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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
10/48

10-洞窟の先は、不思議の・・・どこ?

 あれから朝を迎えるまでに、2回狼が襲ってきた。

 『魔力剣』で撃退しても良かったんだが、血の匂いで他の獣が寄ってこないとも限らないので、水魔法で対応した。

 倒した狼がもったいないので、1匹を残してふくろに入れ、1匹は朝ごはんになってもらう。

 料理を進めている内に、テントからゴソゴソと音が聞こえる。アリサが起きたのだろう。


「ん~、いい匂いがする~」


 寝ぼけた顔でテントから出てくる。髪もボサボサじゃないか。テントの隣に置いた、温水を入れた桶を指してやる。


「おはよう。そろそろ朝飯が出来るから、その前にそれで顔でも洗いな。可愛い顔が台無しだぞ」


「んぃ~。洗う~」


 まだ寝ぼけているのか、フラフラと桶に向かって行く。いつもなら「か、かわっ」とか言ってるんだけど。これもこれで良いな。

 丁度盛り付けが終わったところで、顔を洗ったありさが戻ってくる。さっきとはちがいサッパリした顔をしている。


「お肉にスープにパン。朝から豪勢ね。食材足りるの?」


 皿に盛りつけられている肉をみてアリサが呟いている。とはいえ肉は昨日仕留めたやつだし、水は作れる。調味料は大量に残ってる。ふくろから出したのはパンくらいだけど、まぁ心配ないだろう。

 手を合わせて「頂きます」と言って食べ始める。


「そういえば前から思ってたけど、珍しい作法よね。頂きますって」


 俺の行動に疑問を持ったのか、そんな事を聞いてきた


「俺の地元の作法でな。食材に感謝して食べるっていう意味だ。ごちそうさまは作ってくれた人に対する感謝だな」


「へぇ、いい作法ね」


 そんな事を話しながら、朝食は和気あいあいと進んでいった。



 テントを片付けて、早速洞窟の入口に来た。暗くてどれくらいの広さがあるかわからない。アリサに光魔法で照らしてもらって中に入る。


「へぇ~、洞窟ってこうなってるのね」


 洞窟に入ったのが初めてなのか、アリサはあっちこっちをウロチョロしている。


「何があるかわからないから、慎重に確認しながら進んだほうがいいぞ」


「わかってるわよ。……あれなんだろ?」


 いや、絶対わかってないだろ。


「今回の依頼は調査なんだし、ディグさんも言ってたろ? 慎重に『カチッ』「あっ!」しないと……。カチッ?」


 ちょっと前の方からそんな音が聞こえた。音のした方向を見てみると、申し訳なさそうなアリサが立っている。足元が少し窪んでいる。まるでスイッチでもあったかのように。


「……お前、まさか」


 俺の言葉にテヘッ! と言いたげに頭を叩いている。ぶりっ子しすぎで逆にキモい。

 俺が踏み出そうとすると、俺とアリサの足元に魔法陣が出来上がる。何が起こるかわからないが、1つだけわかることがある。やっぱりアリサは残念だ!


「ばかたれぇぇぇぇぇ!!」


 俺が叫ぶと同時に、俺とアリサは、その場所から消えていった。











 『ドスン!』

 俺は、尻から地面に着地していた。そう、昨日痛めた尻から……。この世界は俺の尻になんか恨みでもあるのか?

 消えたはずの俺は、暗い場所に降り立っていた。見渡してみると、アリサも同じように臀部をさすっていた。尻から落ちたのか。

 アリサの無事が確認できたので、今度は今いる場所について考えてみる。

 周りの壁は土でできている。暗いながらも、足元に埋められてある石がうっすら光っている。以前見たゴブリンの巣に似てるな。

 おそらく先ほどの魔法陣は、転移させるものだったのだろう。特にダメージもない。

 そしてこの洞窟。出口はどこだろう?

 意味は無いと思うが、『診断』を使ってみる。『ロンド迷宮・壁』と表示される。迷宮!?

