10-洞窟の先は、不思議の・・・どこ?
あれから朝を迎えるまでに、2回狼が襲ってきた。
『魔力剣』で撃退しても良かったんだが、血の匂いで他の獣が寄ってこないとも限らないので、水魔法で対応した。
倒した狼がもったいないので、1匹を残してふくろに入れ、1匹は朝ごはんになってもらう。
料理を進めている内に、テントからゴソゴソと音が聞こえる。アリサが起きたのだろう。
「ん~、いい匂いがする~」
寝ぼけた顔でテントから出てくる。髪もボサボサじゃないか。テントの隣に置いた、温水を入れた桶を指してやる。
「おはよう。そろそろ朝飯が出来るから、その前にそれで顔でも洗いな。可愛い顔が台無しだぞ」
「んぃ~。洗う~」
まだ寝ぼけているのか、フラフラと桶に向かって行く。いつもなら「か、かわっ」とか言ってるんだけど。これもこれで良いな。
丁度盛り付けが終わったところで、顔を洗ったありさが戻ってくる。さっきとはちがいサッパリした顔をしている。
「お肉にスープにパン。朝から豪勢ね。食材足りるの?」
皿に盛りつけられている肉をみてアリサが呟いている。とはいえ肉は昨日仕留めたやつだし、水は作れる。調味料は大量に残ってる。ふくろから出したのはパンくらいだけど、まぁ心配ないだろう。
手を合わせて「頂きます」と言って食べ始める。
「そういえば前から思ってたけど、珍しい作法よね。頂きますって」
俺の行動に疑問を持ったのか、そんな事を聞いてきた
「俺の地元の作法でな。食材に感謝して食べるっていう意味だ。ごちそうさまは作ってくれた人に対する感謝だな」
「へぇ、いい作法ね」
そんな事を話しながら、朝食は和気あいあいと進んでいった。
テントを片付けて、早速洞窟の入口に来た。暗くてどれくらいの広さがあるかわからない。アリサに光魔法で照らしてもらって中に入る。
「へぇ~、洞窟ってこうなってるのね」
洞窟に入ったのが初めてなのか、アリサはあっちこっちをウロチョロしている。
「何があるかわからないから、慎重に確認しながら進んだほうがいいぞ」
「わかってるわよ。……あれなんだろ?」
いや、絶対わかってないだろ。
「今回の依頼は調査なんだし、ディグさんも言ってたろ? 慎重に『カチッ』「あっ!」しないと……。カチッ?」
ちょっと前の方からそんな音が聞こえた。音のした方向を見てみると、申し訳なさそうなアリサが立っている。足元が少し窪んでいる。まるでスイッチでもあったかのように。
「……お前、まさか」
俺の言葉にテヘッ! と言いたげに頭を叩いている。ぶりっ子しすぎで逆にキモい。
俺が踏み出そうとすると、俺とアリサの足元に魔法陣が出来上がる。何が起こるかわからないが、1つだけわかることがある。やっぱりアリサは残念だ!
「ばかたれぇぇぇぇぇ!!」
俺が叫ぶと同時に、俺とアリサは、その場所から消えていった。
□
『ドスン!』
俺は、尻から地面に着地していた。そう、昨日痛めた尻から……。この世界は俺の尻になんか恨みでもあるのか?
消えたはずの俺は、暗い場所に降り立っていた。見渡してみると、アリサも同じように臀部をさすっていた。尻から落ちたのか。
アリサの無事が確認できたので、今度は今いる場所について考えてみる。
周りの壁は土でできている。暗いながらも、足元に埋められてある石がうっすら光っている。以前見たゴブリンの巣に似てるな。
おそらく先ほどの魔法陣は、転移させるものだったのだろう。特にダメージもない。
そしてこの洞窟。出口はどこだろう?
意味は無いと思うが、『診断』を使ってみる。『ロンド迷宮・壁』と表示される。迷宮!?
