26-大会での試合
それから2日は、予想に反して大きなことも無かった。
ココアが亜人の子どもと喧嘩になったり、リリとシュピーツが何故か2人だけで出掛けたりということはあったが、まぁ小さなことだろう。
そういえば、アリサの顔を見に行ってみたのだが会えなかった。なんでもメイド長に作法を躾け直されているらしく、出てこれないとのこと。
料理も出来るようになっていればいいけど。……まぁ無理だろうな。
会えないのは寂しいが、大会の当日には出てこれるらしい。
そして大会開催日当日、俺達3人は子爵と一緒に会場まで向かっている。会場は、北街から少し先に離れて建っていた。闘技場みたいな建物だ。
試合はトーナメント形式だが、子爵推薦という事で俺は2回戦からの参加だ。試合は基本噛み付きとか金的以外はなんでもありらしい。ただ、相手を殺してしまってはダメ。気絶させるか降参するか、試合終了と主催者が言うまで行う。
会場に入った所で、皆と別れる。出場者は控室に、観客は周りで見れる形式になっている。コロッセオと思えば簡単だろうか。
「じゃあ、頑張ってくれ」
「応援してますわ」
「ズバーンでゆーしょーなの!」
「頑張って……ください……!」
皆から応援の言葉を背中に感じながら、控室へと入っていく。そういえば今日になってもアリサの姿を見ていない。元気かな、アリサ。
そんなことを考えて、控室の扉を開ける。
控室には、ほとんどの出場者が集まっていた。どうやら俺が最後だったみたいだ。
名簿にサインをして、備え付けられている椅子に腰を掛ける。見回してみると、全身鎧を着たものや、ローブを着て杖を持っているもの。亜人等などいろんな人達がいる。
出場には貴族からの推薦があるか、各街で開催されていた予選に参加して勝たなければいけないらしい。みんな頑張ったんだなぁ。
「おい、貴様!」
そんな事を考えていると、一人の男が話しかけてきた。いや、絡んできた。
金属の鎧を着て、銀色の片手剣を持ったイケメンだ。……何の用だろう。
「なにか御用ですか?」
「何か? ハッ、この私を前にしてそんなことを言うとは、よほど私を舐めているのだな」
普通に返したのにそんなことを言われてしまった。いや、貴方のことなんて知らないですしおすし。
「お、おすっ……。俺の名はノーア・フロントだ。ここまで言えば貴様にもわかるだろう!」
また漏れてた? いやーね、よく漏れる心の声って。
んで、ノーアって言ったっけ。……わかんないな。誰なんだろう?
「すいませんが、存じ上げません」
考えたけどわからなかったので、一応謝っておく。俺の返答を聞いてノーアさんは口をパクパクさせている。
「きききき、貴様ぁ!」
と、思ったら顔を真赤にして何やら騒ぎ立てる。忙しいな、この人。
「その無礼な態度! この場で切り捨て「次~、リュウイチ様お入り下さい」……」
「はーい。というわけで、また後で」
怒り狂っているノーアさんの肩をたたいて舞台に向かう。後ろで「必ず倒してやるからな! 」と叫んでいた。だから、知らないんだってば。
舞台に上がると、中央で審判? らしき人と対戦相手が待っていた。今回はローブを着た魔法使いみたいだ。急いで近くに向かう。
「来ましたか。では、正々堂々と「あ、一ついいですか?」……なんでしょう」
審判さんの言葉を遮って疑問を掛けてみる。ちょっと不満そうだが聞いてくれるみたいだ。
「周りに張ってある結界? はどれくらい強いんでしょう」
「結界? あぁ、これはこの街の筆頭魔術師が、100日ほどを掛けて複雑に編みこんだ結界です。生半可なことじゃ壊れませんので、お気になさらず」
そうか、そんなに強いならある程度やっても大丈夫だろう。
審判の指示に従って距離を開ける。そして審判の号令を待つ。……この始まる前の緊張感。心地いい感じだ。
「それでは……始め!!」
号令とともに、相手が詠唱を開始する。俺は、とりあえず相手の出方を見る。どんな手で来るか、楽しみだ。
……と、思ったんだが、詠唱が長い。さっきから一歩も動かないし、一発の弾も出ない。大魔法か?
でも動きながら詠唱しないと、パーティで魔物と戦うときはともかく、1体1なんて戦ってられないだろう。
様子を見ていると、ようやっと詠唱が終わったのか魔法が飛んで来る。……とても鈍い速度で。
おそらくシュピーツも使っていた『炎槍』なんだろうが……。何だコレ。
飛んできた3本のソレを、片手で地面に叩き落とす。ポシュンという悲しい音とともにそれは消えてしまう。……え?
びっくりして相手を見る。防がれると思っていなかったのか驚いた表情で、詠唱を開始する。え~、……マジ?