 確認していると、アリサが話しかけて来た。


「イタタタタ。な、何が起こったの?」


「大丈夫か? どうやら転移させられたみたいだ。ロンド迷宮って分かるか?」


「転移!? っていうか、迷宮って言った!?」


 色々起こった事に驚いている。アリサが慌ててる感じ、久しぶりだな。

 迷宮というのは、魔族が作った巣のようなものらしい。中には魔物が住み、財宝が眠っていることも多い。別の都市では国が管理し、一攫千金を狙う『探索者』相手の商売を行ってるところもあるようだ。

 話を聞きながら、もう一度『診断』を使う。今度は範囲を広げて、迷宮全体を包むイメージで使ってみる。

 お、地図が頭のなかに出てきた。EXスキルすげぇ。

 どうやらこの迷宮は、アリの巣みたいになっているらしい。出口まで……うん、ちょっと遠いな。

 出口が確認できたことをアリサに告げ、先に歩き出す。アリサは「驚かない……こいつはコレが普通。うん、驚かない」とか呟きながら、後ろをついてくる。

 迷宮全体を確認したからか、迷宮内にいる魔物や人の数についても確認できた。高性能だよね、『診断』。

 人は俺達を抜いて7人が生き残っている。3人が固まっており、一人でいるものがニ箇所と、2人でいるものが一箇所。

 魔物のレベルは大体15~30。虫が多く、次に多いのが蛙。少数の骸骨、所謂スケルトンがいるくらい。魔族の確認は取れなかった。

 そういえば一人で倒さなくても、1発入れるくらいでも経験が上がっていくんだよな。微妙にレベル高いし、アリサのレベル上げにちょうどいいかもしれない。

 方針を決めて、俺とアリサは出口へ向けて、通路を歩きだした。



「ふう、終わったな」


 落ちた地点から3区画ほど歩いた部屋。そこには10匹ほどの魔物がいた。それまでは通路や部屋にも1匹2匹しかいなかったのが、ここで急に出てきた。

 それの殲滅がようやく終わった所だ。


「ふぅ、はぁ……。ちょっと、休もうよ」


 さっきから敵と戦ってきて疲れたのだろう、アリサが弱音を吐いていた。戦うと言っても、俺が抱えてる内になんでもいいから1発いれて、後は俺の後ろで隠れているくらいなんだが。

 まぁ、ここまで歩きっぱなしだしな。


「じゃ、一休みとするか」


 袋から取り出した桶に水を入れ、飲水の入った水筒とタオルを渡してやる。


「つめた~い。生き返る~」


 顔を洗い、タオルを水に浸して身体を拭いている。見えてはいけない部分の肌色が見えた気がする。ん、美乳!


「ちょっと先の通路を見てくる。すぐ返ってくるから、休んでな」


 これ以上眼福を楽しんでいたら、俺の狼が起き上がる気がした。偵察を兼ねて通路に逃げ出す。


「……! …………!!」


 通路を歩いていると、先から男の叫び声が聞こえる。……なんだ?

 こっちに向かって走る音がする。音が荒い、慌てているようだ。


「来るな!! あっちへ、ぎゃああああああ!!」


 今度こそはっきり聞こえた、男の叫び声だ。声のする方向に走る。

 到着した場所には、虫の魔物に押しつぶされた男の遺体があった。さっき叫んだのはこいつだろう。

 乗っかってる魔物を魔力剣で切り飛ばす。すると、奥に丸まっている子供と、子供を切りつけようとするスケルトンが見えた。

 『瞬動』で子供と魔物の間に入る。アッパーで魔物を打ち上げ、呼び出しておいた魔力剣で貫く。バラバラに砕けていった。

 丸まっている子供に穏やかに話しかける。怖がらせる必要もないしな。


「大丈夫か? もう魔物はいない。怪我はないか?」


「ふ……ふぇ?」


 俺の声を聞いて、丸まっていた子供がこっちを向く。……い、イヌミミだと?


「魔物、たおしてくれたの? ……です」


 不安そうにキョロキョロ見回しながら、クリッとした目を向けて聞いてくる。……ほ、保護欲がっ。俺の父性が悲鳴を上げている!!


「あぁ、もう大丈夫だ。怪我はない?」


 理性をフル動員して、もう一度確認する。来ている服がボロボロだし、裸足だ。なんで?


