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豊穣の日

カサネとスオウ婚約中の話。

二の月になり、街にはウキウキした気分が広がってきている。


二の月の中旬には、豊穣の日がある。豊穣の女神の祭りである。この女神は夫婦仲がとても良いので、恋人・夫婦の守り神としても、知られている。


女神にお供えするのはお菓子と昔から決まっていて、お払いを受けたお菓子を分けあえば、夫婦円満・恋愛成就だと言われている。

いつしか、豊穣の日にお菓子を渡せば、恋が叶うと言われはじめ、今では一大イベントとなっていた。



カサネはなぜか城の厨房にいた。

横には、困惑顔の女官長とカルラ。目の前では、エルトゥーリア女王が、にっこり笑っている。


何で、厨房?いつものように、お茶会にやってきたはずなのに…?

カサネが状況にとまどっていると、女王が説明を始めた。


「あさって豊穣の日でしょ?でね、今城下町では、豊穣の日のお菓子を自分で作るっていう教室が大流行なんですって!だから、私達も作りましょうね」


子供のように目をキラキラさせて女王の後ろで、料理長がため息をついている。今日のスケジュールはメチャクチャになるのだろう。

誰だよ、女王にそんなこと教えたのは!!と、カサネが見知らぬ犯人に、殺意を覚えても仕方がない。


かくして、女王様の厨房でのお遊びは、3人を巻き込んで始まったのである。



ガシャ、べちゃっ。

「じょ、女王様、もう少しやさしく…」

「あら~、半分なくなっちゃった~」


ボワッ!!

「じょ、女王様!!火が強すぎます!!」

「あ、ごめ~ん。料理長の帽子こげちゃったわ」


女王陛下が、次々とやらかしてる横で、3人は黙々と作業を続けていた。

カルラは、料理人の指示通りさくさくとこなしている。女官長は、初めての作業にとまどいつつも、女官として培った能力でついていく。

そして、意外なことにカサネが一番上手だった。神官になるつもりは無かったので、花嫁修業として家事全般は身に着けていたのだ。カサネ本人も、料理は好きで、実家にいた頃には、よく菓子を作ったものだ。

料理人に褒められてうれしくなり、鼻歌を歌いそうな上機嫌で作業を進めていく。


「み、皆様、生地を型に入れられましたね。では、ここからは、私どもが、オーブンで焼きますので、出来上がりましたら、おもちします」


料理長が汗を拭き拭き、そう宣言した。後ろでは、料理人たちが、夕食の準備に追われていた。

3人は、料理長の意思をくみとり、オーブンに未練たらたらの女王を厨房から連れ出したのであった。



「やあ、おかえり」

やや引きつった顔の王をはじめ男性陣が、出迎えてくれた。

王の顔をみたカサネは、女王の厨房遊びが初めてでないことを悟り、同情するのだった。


張本人の女王は、楽しそうに王に報告している。それを見る王様の目はとてもやさしくて愛おしそうで…。


「まあ、本人がいいなら、いいか」

スオウの横に座りながらつぶやいた言葉は、スオウに聞こえたようだ。

「なにが?」

「うん、トゥーリア様が厨房でなにか作ること。ヴァン様の反応次第だったら、止めさせようかなって思ったんだけど…」

「ヴァン様は、トゥーリア様が笑顔なら、何だっていいんだよ。毎日じゃないし。料理長には、何ヶ月かに一回、我慢してもらうことになるけどね」

「そうね。ヴァン様とトゥーリア様が幸せならそれが一番ね」

そう言ってカサネが見回すと、皆も温かな目で王と女王を見ていた。カサネは一つうなずくと、お茶を一口飲んでから、スオウに厨房での出来事を楽しそうに話し始めた。


焼き菓子は、小さなバスケットに入れられて、作った者の手元へとやってきた。

「まあ、カサネのは売り物のように上手ね」

「女官長のもふんわりとできてますわ」

「カルラ先生のはつやつやですね」

3人が、焼き菓子を褒めあっているなか、女王は沈んだ様子で自分の焼き菓子を見ていた。色は悪いし、硬そうだ。それに数も少ない。


女王のバスケットからひょいっと一つ焼き菓子がとられた。王が焼き菓子を食べている。

「ヴァン…。ごめんなさい、上手にできなかったの」

「美味しいよ。トゥーリアが俺のために焼いてくれたんだから」

「ありがとう、ヴァン」


相変わらず甘々な二人に、皆は苦笑いをするしかなかった。


カサネは豊穣の日にスオウに焼き菓子を渡し、とても喜んでもらった。

「お菓子がこんなにおいしいなら、料理が楽しみだな」

耳元でささやかれて、真っ赤になったのは、誰にも内緒だ。


こうして、豊穣の日は何事も無く(直前にはちょっとあったけど)終わったのだった。



後日、女王が「リベンジよ~」と、厨房におしかけ、料理長が涙したのは、また別のお話。

月の国版バレンタイン話でした。

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