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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
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03-小川での一戦

12月23日誤字等修正

「へぇ、ダズには村に奥さんがいるのか」


「まぁな。この歳だし珍しくもないと思うが。因みに10になる娘もいる。可愛いぞ」


「へぇ、可愛いっていわれると見「嫁にはやらんぞ」……気が早いって」


 世間話をしながら道を歩いていると、門のようなものが見えてきた。上には看板が付いている『レイゲンス村』というらしい。

 ……文字も読めてるな。これも神の加護ってやつか? あの神様サービス精神旺盛すぎるだろ。神様じゃなくてサービス業とかやったほうがいいんじゃね? 絶対に通わないけど。


「ようやく着いた……。ここが俺達の村『レイゲンス村』だ。村へようこそ、歓迎するよ」


 ダズがドヤ顔で言ってくる。おっさんのドヤ顔なんてムカつくだけだな。

 白けた目で見てやると、慌てたように話を変えてくる。


「それで、これからどうするつもりだ?」


「ん~。とりあえず大きな街に行きたいんだけど、どこにあるか知ってる?」


 まずは大きな街へ行き、服とかの必需品を揃える。その後は……よくわかんないな。出たとこ勝負で行こう。


「そうか。それならここから馬車で3日くらいのところに、メイル伯爵の治めるザンドウという街がある」


「馬車で3日か……」


「馬車なら定期便がこの村からも出てるぞ。そこならいろんな店もあるし、ギルドもあるからな」


 なんかゲームで聞いたことのあるフレーズが出てきたぞ!


「ギルドで冒険者登録さえすれば、別の町でも冒険者として活動もできるし、金を稼ぐのにもいいんじゃないかね」


 ふむ、どうやら俺の思っているギルドとほとんど変わらないようだ。


「それなら、早速馬車に乗って街まで行ってくるよ。教えてくれてありがとう」


 そう言って俺は教えてもらった馬車乗り場に向かって……


「あぁ、馬車は7日に1度しか出ないぞ。昨日出てったばかりだから最低でも後6日は待たんとなぁ」


 走りだせなかった。出鼻を挫かれるのがここまで恥ずかしいとは。


「な、なるほど……。因みにこの村に宿とかは?」


「無いな。使うものがおらん」


「おぉぅ……」


 あれ、詰んだ? どうしようかなぁ後6日。


「よければ馬車が出るまでワシの家に泊まるか? 助けてくれたお礼も兼ねて歓迎するぞ」


「え、いいの? マジで?」


「勿論だ。命の恩人に村の前で野宿させるわけにもいかんしな」


「ダズのおっちゃん……ホントはいいやつだったんだな。ありがとう」


「おう。……『ホントは』ってのは余計だ」


 助かった。なんとか飯を買うなりして6日も野宿かと思ってしまった。

 ダズの家までの道すがら、この村のことを教えてもらった。

 この村に住むのは30世帯で、1件だけ酒場があり、その他のお店はないとのこと。定期便の馬車というのは商人が来てここで必要な物を売ってくれる。渡すのは金銭でなく現物で、この村にはほぼ金銭というのは必要ないらしい。等話を聞いているうちに1軒の家の前に到着した。


「ここが俺の家だ。入ってくれ」


 ダズに促され一緒に家に入った。お皿を洗っていた妙齢の女性(しかも美人!)がこちらを向いて不思議そうにしている。


「あら、おかえりなさい。そちらの方は?」


「おう。こいつは森で会ったリュウイチ。狼に囲まれていたところを助けてくれた、命の恩人さ。」


 命の恩人という言葉に驚いている様子の女性。突然の来訪と『命の』という言葉にびっくりしているのだろう。


「リュウイチ、これが俺の奥さんだ」


「美人の奥さんとか……呪われてしまえ」


「突然変なことを言うな!」


「まぁまぁ、お世辞が上手ね。サリアと申します。リュウイチ……さん? この人を助けてくれてありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらず。……その上できた人だと? ダズ、何処から攫ってきたんだ?」


「お前はなんか俺に恨みでもあんのかっ!」


 ナイスツッコミだダズ。俺には無いが全国のモテない男からの恨みがありそうだな。……俺は無いよ? ほんとだよ?

