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白脚と呼ばれた男  作者: アパーム
第1章-メイル伯爵領にて-
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09-今度の依頼は特殊な依頼?

 俺が魔法を覚えてから、10日が経っている。

 この10日で、アリサはレベルが7まで上がった。魔物との戦闘も慣れてきたようで、あまり慌てなくなっている。

 俺はといえば、水魔法を覚えて練習していた。街にある魔法ギルドで確認してもらったところ、俺が得意な属性は水と闇であることが分かったからだ。

 とはいえ、他の属性が覚えられないわけではない。調べてくれた人の話によると、どの属性とも相性がいいが、中でも飛び抜けているのが水と闇とのこと。

 最初は魔力に属性を持たせるのに苦労した。詠唱を繰り返していく内に、水属性に変えるときには、魔力の色が変わっているのに気づいた。コツを覚えてからは簡単だった。

 俺も格闘以外の攻撃手段を手に入れたし、アリサも討伐に慣れてきた。そろそろ討伐依頼を受けてもいい頃合いかな。

 そんなことを考えていた時だった。宿のツィツィちゃんから連絡を受けたのは。


「リュウイチさん、冒険者ギルドのマスターから『来てくれ』との伝言ですよ。」





□






「何があるんだろうな~」


「う……うん」


 俺とアリサは、ギルドの応接室で待たされていた。アリサは緊張してるのか、いつもより言葉少なに、キョロキョロあたりを見廻している。

 そんなに緊張することもないのにな。


「いきなり取って食われることもないんだし、緊張することないぞ?」


「あんたねぇ……。『鈍色の宝剣』と会えるのよ!? 異例の若さでSクラスまで駆け上がった、伝説の冒険者よ!? 緊張するに決まってるじゃない!」


「お、おう」


 言い返された。あまりの剣幕にちょっと引く。そうか、そんなにすごい人だったのか。


「待たせてスマンな。急いで処理しないとならない書類が来てな」


 ディグさんが入ってきた。向かいのソファーに座る。ギルド長ともなると色々仕事があるんだろう。大丈夫です、と返しておく。


「それで、突然呼んだ理由だが……。大丈夫か? 隣のお嬢さんは」


 隣を見てみると、キラキラした目でディグさんを見つめているアリサがいた。「本物の宝剣だ……」とか呟いている。女性に向かって言う言葉ではないが、ちょっとキモい。

 アリサはほっといて、話を続けることにする。


「きっと平常運転です。理由を聞かせてもらえますか?」


「あ、あぁ。最近、といってもここ5日くらいだが、近くの街道で人が消える事件が増えている。」


「人が、消える?」


「その様子じゃ知らなかったようだな」


「盗賊に襲われたとかじゃなくてですか」


「私もそう思っていたんだけどな。昨日、ある貴族の子供が消えた」


 貴族が消えた!? 結構な事件じゃないのか?


