6.遅れてきた少年
「カサネ、これからスオウも同行します。大神殿で見習いになるので、慣れるまであなたが面倒をみてあげなさい。」
「はい。」
アカネに言われて、カサネはスオウをじっくり見た。
細いけどしっかりした体つき、顔は王に似ているだけあって、いい部類に入る。しかも、血筋はいうことなし。神殿に行ったら、女子が騒ぐだろう。ミサキなんか大騒ぎしそうだ。
係わり合いになると面倒なことになりそうだから、男子寮長に紹介して引き取ってもらおう、などとツラツラ考えたいたら、スオウがくすっと笑った。
カサネはちょっとムッとしたが、騒ぎを起こすわけにはいかず、口を閉じる。
話し合いは、ミオが夕食だと呼びに来るまで続いたのだった。
宴はそれはにぎやかだった。この村にこんなに人がいたのかと驚くほどの人数だ。いまは、食べ物はほとんど食べつくされ、男たちは飲みに移ってる。カイはまるで村人のように馴染んでるし、騎士たちもかなりくつろいでいる。女たちも、腰を落ち着け、話に花が咲いていた。
カサネはというと、部屋の隅で子供たちに囲まれていた。膝の上にはじ登られ、両腕にしがみつかれ、都の話をねだられている。ちょっと大きい子は、カサネの服に興味津々だ。
膝の上の小さな子がカサネのおさげを手に取りしげしげと見ている。
「チョコレートみたい。たべたらおいしいのかなぁ?」
「そんな事いわれたの初めてよ。残念だけど、食べられないわ。」
部屋中が、笑いに包まれる。あぁ、今絶対顔赤いわー。カサネはいたたまれないが、子供たちはそんな事お構い無しだ。
「ねえねえ、都にはチョコレートのほかにどんなおかしがあるの?」
「おしろはおおきいの?」
次々に投げかけられる質問にカサネが疲れを覚えた頃、見守っていたスオウが助け舟を出してくれた。
「さあ、もう皆寝る時間だよ。カサネさんも疲れてるから、今日はこれでおしまいだ。」
スオウの言葉にこれ幸いとカサネは子供たちの輪から抜け出した。子供たちはしばらくごねていたが、やがて納得したようだ。
「じゃあ、また明日ね。」
「うん、おやすみなさ~い。」
「お姉ちゃん、おやすみー。」
子供たちに見送られて、スオウについて部屋を後にする。2階へ上がりもうすぐ与えられた部屋というところで、カサネはスオウに声をかけた。
「…あの、ありがとう。救出してくれて。」
「いや、子供たちが悪かったね。ただでさえ訪問者は少ないんだけど、年の近い君が珍しくて。」
「ううん、そんなに気にしないで。」
「ありがとう。」
ふわっと浮かべたスオウの笑顔に、ちょっとドキッとしたのは気のせいだとカサネは自分に言い聞かせる。
するとスオウはカサネのおさげを1本手に取り、口付けた。
「な…!!」
真っ赤な顔で目を丸くしたカサネにスオウはくすっと笑った。
「チョコレートの香りがするかと思って。」
「~~!し・ま・せ・ん!!おやすみなさいっ。」
「お休みー。」
勢いよく部屋に飛び込むと、カサネはベッドの枕に八つ当たりをする。
「もう、もう、もう!」
絶対、男子寮長に押し付けてやるんだから!と決意を新たにするカサネであった。