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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第2章-アーネス子爵領にて-
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25-実験&検証をしよう

 翌日は、朝からウーデンの近くにある『黒森』と呼ばれる森へ来ていた。

 昨日覚えた魔法の試し打ちや確認をするためだ。

 まずはリリに闇魔法を使わせる。標的が無いと効果がわからないので、弱めの魔力で的を作っておいた。魔力剣の応用だ。


「“我が前に対する者よ、暗き冥道にその身を堕とせ”……『闇沈ナハト・デルベン』」


 詠唱とともに、リリの影が伸びる。的の近くまで伸びた影は、手前で姿を表し的を覆う。そしてそのまま地面に引きずり込むように掻き消えてる。

 肝心の的は地面の上に転がっていたが、すぐに元の位置に戻る。確認すると、魔力がだいぶ抜かれていた。

 魔法書を読んでいて分かったが、どうやら闇魔法には相手の魔力を奪う特性があるらしい。

 闇沈は相手の魔力が尽きていればそのまま消してしまえるみたいだ。

 続いて闇魔法を発動してもらう。


「“顕現せよ、運命を刈り取る影の刃”……『闇鎌ナハト・ズィッヒェル』」


 リリの手に、身長ほどはあろうかという黒い鎌が現れる。黒い少女と黒鎌という組み合わせは、なんかクルな。

 そのまま的に攻撃をしてもらう。先ほどの魔法で魔力の少なくなっていた的は、あっさりと弾けて消える。

 この鎌にも魔力を奪う特性は付いている。それでいて鎌の攻撃力もある。闇魔法、結構使い勝手良くない?

 それからも、疲れるまで覚えている限りの魔法を使ってもらった。光魔法も数だけなら余裕でアリサを超えたな。強く生きろよ、アリサ。


「ど、どうでした……か?」


 肩で息をしながらも、俺に成果を確認する。


「うん、バッチリだ。さすがリリは上達が早いね」


 成長を素直に褒めて、頭を撫でてあげる。恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに見上げてくるリリ。頑張ったもんね。

 リリを休ませて、次は俺の魔法を確認する。

 ココア? 最初から兎を追い回してるに決まってるじゃないですか。

 魔法を使う前にココアを呼び戻す。どうなるかわからないし、危ないからね。

 まずは詠唱付きで、各魔法を試打する。勿論魔力の流れを確認しながらだ。

 各魔法書に書かれていた通りの成果が出る。うん、面白みがないな。

 次は詠唱なしで試打する。危なくないのがいいな……。うん。『岩壁フェルゼン』にするか。

 これは詠唱付きだと固めの岩の壁が2メートルくらい打ち上がるものだった。蹴ってみたらあっさり瓦礫に変わったけど。

 地面に手をつき、魔力の流れを確かめる。そして塔が出てくるイメージで魔力を流す。


「すごーい!高いの~」


 ココアが上を見上げながら、目の前に出来たモノに感想を言っている。

 魔力を入れすぎたのか、高さ20メートル、幅20メートル程の石柱が勢い良く飛び出してしまった。慌てて掻き消す。

 壁っていうか、建築魔法とかにしたほうがいいんじゃない?

 まぁこれで、各魔法もイメージと魔力で変えれる事がわかった。

 次は禁術を試してみる。どれにしようかな……『暴虐嵐ツヴァイヘルト・オルカーン』ってやつにしてみるか。

 禁術については、詳細が載ってなかったので、使ってみないと効果がわからない。

 どれくらいかわからないので、2人を近くに寄せ『風防』で体を守っておく。


「“愚かな者よ、渦巻く暴風に、その荒れ狂う猛威に、涙し、懺悔せよ”……『暴虐嵐ツヴァイヘルト・オルカーン』」


 詠唱が進んでいくにつれ、俺に周りに風が渦巻き出す。完成した時には、意味の分からない早さの竜巻ができていた。

 呪文を唱えると、それが5つほどに増え、周りの木々を薙ぎ倒していく。いや、薙ぎ倒すだけではない。スッパリと切断されているものもある。鎌鼬的なあれか?