「貴族の子供ともなれば護衛も勿論いたはずだ。そこらの盗賊に襲われるはずがない、という結論だ」


 だろうな。貴族が自分の子供に護衛を付けないはずがない。


「その子供の親っていうのが、メイル伯爵とも親交の深い貴族でな。そこで私達冒険者ギルドにも、調査の依頼が来たわけだ」


 そう言って、印章の捺された封筒を見せてくれる。いや、見ても誰の印章か全くわからないんですが……。おそらくメイル伯爵のものだろう。

 っていうか、難しい依頼なんじゃないか? そう思って隣のアリサと目を合わせ……られなかった。こいつ、まだディグさんを見てやがる。幸せそうでいいね。


「もしかして、その依頼を俺達に?」


「そうだ。依頼は極秘の内容だが、受けてもらえると助かる」


 やっぱりか。受けるのは問題ないんだが……。


「なぜ俺達だったんですか?」


 一番の疑問点を尋ねてみる。冒険者ギルドなら、調査に特化した冒険者もいそうなもんだし、なによりFランクへの依頼にしては重すぎる気がする。


「恥ずかしい話、今このギルドの高ランク冒険者は出払っている。強くて多少の無理が利く冒険者を考えると、最初に出てきたのが君だった」


「俺が周りに言いふらすとか、考えなかったんですか?」


「目立ちたくないと言い張る君が、こんな内容を吹聴するとは思えなくてな」


 むむ、見透かされている。……まぁいいか、受け


「リュウイチ、何渋った振りしてるの!? 『鈍色の宝剣』からのご指名なのよ? 受けるに決まってるわ! 受けます!!」


 答えようとした俺を遮って、復活したアリサが喋り出す。宝剣と呼ばれたディグさんが苦笑いだ。


「残念美乳はちょっと黙ってね」


「残念……!?」


 ショックを受けたり、自分の胸を見て赤くなったりを繰り返して、ようやくアリサが黙った。忙しいヤツだな。


「わかりました、受けさせてもらいます。詳細を教えてもらっていいですか?『宝剣』さん」


「そう言ってもらえると助かる。……後その呼び方は勘弁してもらえないか」


 困ったような苦笑いで、ディグさんが詳細を話してくれる。あの二つ名イヤだったんだ……。



 貴族の子供が消えたのは、この街から馬車で10日くらいの、ランデル市との間の街道。この街から2日ほどの距離の地点。

 その地点の付近には、洞窟が1つあるくらいで、付近には森も何もない。

 以前にも人が消えたのは、この洞窟の近くということもあり、今回の調査はこの洞窟を調べてほしい。もし発見できれば、貴族の子供も保護して欲しい。というものだった。

 洞窟までの簡単な地図、それと支度金を貰って、ギルドをでた。最後に言われた「よろしく頼む」という言葉が、なんだか重かった。


「早速行くわよ! さぁ、急いで向かうわよ!」


 元気満点で飛び出そうとするアリサにデコピンを食らわせる。


「ひゃう! ……何するのよ!?」


 額をさすりながら俺を睨んでくる。いや、ジト目にしか見えないぞ。可愛さ2割増し。怖さが足りないな。


「ちょっと落ち着けよ。携行食も、寝袋も持ってない状態でどうやって野営するんだ?」


「ぁう……。気合で? ひゃう!」


 もう一発デコピンをお見舞いしてやる


「出発は明日。今日は各自で準備! 備えあれば嬉しいなってな」


 日本の諺を持ちだして、自信満々に伝えた。不満そうに「嬉しいな……?」と考えこんでいたアリサだったが、納得したのか買い物に出かけていった。……あれ、嬉しいなで合ってたよね?

 さて、俺も買い物に出かけるか。


 買い物は大量だった。ふくろの中は時間が進まないので、生物だって保管して置けるのだ。野営だって美味しいもの食べたいしな。

 買ったものは干し肉に果物、肉に野菜、フライパンと鍋。薪やらテントや寝袋。身体を洗うための水を入れる桶に、タオル沢山。石鹸に水筒。お皿とコップ。

 挙げだしたらきりがないので、ここらへんでやめておこう。夜に部屋で確認して、やりすぎたかな? と後悔したのは言うまでもない。


 翌日になって、俺とアリサは早馬車に乗って出発した。この馬車は、昨日俺が依頼しておいた。なんでも目標の地点まで1日もかからずに到着できるらしい。

 素晴らしい! と思って依頼したのだが……普通の馬車で2日の距離を1日もかからずに着くというのは、言うほど簡単ではなかった。

 尻が痛い。

 震動が凄いなんてもんじゃ無い。M7.5くらいに感じた。見越していたのか、持ってきたクッションに座ってるアリサはそうでもないみたいだが。


「……貸してあげないわよ」


 俺が見ていたのに気づいたのか、そんな事を言ってきた。胸のちっさいやつだなぁ


「胸は関係無いでしょ!」


 口に出てたか、失敗失敗。

 目標に到着まで、俺は尻の痛みと戦い続けるのだった。






□






 洞窟の近くまで到着して入り口を確認した後、俺達は向かいの森で野営の準備を開始した。したのはいいんだが……。


「なんで俺が料理してんだろ」


 隣で薪に火をつけるアリサを見る。気まずそうに顔を背けられた。……はぁ。


 事の始まりは簡単だ。野営を開始して、俺はアリサに持ってきた食材を伝えた。そして流れるように聞いた、何作んの? って。んで、帰ってきた言葉がこれ


「アタシ料理なんてできないわよ?」


 ガッカリする俺にまくし立てるように言い訳をするアリサ。曰く「貴族だったんだもの」。曰く「街で御飯食べれたし」。曰く「干し肉って美味しいもんね!」。

 全部ジト目で封殺してやったが。食材があるのに干し肉を食べたくなかった俺が、料理を開始すると告げると、諦めたように薪を拾いに行った。しょぼんとした表情が可愛かった。言わないけどね。

 日本で自炊をしていたとは言え、別に料理を勉強したこともないので、あまり期待するなとだけ伝えておいた。

 料理を開始して、なんだかいつもと違うことに気づいた。肉の焼け時や、使うと美味しくなるだろう調味料が何となく分かるのだ。

 勘に任せて料理を行い、持ってきた皿に移して食べ始める。いただきますを忘れない。


「!! おいふぃ!」


 ひとくち食べたアリサが驚きの声を上げた。飲み込んでから喋ろうぜ。

 とはいえ、自分で作ったとは思えないほど美味しかった。俺こんなに料理上手かったっけ?

 一心不乱という言葉が相応しいように、即行で食事を終え、水魔法で皿を洗った。俺は主夫か!?


「あ~、美味しかった。リュウイチ、あなた宮廷料理人でもなれるんじゃない?」


 満足したのか、火にあたりながらそんなことを言ってくる。この残念め……。


「今度からアリサも料理の勉強だな」


「嫌! 絶対嫌!!」


 即答かよ。


 そしてその日は寝ることにした。テントを立てて、中に1つだけ寝袋を入れる。アリサを寝かせて、俺は入口前で毛布にくるまって寝る。何が襲ってくるかわからないし、番をしないとな。


「入って寝ないの?」


 そんなことを言ってくる。こいつ、俺が男だってわかってるか?


「一応番をしないとな。慣れてきたら交代で番をしよう。今日は俺がやるよ」


 警察学校でも、休みの日に教官と行ったキャンプでやらされた。寝てても異常報があればすぐ起きれるようにという訓練らしい。まぁ、仕事じゃなくてプライベートだったし、生徒で行ったのは俺だけだったし、冗談だと思うが。

 その言葉を聞いて納得したのか、アリサはテントで寝入った。どこでもすぐ寝れるってのは凄いな。

 アリサが寝入って数時間して、気配察知に何かが引っかかった。おそらく狼のたぐいだろう。目を凝らして見てみると、3匹ほどの狼がこっちを見ている。

 初めての野営の夜は、長そうだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

今度、地図を作ってみようと思います。手元にはあるのですが、データ化が・・・。


次回更新は21日予定です

よろしくお願いします

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