 その後奥さんに泊めてもらう話とお礼を言って、ダズと村長の家に行った。この村に泊まる事を村長に説明しに行く為だ。

 盗賊などもいるため勘違いされないように、という配慮らしい。まぁ、格好から見ても盗賊じゃないってのはわかっちゃいるんだろうが、一応だ。

 村長からは簡単に許可をもらい、『助けてくれてありがとう』との言葉までもらった。さっきから感謝されてばっかりで、ちょっとこそばゆい。

 そうして今、俺はダズの家で夕飯を待っているのだが……。


「凄い! こんなに華奢なのに触るとがっちりしてる……。リュウイチさん本当にお強いんですね!」


「い、いやぁ~。……あはは」


「あらあら、はしゃいじゃって」


「ギリギリギリギリギリギリギリギリ」


 ダズの娘(サキという名前)、俺、奥さん、ダズの歯ぎしりという順番だ。

 俺の隣でサキちゃんが俺の身体をペタペタと触り、奥さんが料理をしながら微笑ましく見ている。

 そしてそれだけで人を殺せそうな眼差しで俺を睨みつけているダズ。ど…どうしてこうなった……。

 どうやらサキちゃんは『強い男』が好きらしく、自分の父を助けてくれた俺がそのおメガネに適った様子だ。

 そしてその日は(視線に痛む胃を抱えながら)楽しい食事を済ませ、暖かい布団に入り眠りについたのだった。










 翌日はまったりとした一日になった。ダズは狩りに行くことなく、近くの畑を手伝うようだ。

 やることもないため、一緒に畑仕事を手伝う。力加減が案外難しく、耕すはずが一発目は穴を開けてしまった。

 周りの村人がポカーンとした目を向けてくる中、サキちゃんだけは『凄い! さすがリュウイチさんです』と喜んでいた。

 日が暮れる頃には畑仕事も終わり、ダズの家で風呂に入って就寝した。


 そして次の日、俺は村の近くにあるという小川に遊びに行くことにした。

 昨日の畑仕事中、ダズに近場に見るものはないかと聞いたところ『ん~、ちょっと行ったところに川があるが、あまり見るものもないなぁ』という答えが帰ってきたからだ。

 村を出て30分くらい歩いたところに、その小川はあった。見るものはないと言っていたが、綺麗な水が流れる川は、日本で鬼教官にしごかれていた俺にとっては見るだけで心が洗い流されるかのようだ。

 川を見ながら流れに沿って歩いてみる。

 キレイだなぁ……と思っていると、いつの間にか林の中にいた。思いの外長時間歩いていたらしい。若干開けた場所があったので、そこで腰を下ろしてじっくり川を見ることにする。


「……あぁ、川はいいなぁ。涼し気な光景、そよそよと流れる風。耳を澄ませば聞こえてくる小川のせせらぎ。正にここは『グゲ?』だなぁ……。グゲ?」


 感想をブツブツつぶやいていると、謎の声が聞こえた。グゲってなによ、グゲって。

 不思議に思いながら聞こえてきた方を振り向くと、そこには子供くらいの大きさの緑色の生物……所謂ゴブリンがいた。


「……」


「……グゲ!」


『ザザザザザザザザザ』

 ポカーンとしていると、目の前に現れた奴がなにかを叫ぶ。

 と、同時に周りの木々から4匹の同じような奴らが出てきた。こいつ、リーダー格か?

 落ち着いて全員を視野に入れながら『診断』を使う。

 名前は緑子鬼ゴブリン。最初に出てきたのがレベル7で、剣 (といってもナイフのようなもの)を持っていた。後は各々3~5で武器を持っており、一匹だけ棒に刺のついた鉄球(所謂フレイル)を持っている奴がいる。武器か……厄介だな。

 通用しないとは思うが、一応声をかけてみる。


「あ~、因みに逃してくれる……」


「「「グゲ~~~!!」」」


「訳ないよなっ……!」


 話の途中に各々が襲いかかってきた。人の話は聞きなさいと先生に教わらなかったのかね、やれやれ。


 まず襲いかかってきたのはナイフを持ったレベル4の奴だ。接近して剣を振り下ろしてくる。

 右半身に構え、振り下ろした瞬間に位置をずらして回避する。

 そしてそのままそいつの懐に潜り込む。

 切り返される前に胸ぐら(肩からたすき掛けにかけている革のベルト)を右手で掴み、背中を向ける。

 そのまま引き倒す。右足をかけるのも忘れない。柔道で言う『体落とし』だ。段位取っててよかった!

