』を使う。魔力量は先日の魔族の放った火球をイメージする。

 大きさまでその通りにすると、俺の居る小屋が燃えてしまうかもしれないので小さめに。松明の火くらいの大きさでいいか。

 小さな炎の弾が出来上がった。威力を確かめるために、詠唱付きの中級魔法『氷結檻』で囲む。が、すぐに溶けてしまう。10回ほど撃ってみたが全て溶けた後も炎は残っている。

 炎の威力にため息をつく。なんというか、「これが予のメラだ」みたいな威力だな。災害級恐るべし。

 それからしばらくして、女性のダークエルフが食事を持ってきてくれた。白髮や褐色。それに美人なのは変わらないが、凶悪な胸のサイズをしている。ダークエルフって、豊満な身体が多い種族なの!?


「食事よ……。なにやら魔法を使ってたみたいだけど、ここじゃあれくらいの魔法は意味ないわ。上級魔法でかき消されるわよ。」


 どうやら結界から魔力が漏れていたらしい。それに魔力操作に長けるというのは本当らしい。上級魔法を使える人がいるのか……凄いな。


「ありがとうございます、忠告とお食事、ありがたくいただきます。因みに貴女のお名前は?」


「ソンソンよ。せいぜい明日までは自分の生に感謝することね。明日には御子の手で死んでしまうんだから。」


 そう言い残して、爆乳の女性は去っていった。俺としては、その言葉を噛みしめるよりも、笑いを表情に出さないようにするのに必死だったんだけど。

 食事が終わった後も、続けて魔法の練習をすることにした。さっきの教訓を活かして、結界は二重にかける。これだけ連続して魔法を使っても疲れたりしない。俺の魔力ってどうなっているんだろう。

 夕食も、さきほどの爆乳エルフことソンソンさんが持ってきてくれた。どちらかと言えば小さい胸が好きな俺だが、胸に貴賤はない。抜群のプロポーションに思わず生唾を飲む。

 それに気づいているのか、食事を置くときに少し胸を強調した後、軽く笑ってソンソンさんは出て行った。いやぁ、余裕のある仕草っていいよね!

 運ばれた夕食に舌鼓を打ち、魔力と気力操作の訓練を少し行った後は、特に何もせず眠ることにした。明日はトウコンの儀か……。なにやら面倒くさい事に巻き込まれたぞ。

読んでいただき有難うございます

次回更新は22日予定です

よろしくお願いします

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