5.5年目
それは都から来た手紙から始まった。
さわやかな初夏のある日の午後、カサネは配達人から2通の手紙を受け取った。1通はセナから父への手紙、もう1通はササラからカサネへの手紙だった。
「お父さん、兄さんからよ」
珍しく忙しくない日だったので、父娘は休憩に入るところだった。神殿に隣接する住居部分のリビングへと入ると、カサネは父に手紙を手渡した。お茶を入れた母が、父の横に座る。
カサネも二人の向かいに腰を下ろすと、お茶を一口飲んでから、ササラからの手紙を開けた。
『こんにちは。今日は報告があります。一緒に出したセナさんの手紙にも書いてありますが、この度、セナさんと結婚することになりました』
「ええ~!?」
「なに~?!」
父娘はほとんど同時に叫んだ。
「お、お父さん、お兄ちゃんとササラが…」
「そ、そっちにもそう書いてあるのか?」
「ねぇ、なに?なんて書いてあるの?」
親子3人が、大騒ぎだ。とりあえず、落ち着こうとお茶を飲み、座りなおした。
二通の手紙を読み合わせた結果、ササラとセナの結婚の話の経緯がわかった。
・去年からお付き合いがあったこと
・今年に入って結婚の話になり、神官長らと相談していたこと
・すでに月王である女王陛下の許可もおりていること
・結婚式の時期については、次にカサネが大神殿に来たときに調整すること
・式は大神殿で行い、3人とも出席して欲しいこと
「去年からって~、そんな話ぜんぜん聞いてない~」
カサネは、ササラから何の話もなかったことにショックを受けている。
「あなた、ぼ~っとして大丈夫?」
「あ、ああ。セナのことは全く想定外だったからなぁ。ちょっとびっくりした」
「まあねぇ。でも、お嫁さんがきてくれるなんて、うれしいわ!半分あきらめてたのよ~」
「お前ね…」
「カサネはササラさんのことよく知ってるでしょ?話聞かせて頂戴!」
「え、えーとね…」
母にササラの話をしながらも、カサネの頭の中は兄とササラの結婚という衝撃にぐるんぐるんしていた。
その日の夜、スオウとハーンに分厚い手紙をかいたのは言うまでもない。
時は流れて、セナとササラの結婚式当日。
最初のショックを過ぎれば、兄と友達が結婚するのだ。嬉しくないわけが無い。
カサネは、ササラの相談相手となり、準備にも出来る限り協力した。このときばかりは、離れているのがもどかしかったが、毎日のように手紙をやり取りして、満足の行くものにしたのだった。
今、カサネは控え室で、化粧の仕上げをしているササラを見つめている。いつも控えめなササラだが、今日は輝くように美しい。
「ササラ、きれいよ」
「ありがとう、カサネもよ」
にっこり笑いあうと、カサネはくいっと顔の向きを変えられた。
「さ、次はあなたよ、カサネ」
化粧道具を持ったカルラが、妖艶に微笑む。カサネは、新郎新婦たっての希望で(影に女王陛下がいるとかいないとか)スオウと共に、祝いの舞を舞うのだ。そのため、花嫁と一緒に控え室で着付けと化粧を施されているのである。
やっと化粧から解放されると、待っていたスオウとともに祭殿へ。「お二人が最後です」と言われて慌てて入ると、参列者がいっせいに注目するので、ギョッとする。スオウに手を引かれてドキドキしながら席についたが、花嫁ってこんな感じ?とか思ったりしたのは、秘密。
セナとササラが入場して、神官長が夫婦と認めると、カサネとスオウの出番だ。カサネは兄と友達のために心をこめて舞った。誰もが祝福する、すばらしい結婚式だ。
「やっぱり結婚もいいかも~」
ポツリとカサネがつぶやいた言葉に、スオウの瞳が輝いたが、それにカサネが気付くことはなかった。
セナとササラがお付き合いするきっかけは、カサネとスオウの事情を話したことです。
次回最終話。