このまま待っててもあれなので、自分から距離を詰めていく。詠唱に集中しているのか、相手は気づかない。
踏む込める間合いに来たので、一瞬で間合いを詰める。引き攣った表情の男に拳を打ち込んだ。
吹っ飛んで倒れる。審判が慌てて駆けて行き、気絶と判定された。か、勝った……の?
周りからパラパラと拍手が聞こえる。なんというか、腑に落ちない。これが出場者の実力なのか?
失望を隠しながら控室に戻る。戻る途中、貴賓席にアーネス子爵、サーウェル男爵と一緒にいる皆を見つけた。
笑顔で拍手をしてくれているココアとリリ。拍手をしながら溜息を付いているアリサ。あれはレベルの低さに呆れているな。
そしてその隣に座っている豪華な服装の女の子。恐らくあれが第2王女様だろう。
皆にちょっと手を振って、そのまま控室に戻っていった。
それからの3回戦、4回戦も同じような展開だった。ただ3回戦からは、始めの号令がかかった瞬間に飛び込んで、1撃で沈めるという事になったが。どっちにしろ変わらないだろう。
試合はさっさと進んでいき、やっと準決勝。相手はさっき俺に絡んできたノーア君だ。剣を片手に俺を睨んでいる。
「ようやくこの時が来たな……。必ず貴様を倒して、私に楯突いたことを後悔させてくれる!」
「……お手柔らかに」
それが合図となったのか、審判が始めの号令を掛けた。
右半身になって構えを取る。……ん、首の後ろがチリチリとした。なんか嫌な予感がする。
予感に従って、俺は観客席を見る。どこだ……? どこからこの予感はした?
「試合中によそ見とは、よっぽど死にたいらしいな!!」
挑発されたと勘違いしたのか、ノーアくんが叫んでいる。いや、殺したら負けだよ?
目の端で、ノーアくんが剣を構えている。
「もう許せん!“回れ”チャクラム!」
何かを唱えたノーア君の周りに、円形の刃が浮かび回りだしている。持っていた剣の刀身が無くなっている。あの剣の効果か?
ノーア君が手をかざすと、それらは一斉に俺の元へ飛んできた。
俺はといえば、気にすることもなくさっきの違和感の正体を探していた。
飛んで来る刃を避け、弾きながら辺りを見回す。どこだ、どこから感じた?
「これでも侮辱を止めぬか! チャクラム! 回れ! 回れ! 回れ! 回れ!!」
ノーア君が煩いくらいに叫んでいる。声が掛かる度に刃が勢いを増して飛んで来る。当たることはないが……鬱陶しいな。
避けながら、刃の一つを掴む。そしてそれを飛んで来る刃に向けて投げつけてやる。
俺の投げた刃が他の物に当たり、地面に落ちた。面倒くさいからもう終わらせちゃおう。
一気に間合いを詰めるべく駆け出す。近づいた時、ノーア君が持っていた剣の柄を投げつけてくる。いや、それ投げちゃダメだろ。
飛んできた柄に飛び乗り、ソレを踏んで空中で勢いを付ける。懐に入り、顎を拳で打ち抜く。ノーア君の身体が空中に浮いて、そのまま地面に落ちた。
呆然としていた審判が駆け寄る。気絶。準決勝も俺の勝ちで終わった。ノーア君は、タンカーで運ばれていった。まぁ治療すれば大丈夫だろう。
試合が終わった俺は、再び観客席を見回す。……ダメだ、さっきの違和感を感じなくなってしまった。
正体を突き止めるのを止め、控室に帰る。途中目の端で、王女と子爵がヒソヒソと話しているのを見かけた。子爵様、誤魔化しを頑張ってください!
そして決勝戦……。なんだが、不戦勝となってしまった。なんでもさっきの準決勝を見て、相手が逃げ出してしまったらしい。逃げるとかアリなんだ……。
んで、まぁ優勝が決定したわけなんだが。俺はまだ舞台の真ん中に立っている。それは何故か。
「それでは、これより優勝者との特別試合を開始する!」
……こういうわけだ。聞いてなかったけど、まぁそういうのもあるんだろうなぁ。
「ではまず! 優勝者『白脚』リュウイチ選手!」
舞台の真ん中で観客からの拍手を受ける。当の俺としては喜んでられない状態なんだけど。
「そして特別招待者! アストリア7剣士が一人! 『真眼の剣聖』」
俺の向かいに立つ対戦相手がニヤリと口を歪める。ニヒルに笑っちゃってまぁ。
「ランド・サーウェル男爵!」
片腕を上げたアリサの親父に歓声が上がる。ものすごい人気だなぁ。
「と、いうわけだ。楽しんでやろうな」
「用事があって、大会に出場できないって言ってませんでした?」
「もちろん、出場してないだろう? 用事というのはこの事だ。ほら、嘘は言っていない」
俺のジト目をサラリと受け流す。なんという策士……。いや、俺が引っかかりやすいだけか。
左半身に構え、審判の号令を待つ。ランド男爵は持っていた剣を両手で持ち、中段に構える。
「……始め!!」
審判の号令と共に、俺とランド男爵の試合が始まった。
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