 背中から落ちたゴブリンの腹に拳を叩きつける。

 これで1匹。


「ギャギャギャ!」


 立ち上がると後ろから別の1匹の声が聞こえる。

 『ヒュンヒュン』と風切り音がする。おそらくフレイルを持った奴だろう。

 近くから音が聞こえたため、振り向きざまに裏拳を打ち込む。

 側頭部に決まったのだろう。見ると正面でなく、右寄りの木に叩きつけられていた。

 チクッとしたので手を見ると、血が滲んでいた。やっぱり刺とか刃物だと傷ができるようだ。

 これで2匹。


 次に近かったのは2匹。列をなして向かってくる。

 先頭の奴に足払いをかける。釣手の補助がなかったので倒れるか心配したが、さすがのパワー、ほぼ1回転の形で倒れた。

 追撃をしようとしたが、2番目が近い。ナイフを上段にして飛びかかってきた。

 倒れた奴を後回しにして、飛びかかってきたナイフの軌道を読む。一直線に俺のいる位置に振り下ろすようだ。

 ちょっとバックステップして、今度は逆に一瞬にして位置を詰め、腰を落とす。 

 ナイフを振り下ろしたゴブリンに肘を叩き込む。

 『ちょうしんちゅう!』

 頭のなかでうろ覚えの技名を叫ぶ。

 腹部を狙ったので、肘が若干上向きになったのだろう、斜めに吹っ飛ぶゴブリン。

 これで3匹!

 忘れずに倒れているゴブリンを踏みつける。振動で周りの木々が揺れる。意識せず『震脚』のようになってしまった。

 これで4匹!


 残っている1匹に正対する。レベルの一番高い奴のようだ。

 最後の1匹になったというのに焦っている様子はない。アレだけの光景を見てこの余裕……何だ?

 睨みつけていると、『ザザザ』という音と共に首筋がチリッとした。

 すかさず横に位置をずらす。

 『ストン!』

 さっきまで俺がいた位置を通って、正面の木に矢が刺さった。もう1匹いたのか!