 轟音とともに地面を抉り、木々を薙ぎ倒し、岩石を切断し、それでも勢いが止まない。……これはまずい。

 慌てて魔法を掻き消す。さっきまでの状況が嘘のように静寂に包まれる。……ん、なんか落ちてくる音が聞こえる。


「木と……岩が……落ちて、きます」


 ポツリと呟いたリリに、慌てて上を見上げる。風に巻き上げられたであろう岩やら何やらが降ってくるのが見えた。急いで二人を掴み、瞬動で後ろに下がる。

 ドン! ドガガ! 等の音がして、ようやく静かになったので音のした方向を見る。……メチャクチャだ。


「しぜんはかい、なの?」


「すごい……大きいです……」


 ココアの言葉が俺の心にグサリと刺さる。ち、違うんだ。っていうかリリ! どこでそんな言葉を覚えたの!? 岩を見て呟くんじゃありません!

 それはいいとして、流石は禁術と言われる魔法だ。レベルが違う。

 この世界的には、上級魔術を組み合わせるだけでも、天変地異を起こせるレベルだと書いてあった。災害級というらしいが……。これ何級よ。基本的に禁術は使わなくていいな。使ってるところを見られたら『災害の白脚』とか呼ばれてしまう。

 気を取り直して次は自分や味方にかける魔法だな。『浮遊』という風魔法だ。最初は動きづらかったのだが、慣れてくると空中で寝転がったりも出来た。ココアが羨ましがったが、使えないのはしょうがない。今度は覚えれるよう一緒に勉強しようね。

 空中での戦闘を想定する。構えて、瞬動で移動する。早すぎたのか、動いた先で浮遊の効果が切れてしまう。すぐさまかけ直す。

 それからは瞬動で動いても切れないよう浮遊と一緒に使う練習だ。使ってくると慣れるようで、地上とほぼ同じ動きをすることが出来るくらいになる。っていうか、途中から魔力を使っていないような……?

 一度地面に降りて、魔法を使わずに空中戦を意識して動く。……浮いた。浮遊を使っていないのに。

 確認すると、スキルに『天瞬駆』というのが増えていた。あれ、浮遊を覚えた意味が……。

 視線を感じて2人を見ると、凄い羨ましそうな眼で俺を見ていた。ココアはわかるけど、リリまで!? 「飛んで、みたい……です」と言葉少なに言っている。しょうがないな。

 リリには光魔法の魔力譲渡で回復させた後に、浮遊の詠唱とコツを教える。ココアには浮遊を掛けて一緒に飛ぶ。


「わぉん! 空なの~! 高いの~!!」


「凄い……。遠くまで……見えます」


 リリは、最初は危なっかしかったが、コツを教えたおかげか、空への憧れのおかげか慣れてきたようだ。

 ココアは楽しんでいるし、リリは感動している。嬉しそうだし、一緒に飛んでよかったかな。

 時間的には少しだったが、空の散歩を終わらせて、地面に降りる。今日の訓練はこれくらいにして、街に戻ることにした。

 因みに、帰る時に襲ってきた魔物に、もうひとつ禁術を使ってみた。『獄炎檻ヘルインフェルノ・ツィンガー』というやつだ。これも酷かった。

 魔物の集団に対して使ってみたのだが、名前の通り炎で出来た檻で囲むような魔法だった。檻に触れている所から炭になるわ、檻から内側に炎の棘が出てくるわ、最終的に檻の内部で大爆発が起こるわ、ヤバかった。