確認していると、アリサが話しかけて来た。
「イタタタタ。な、何が起こったの?」
「大丈夫か? どうやら転移させられたみたいだ。ロンド迷宮って分かるか?」
「転移!? っていうか、迷宮って言った!?」
色々起こった事に驚いている。アリサが慌ててる感じ、久しぶりだな。
迷宮というのは、魔族が作った巣のようなものらしい。中には魔物が住み、財宝が眠っていることも多い。別の都市では国が管理し、一攫千金を狙う『探索者』相手の商売を行ってるところもあるようだ。
話を聞きながら、もう一度『診断』を使う。今度は範囲を広げて、迷宮全体を包むイメージで使ってみる。
お、地図が頭のなかに出てきた。EXスキルすげぇ。
どうやらこの迷宮は、アリの巣みたいになっているらしい。出口まで……うん、ちょっと遠いな。
出口が確認できたことをアリサに告げ、先に歩き出す。アリサは「驚かない……こいつはコレが普通。うん、驚かない」とか呟きながら、後ろをついてくる。
迷宮全体を確認したからか、迷宮内にいる魔物や人の数についても確認できた。高性能だよね、『診断』。
人は俺達を抜いて7人が生き残っている。3人が固まっており、一人でいるものがニ箇所と、2人でいるものが一箇所。
魔物のレベルは大体15~30。虫が多く、次に多いのが蛙。少数の骸骨、所謂スケルトンがいるくらい。魔族の確認は取れなかった。
そういえば一人で倒さなくても、1発入れるくらいでも経験が上がっていくんだよな。微妙にレベル高いし、アリサのレベル上げにちょうどいいかもしれない。
方針を決めて、俺とアリサは出口へ向けて、通路を歩きだした。
「ふう、終わったな」
落ちた地点から3区画ほど歩いた部屋。そこには10匹ほどの魔物がいた。それまでは通路や部屋にも1匹2匹しかいなかったのが、ここで急に出てきた。
それの殲滅がようやく終わった所だ。
「ふぅ、はぁ……。ちょっと、休もうよ」
さっきから敵と戦ってきて疲れたのだろう、アリサが弱音を吐いていた。戦うと言っても、俺が抱えてる内になんでもいいから1発いれて、後は俺の後ろで隠れているくらいなんだが。
まぁ、ここまで歩きっぱなしだしな。
「じゃ、一休みとするか」
袋から取り出した桶に水を入れ、飲水の入った水筒とタオルを渡してやる。
「つめた~い。生き返る~」
顔を洗い、タオルを水に浸して身体を拭いている。見えてはいけない部分の肌色が見えた気がする。ん、美乳!
「ちょっと先の通路を見てくる。すぐ返ってくるから、休んでな」
これ以上眼福を楽しんでいたら、俺の狼が起き上がる気がした。偵察を兼ねて通路に逃げ出す。
「……! …………!!」
通路を歩いていると、先から男の叫び声が聞こえる。……なんだ?
こっちに向かって走る音がする。音が荒い、慌てているようだ。
「来るな!! あっちへ、ぎゃああああああ!!」
今度こそはっきり聞こえた、男の叫び声だ。声のする方向に走る。
到着した場所には、虫の魔物に押しつぶされた男の遺体があった。さっき叫んだのはこいつだろう。
乗っかってる魔物を魔力剣で切り飛ばす。すると、奥に丸まっている子供と、子供を切りつけようとするスケルトンが見えた。
『瞬動』で子供と魔物の間に入る。アッパーで魔物を打ち上げ、呼び出しておいた魔力剣で貫く。バラバラに砕けていった。
丸まっている子供に穏やかに話しかける。怖がらせる必要もないしな。
「大丈夫か? もう魔物はいない。怪我はないか?」
「ふ……ふぇ?」
俺の声を聞いて、丸まっていた子供がこっちを向く。……い、イヌミミだと?
「魔物、たおしてくれたの? ……です」
不安そうにキョロキョロ見回しながら、クリッとした目を向けて聞いてくる。……ほ、保護欲がっ。俺の父性が悲鳴を上げている!!
「あぁ、もう大丈夫だ。怪我はない?」
理性をフル動員して、もう一度確認する。来ている服がボロボロだし、裸足だ。なんで?
