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ただ一たびの 2

後編です。ちょっとせつないです。

「そうして、このお守りは私の元に来たのです」


そう言ってリュウ神官は、胸元の火の神のお守りに手をやった。

前の席に座るカサネとスオウは、ため息をこぼすしかなかった。


ここは、リュウ神官行きつけの街の酒場で、城からの帰り道に行き会ったリュウ神官が、たまには一緒にと、二人を誘ったのだ。

話も盛り上がり、楽しく過ごすうちに、カサネが以前から気になっていたことをリュウにたずねた。


「リュウ神官、あの、その胸のお守りは火の神のお守りですよね? リュウ神官は、この町の出身だから、光の神か商売の神を信仰されていると思うんですけど…」

「ああ、これですか?これは、預かり物なんですよ」


そう言って、話したのが、火の島での出来事だったのだ。


「…それで、彼女とは…?」


スオウの問いに、リュウは視線を下に落とした。


「カズホと分かれた後、父の元にいきましてね、彼女のことを神官に尋ねたのです。彼女のフルネームを聞いて、びっくりしましたよ。彼女は、ホオトの皇女でした」


リュウの言葉にカサネとスオウが息を呑む。ホオトは皇帝を絶対視し、皇帝以外の皇族は神官として奥宮に一生封じられる。彼らが奥宮から出られるのは、神官になる時と死んだ時だけ。


「ご存知のようですね」

「…はい」


カサネは、思わずスオウの袖をつかんでいた。カズホにとって、リュウとの交流はどれほどうれしかったろう。人生でただ一度の機会に出会えた幸運。


「…カズホの皇女という立場と意味を知って、私は、神官になろうと思ったのですよ」

「それは…」

「ふふっ、少年の浅知恵ですよ。神官になれば、火の島の神殿に赴任できると思ったのです。同じ火の島にいて、同じ神官なら、カズホとまた会えるかも知れない」


リュウは、いつもの柔和な笑顔で笑った。その手は、愛おしそうに火の神のお守りをなでている。


「まあ、父の後を継ぐことに疑問を持ち始めていたこともありましたし。どう考えても私より弟のほうが向いている。私が神官になれば、神殿とのつながりも深くなりますしね」

「リュウ神官が、商人…。想像つかないです」

カサネがう~んとうなると、リュウは自分でも想像つかないと笑った。


「神官は、私の天職だったようです」

「火の島には、赴任されたんですか?」


スオウは、火の島が気になるようだった。


「ええ、神官になって、7、8年経ったころでしょうか。カズホにも着任の挨拶状をだしましたよ。カズホからの礼状には、あなたの側に火の神の加護がありますようにとありました」

「それは…そのお守り…?」

「ええ、私もそう思いました。私には、それで充分だったのです。このお守りがある限り、私はカズホとつながっている」


そう言ったリュウの微笑みは、満ち足りたものだった。



いい時間なので帰りましょうという、リュウの言葉に3人は酒場を後にした。

寒くも無く暑くもなく、神殿までそぞろ歩くのには、ちょうど良い季節だ。


「年寄りの昔話につき合わせてしまいましたねぇ」

「いいお話でした」


カサネを真ん中に3人で、しゃべりながら歩いていると、ふとスオウが足を止めた。

何かと思ってスオウの視線をたどると、夜空に星でない光が一つ。

柔らかなあたたかい光は、すうっと3人に近づいてくる。


「…!」

声を出そうとしたカサネの口をスオウの手がふさいだ。


光はスピードを上げて近づいてくると、リュウの胸のお守りに飛び込んできた。


― リュウ、来たよ! ―


カサネの耳には、確かにそう聞こえた。見上げたスオウの顔からして、彼にも聞こえたのだろう。そして、リュウ神官は…。

うれしそうに、胸のお守りを抱きしめるリュウを見れば、わかるというもの。


「いらっしゃい、カズホ。待ってましたよ、約束を守ってくれたんですね」


「スオウ、カズホさんは…」

「ああ、身体から離れてやっと自由になれたんだよ」

「よかったね…」




かつて少年と少女が出会った。ただ一たびのふれあいは少女の心の一生の支えとなり、少年の人生を変えることとなる。

ただ一たびの約束を、二人が忘れることはなかった―





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