 しかも周辺に生えている木まで一瞬で燃やし尽くしていたからな。止める暇も無かった。まぁ、燃えた木には土魔法を重ねがけして新しい木を生やしておいたけど。



 宿に帰ると、見知った顔がそこにいた。


「リュウイチ様! お待ちしておりました」


 ミリル嬢だ。いや、いいんだろうけど、領主の娘が街の宿でお茶を飲んでるってなんかシュールだな。

 宿の主人なんか怯えちゃってるじゃないか。こんな可愛い子どもに怯えるって、どうなのとも思うが。


「ミリル様、どうかいたしましたか?」


「リュウイチ様、どうか普通に話して下さい。私のことはミリルと呼び捨てで構いませんわ」


 俺の返答にそう返してくる。いや、領主の娘に様付けで呼ばせておいて俺は呼び捨てって、ダメでしょ。


「では、ミリルさん。どうしました?」


 俺の中で精一杯譲歩した呼び方で呼ばせてもらう。「呼び捨てがいいんですのに……」と残念そうだったが、これ以上は譲れない。我慢してもらおう。


「リュウイチ様にお伝えしたいことがございまして、5の鐘の刻に屋敷に来ていただきたいのです」


 5の鐘というのは、地球で言う夕方5時くらいだ。1の鐘が朝7時、2の鐘が10時、3が12で4が15となっており、最後が6の鐘で大体20時に鳴る。

 伝えたいことってなんだろう。っていうかわざわざミリル嬢が来なくても伝言だけで構わないんだけどな。


「私が来たのは、個人的にお話を伺いたいからですわ。迷宮の時のこととか」


 ……そういえば去り際にそんな事を言っていた気がするな。うーん、どう誤魔化そうか。


「あれはですね……。というか俺そんなに言葉が漏れてます?」


「いいえ、今回はそう言いたそうなお顔でしたので。因みに今はどう誤魔化そうかと考えてらっしゃるでしょう?」


 出て無かったのか、良かった。っていうか凄いなこの娘。表情で読み取るとかどうやんの? そんな思いを押し込めて話を続ける。


「それはよかった。ここでは何ですので、先の店でお茶でもしながらでどうですか?」


「あら、デートのお誘いですの? 勿論同行いたしますわ」


 デ……なんちゅう事を言うんだ、この娘は。あぁリリ、そんな悲しそうな顔で俺を見ないでくれ。ココアはご飯が楽しみなのね、わかったわかった。


「どうせ話すならお茶でも……と思っただけですよ。行きましょう」


 リリとココアの手を握ってミリル嬢を先導する。後ろで「あら、つれない」と呟いているが、気のせい気のせい。

 それからは、お茶を飲みながらミリル嬢に説明をした。

 魔力剣で『黒狼』を倒したこと、怖がらせる必要もないためアリサの魔法で目潰しをしたこと等だ。あれが只の魔力剣だと聞いて驚いてはいたが、「白脚様ですから」の一言で納得したようだ。どんなネームバリューよ。

 美味しいお茶を飲みながらの歓談だったが、隣に座ったリリは俺の手を握って離さないし、ココアはあれもこれもと注文して目を輝かせながら食べ続けているし、ミリル嬢に至ってはリリの状態に気づいたのか時折からかってくる。

 俺としては精神が擦り切れる思いだった。後でリリの爪の跡がついてないか確認しておこう。

 お茶を終えて、宿で一眠りしていると、そろそろ5の鐘が鳴る時間に近づいていた。

 ココアとリリを寝かせておいて、俺は一人子爵の屋敷へ向かった。


「おぉ、リュウイチ殿。来てくれてありがとう。座って座って」


 メイドさんに連れられて入った部屋では、既に子爵が待っていた。なんか、ものすごいフレンドリーだな。


「まずは、この度の大会参加、誠に助かる。お礼を言おう」


「いえ、私にも理由が出来ましたから。それで、今日呼ばれた理由というのは?」


「うむ、それなのだが……。」


 目を伏せて何やら言いよどんでいる。……なんだろう?


「実は、第2王女が観覧に来られることになってな」


「…………は?」


 え、今なんてった? 第2王女・・とか言わなかった? それが観覧だって? ……バレるじゃん!


「学術祭で来られないのでは?」


「あぁ、例年通りだろうと私もそう思っていた。だが何を考えたか、そちらの観覧を置いて、この街の武闘大会を見に来られるとの事なのだ」


 なんで今回に限ってそんなことが……。


「王族に来るなとも言えぬし、君に自信満々に説明した手前でこういう事になって申し訳ないのだが……」


「いや、まぁ仕方ないですよね」


「そうか、出てくれるか」


 子爵様がほっとした顔で息をつく。本人にしてもよほど想定外の事だったのだろう。そうだ、一つだけ希望を言っておかなければ。


「ただ、一つだけお願いがございまして。王族の方が、私を召し抱えたりするようなことがあれば、それを抑えることはできますか?」


「それは約束しよう。難しいが、私が何とかする」


 自身を持って断言してくれた。よかった、それは無理とか言われたらどうしようかと思った。王族に召し抱えられてしがらみだらけとか勘弁してもらいたいもんな。

 話はそれだけだったようで、街の住み心地とかの、ちょっとした雑談をして屋敷を後にした。

 宿に帰り、起きていたリリとココアと3人で早めの夕食を取り、早めに就寝した。ミリル嬢との食事のことを覚えていたリリが悲しそうな眼で見てきたので、落ち着いて寝息を立てるまで側で頭を撫でてやった。嫉妬なんて、可愛いな。

 そういえば明日には王族が街に到着するらしい。何か起こらなければいいんだけど。

 後、今日はアリサの顔を見ていない。会いに行けば見れるんだろうか。明日男爵の屋敷に行ってみよう。そんな事を考えながら、俺も眠りについた。

読んでいただき、ありがとうございます

次回更新は15日予定です

よろしくお願いします。

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