「大丈夫なの。ケガしてないの……です。ご主人様を知らないの? です」


 ご主人様……。逃げながら死んでしまったあの男のことだろうか。


「君の主人は、間に合わなかったよ。ごめんな」


 俺の謝罪に頭を横に振るワン娘。


「ご主人様、置いて行かれたの。です。食うならこいつを食え! って言って走っていったの。です」


 あいつ、こんな子供を置いて逃げたのか? 死んでしまっても自業自得だったのかもしれない。


「そうか、とりあえず俺の仲間がいるところまで行こう。ついておいで」


 優しく告げて歩き出す。魔物に襲われたのが恐ろしかったのか、俺のズボンを握りながら付いてきた。



「何その娘! 可愛い!!」


 ワン娘を見ての開口一番がそれだった。アリサ……わかってるぜ! だがワン娘が怯えてる。自重してくれ。

 濡らしたタオルで顔を拭いてやり、水筒と干し肉を渡す。ハグハグと効果音が出そうなくらい一生懸命に食べている。癒されるわぁ。

 アリサがワン娘を膝に乗せ、頭を撫でている。それが落ち着くのか、食べ終わって落ち着いたのか、ポツリポツリと話し始めた。


「助けてくれてありがとうなの、です。」


「喋りづらいだろ? 「です」を付けなくてもいいよ」


「ですって付けないと叩かれるの、です?」


 こんなちっさな娘を叩くなんて、何考えてんだあの男。大丈夫だよと告げて先の話を促す。


「おっきな街からおっきな街に向かってたの。そしたらピカッってなって、ここにいたの。」


 ふむ、どうやら俺達が遭った魔法陣と同じようなことが起こったらしい。


「どれくらい前なのかな?」


「ちょっと前からなの。最初はご主人様と一緒に座ってたの。でも出口を探すって言って通路に出たの……それで」


 さきほどの魔物に出遭った……と。

 っていうかちょっと前だって? それってもしかして、俺達 (アリサ)が引っかかった罠のせいじゃないか?

 アリサの顔を見る。アリサもその結論に行き着いたのか、バツが悪そうにそっぽを向く。ワン娘を撫でる手は止めていない。


「そうか、話は分かった。どうだい? 俺達と一緒に行かないか?」


 俺の言葉に表情が明るくなる。でも、すぐ暗くなって下を向く。どうしたんだろう?


「でも、犬は亜人で奴隷なの。ご主人様もいなくなったから、お金、返せないの。じゃまものなの」


 奴隷だったのか。っていうか今自分のことを犬って言った!? 名前もつけてもらえなかったのかよ……。


「大丈夫だよ。一緒に行こう」


「邪魔なんかじゃないわ。私達と一緒に行こうよ」


 俺とアリサの言葉がかぶる。なんか恥ずかしいな。


「え……えぅ……。わう!」


 俺とアリサの言葉に、泣きじゃくりながら返事を返してくれる。アリサが抱きしめ、背中をさすっている。

 よほど以前の主人に苛められていたのだろう。この娘の涙が止まるまで、俺はワン娘の頭を撫でていた。











 ワン娘は泣きつかれて、俺の膝の上で眠ってしまった。なので今日はこの場所で野営することになった。

 元々いた魔物は排除したし、通路で眠るよりも気配を察知しやすいし、ちょうどいいだろう。


「で、どうするの?」


「むむぅ、どうしようか」


 俺とアリサは相談していた。この先どうする? とか地上に出た時、この娘をどうするかという内容ではない。


「私はヌーデリがいいと思うのよね!」


 このワン娘の名前である。

 呼び名がないと不便だし、何より自分を犬と呼ばせるのは心が痛い。……なのだが


「却下」


「クーデリア」


「怒られるぞ!?」


 関係者からな


「じゃあワンタール」


「却下」


「カワンティ」


「ワンから離れろよ!」


「スーデル三世」


「三世どっから出てきた!?」


 この有り様である。絶望的なネーミングセンスを披露してくれる。


「も~、さっきからダメばっかりじゃない。それだったらリュウイチはどんな名前がいいのよ」


「俺? んー……」


 この娘の名前……。耳の色。濃い茶色……。


「ココア、かなぁ」


 思いついた名前を言う。


「ココア? いい響きだけど……なにそれ」


 そうか、ココアを知らないか。甘くて茶色い飲み物だと教える。


「飲み物ねぇ。まぁ、明日どれがいいかこの娘に聞いてみましょう。きっと私の付けた名前になるけどね! スーデル三世!」


「気に入ったのそれ!? 二世を連れてきてみろよ!!」


 バカなことを言いながら、毛布をかけて眠る。

 少し遠いとはいえ、俺達が落ちた所は、巣の広さから考えると出口から近かった。明日にはこの迷宮を出られるだろう。明日には宿へ帰って、安心して眠らせてやりたいな。

読んでいただき、有難うございます。

アリサの残念具合が少しづつ上がっていっていますね。もっともっと!(何

因みに、脳内設定では亜人は耳と尻尾がフサフサというくらいで、獣人が人型の動物だと考えています。

まぁ、設定なんてどうでもいいですかね(汗


次回更新は22日を予定しています。

よろしくお願いします。


12月21日誤字修正

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