「大丈夫なの。ケガしてないの……です。ご主人様を知らないの? です」
ご主人様……。逃げながら死んでしまったあの男のことだろうか。
「君の主人は、間に合わなかったよ。ごめんな」
俺の謝罪に頭を横に振るワン娘。
「ご主人様、置いて行かれたの。です。食うならこいつを食え! って言って走っていったの。です」
あいつ、こんな子供を置いて逃げたのか? 死んでしまっても自業自得だったのかもしれない。
「そうか、とりあえず俺の仲間がいるところまで行こう。ついておいで」
優しく告げて歩き出す。魔物に襲われたのが恐ろしかったのか、俺のズボンを握りながら付いてきた。
「何その娘! 可愛い!!」
ワン娘を見ての開口一番がそれだった。アリサ……わかってるぜ! だがワン娘が怯えてる。自重してくれ。
濡らしたタオルで顔を拭いてやり、水筒と干し肉を渡す。ハグハグと効果音が出そうなくらい一生懸命に食べている。癒されるわぁ。
アリサがワン娘を膝に乗せ、頭を撫でている。それが落ち着くのか、食べ終わって落ち着いたのか、ポツリポツリと話し始めた。
「助けてくれてありがとうなの、です。」
「喋りづらいだろ? 「です」を付けなくてもいいよ」
「ですって付けないと叩かれるの、です?」
こんなちっさな娘を叩くなんて、何考えてんだあの男。大丈夫だよと告げて先の話を促す。
「おっきな街からおっきな街に向かってたの。そしたらピカッってなって、ここにいたの。」
ふむ、どうやら俺達が遭った魔法陣と同じようなことが起こったらしい。
「どれくらい前なのかな?」
「ちょっと前からなの。最初はご主人様と一緒に座ってたの。でも出口を探すって言って通路に出たの……それで」
さきほどの魔物に出遭った……と。
っていうかちょっと前だって? それってもしかして、俺達 (アリサ)が引っかかった罠のせいじゃないか?
アリサの顔を見る。アリサもその結論に行き着いたのか、バツが悪そうにそっぽを向く。ワン娘を撫でる手は止めていない。
「そうか、話は分かった。どうだい? 俺達と一緒に行かないか?」
俺の言葉に表情が明るくなる。でも、すぐ暗くなって下を向く。どうしたんだろう?
「でも、犬は亜人で奴隷なの。ご主人様もいなくなったから、お金、返せないの。じゃまものなの」
奴隷だったのか。っていうか今自分のことを犬って言った!? 名前もつけてもらえなかったのかよ……。
「大丈夫だよ。一緒に行こう」
「邪魔なんかじゃないわ。私達と一緒に行こうよ」
俺とアリサの言葉がかぶる。なんか恥ずかしいな。
「え……えぅ……。わう!」
俺とアリサの言葉に、泣きじゃくりながら返事を返してくれる。アリサが抱きしめ、背中をさすっている。
よほど以前の主人に苛められていたのだろう。この娘の涙が止まるまで、俺はワン娘の頭を撫でていた。
□
ワン娘は泣きつかれて、俺の膝の上で眠ってしまった。なので今日はこの場所で野営することになった。
元々いた魔物は排除したし、通路で眠るよりも気配を察知しやすいし、ちょうどいいだろう。
「で、どうするの?」
「むむぅ、どうしようか」
俺とアリサは相談していた。この先どうする? とか地上に出た時、この娘をどうするかという内容ではない。
「私はヌーデリがいいと思うのよね!」
このワン娘の名前である。
呼び名がないと不便だし、何より自分を犬と呼ばせるのは心が痛い。……なのだが
「却下」
「クーデリア」
「怒られるぞ!?」
関係者からな
「じゃあワンタール」
「却下」
「カワンティ」
「ワンから離れろよ!」
「スーデル三世」
「三世どっから出てきた!?」
この有り様である。絶望的なネーミングセンスを披露してくれる。
「も~、さっきからダメばっかりじゃない。それだったらリュウイチはどんな名前がいいのよ」
「俺? んー……」
この娘の名前……。耳の色。濃い茶色……。
「ココア、かなぁ」
思いついた名前を言う。
「ココア? いい響きだけど……なにそれ」
そうか、ココアを知らないか。甘くて茶色い飲み物だと教える。
「飲み物ねぇ。まぁ、明日どれがいいかこの娘に聞いてみましょう。きっと私の付けた名前になるけどね! スーデル三世!」
「気に入ったのそれ!? 二世を連れてきてみろよ!!」
バカなことを言いながら、毛布をかけて眠る。
少し遠いとはいえ、俺達が落ちた所は、巣の広さから考えると出口から近かった。明日にはこの迷宮を出られるだろう。明日には宿へ帰って、安心して眠らせてやりたいな。
読んでいただき、有難うございます。
アリサの残念具合が少しづつ上がっていっていますね。もっともっと!(何
因みに、脳内設定では亜人は耳と尻尾がフサフサというくらいで、獣人が人型の動物だと考えています。
まぁ、設定なんてどうでもいいですかね(汗
次回更新は22日を予定しています。
よろしくお願いします。
12月21日誤字修正




