セナとササラ 2
4年目の初夏、セナはエルトゥーリア女王に呼ばれた。神官長も同席である。神官の長たる月王の執務室で、女王と相対する。
「久しぶりね、セナ神官。良い働きをしていると聞いているわ」
「ありがとうございます」
「さて、今日呼んだのは、あなたの今後のことについてなの。中央地方の統括官が来年度いっぱいで引退するの。で、その後任にあなたを考えてるのよ」
「まだ内定も内定だから、口外しないようにな。これから、徐々に統括官に必要な仕事を覚えてもらうから、そのつもりで」
セナは、神官長の言葉にうなずいた。
女王は、カサネのことで話があるからと、セナを残した。神官長が部屋を出ると、女王がはあと、大きく息をつき、どさっと椅子の背にもたれた。
「は~、やっとあの狸親父が引退了承したのよ~。本当ならもう2,3年前に引っ込んでるはずだったのに~~!」
「まあ、まだなさりたいことがあったのでしょう」
むくれる女王に、狸親父と称された人物を知っているセナは苦笑した。
「あの人がつっかえてたから、全然人事が動かせなかったの!カサネを早くよびもどしたかったのに」
「ありごとうございます。女王陛下に気にかけていただいて、妹も幸せです」
頭を下げるセナに、女王は手をひらひらと振った。
「いいのよ。カサネのことが好きなんだから。あ、それと、神官長がいる前では聞けなかったんだけど、セナって独身でしょ?連れてく人はいるの?」
「いえ、いませんが」
「ふ~ん、じゃあ、早めに決めたほうがいいわよ。統括官は基本妻帯者だから。ぼやぼやしてると、勝手に決められるわよ」
「はあ」
困ったことになった。女王の下を辞して、神殿までの帰り道、セナはため息をつきっぱなしだった。
身を固めないといけない。ぼやぼやしていると、誰か押し付けられそうだ。カサネのことを心配している場合ではなくなった。
「連れてく人」と言われて、一瞬浮かんだ顔がある。ササラだ。
昨年カサネとスオウのことを打ち明けてから、ずい分と関係が変わった。学問のことだけでなく、子どもの頃の話や、好きなこと嫌いなこと、話題が多岐にわたるようになったのだ。何の話題でも打てば響くササラとの会話は、心地よい。セナは、そんなササラと離れたくなかった。
考え事をしているうちに、いつの間にか神殿へとついていた。セナは、ガリガリと頭をかくと、神殿の門をくぐった。
女王に呼ばれてから、セナの様子がおかしい。神官業務は完璧なので、ササラ以外は気付いていない。
ちょうど、カサネから手紙が来たので、口実に応接室に呼び出した。
「カサネは吹っ切れたみたいですねぇ。手紙に愚痴はないですよ」
「そうだね…」
「セナさん、どうかしたんですか?この間女王陛下に呼ばれてから、ちょっと変ですよね?」
「う~ん、わかっちゃうか。それより、ササラは、結婚する気無いの?」
「え?まあ、こんな学問ばっかりの女、もらってくれる人いませんもの」
ササラが、なにを突然とクスクス笑う。
「じゃあ、もらってくれる人がいたら結婚するんだ」
「え、ま、まあ。そうですね。私を理解してくれる人なら」
ササラが、話の展開についていけず、首をかしげた。セナが居住まいを正して、ササラに向き合う。
「実は、次の中央統括官の内内示が出たんだ。一年半後に、異動になる」
「―おめでとうございます。あれ?統括官って、妻帯が基本ですよね…」
一瞬傷ついたようなササラに、セナは期待を持った。
「うん、だからね、ササラ。僕の妻として一緒にいってくれませんか?」
ササラは目を見開いて、セナを見つめていた。微動だにしないササラに、セナは心配になり、肩に手を置きゆすった。
「え、あ…」
「大丈夫かな?」
「ええと、ビックリして」
「さっき、自分を理解してくれる人ならって、言ったよね。僕はササラがどんなに学問を大事にしてるか知ってる。みんなに相談して、神官続けられるようにしよう。だから、ササラ。どうか僕の奥さんになってください」
セナの表情がこわばっている。
いつも落ち着いたセナが、私への求婚でこんなに緊張してるなんて―。ササラは、ほんのり頬を染めて、小さな小さな声で「はい」と言った。
その答えを聞いたセナの笑顔は、ササラの心の中だけの宝物になった。
プロポーズまでたどり着きました~。婚約~結婚式は、また、別の機会に。