 振り向きざまにしゃがみこんで、1円サイズくらいの石を10個ほどつかむ。

 立ち上がり、木の影に隠れていたもう1匹(弓のようなものを持っている。レベルは6)に手の中の石を投げつける。

 予想はしていたが、散弾銃の様に広がってしまう。ゴブリンの肩と頭に一発ずつ。他は外れてしまった。

 しかし威力は1発1発がライフル位あるようで、ゴブリンは勿論のこと、周りの石が当たった木々も破裂していた。

 これで5匹。


 そして最後の1匹。

 逃げるかと思っていたが、リーダー格のプライドだろうか、敵意をむき出しにして睨んでいる。

 強いであろう俺に対して向かってくる蛮勇……潔いいな。

 リーダーは俺に向かって走りだしてきた。

 俺は正対し、構えて目をつぶる。

 心を落ち着ける……。

 静かな意識の中、小さなモヤみたいなものが向かってくるのを感じる。恐らくゴブリンのものだろう。

 近くに接近したところで、目を開ける。

 静かに溜めた力を開放するように正拳を打ち出す。

 先程までとは違い、俺の正拳はゴブリンを突き抜けていた。力の方向を1点に集中したからだろうか。

 力尽きたゴブリンを振り落とし、手を払う。腕に付いていた緑色の血が地面に広がる。

 これで、終わり。



 戦闘のあった場所を少し離れ、小川で腕を洗い流す。


「やっぱり、『殺す』っていうのには慣れないな……。」


 一人、呟いてしまう。

 狙われていたとはいえ、平和な国日本で過ごしていた俺には『殺す』というのには慣れていない。

 魚や牛などを食べていたくせに……と言われると言い返せないが、目の前で、自分でやるとなると戸惑いは隠せない。

 ここは異世界、逃げてばかりではいずれ詰まってしまう。自分を守るため……生きるためには仕方のない事。慣れるしかないんだ。

 そう言い聞かせても、やはり罪悪感は残ってしまう。

 俺は自分に言い聞かせながら、村へと戻った。












 村に帰り、家でくつろいでいるダズに先ほどあった出来事を報告した。


「ゴブリン……!? 何匹いた!?」


「6匹。弓を使ってる奴もいたぞ」


「ゴブリンアーチャーもいたのか……。」


 弓を使っていたのは他のとくらべて若干格が上らしい。

 そしてそのまま村長のもとで男たちによる会議となった。なんでもゴブリンは集団で行動するため、巣から逃げた所謂『はぐれ』であっても最低でも10匹はいるらしい。

 会議の結果、翌日の朝から村一番の狩人のダズ、そしてゴブリンを倒した俺が、村の周辺(今日出会った場所近辺も)を探索する。他の人たちは村の警戒である。

 発見して、できそうなら倒す。数が多いようなら早馬を飛ばして助けを求める。発見できなければ警戒を続ける……ということになった。

 翌日に備えて早々に会議も終わり、ダズの家で食事を取った俺は外で星を眺めていた。

 因みにこの世界にも四季があるらしい。今は日本で言う春……とはいっても、なったばかりみたいで、少し肌寒い。


「冷えるぞ? ……眠れないのか?」


「あぁ……。ダズか」


 帰ってこない俺を心配したのだろう、ダズが酒を持って俺の隣へ座った。酒を受け取る。


「……どうかしたのか?」


「え?」


「帰ってきてから、少し様子が変だと思ってな」


「あぁ……」


 空気の違いに気づかれていたのか……。伊達に人の親やってるわけじゃないんだな。


「……今日さ、ゴブリンを倒したって言ったろ? 俺のいた場所は比較的安全で、今まで生物を自分の手で殺したことってなかったんだ……。それで、ちょっとね」


「そうか……。でも、今日お前は襲われたんだろ?」


「そう、襲われた。だけどね、なんというか……ね」


「…………」


 ダズも黙って、酒を煽る。『弱いやつ』と思われただろうな。


「っぷはぁ。」


 手に持った酒を飲み干した所で、ダズが口を開いた。


「……俺もな、動物を殺すのが恐ろしかった」


「……ダズも?」


「最初はそうでもなかった。食べないとこっちが死んじまうからな。だが、娘を持って考えることが増えた。『こいつにも家族がいたかもしれん』とか、『感情があったとして家族はどう感じるのか』……とかな。」


「……」


「でも、それで悪いと思って食わなけりゃ俺達が……大事な妻と子供が死んじまう。」


「それで、それでダズはどうしたんだ?」


「俺は、感謝することにしたよ」


「……感謝?」


「『これで守ることができる』『おかげで生きることができる』ってな。一番の目的のために必要なことができる事に感謝するんだ」


「……」


 心のなかに優先順位をつける……ってことだろうか。

 そういえば、教官にも言われたなぁ『目的を見失うな、何を優先するのか、優先したのか。常に考えろ』って。


「まぁ、参考にならんかもしれんがな。冷える前に戻ってこい、明日は早いぞ」


 そう言って立ち上がるダズ。家に向かっていくダズに、後ろから声をかける。


「話してくれてありがとう。今日はかっこ良く感じたよ」


「一言余計だ」


 苦笑しながら家に入っていくダズ。俺も手元の酒を飲み干して、その後に続く。

 すぐには無理かもしれない。けど、流されて見失わないように。

 俺のやりたいことをやっていこう。

 守りたいものを、守っていこう。

 その後は心が落ち着いたのか、すぐに眠ることができた。

読んでいただき、ありがとうございます。

思いの外長くなってしまいました。戦いを丁寧に書きたいんですがしつこくなってしまいますね。


次回更新は15日予定です


11/14 ちょっぴり改訂しました

   メイル男爵→メイル伯爵

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