14.幼きもの
カサネは目の前の男の子に目を丸くした。
「シュウリードだよ。シュウって呼んで。お姉さんは?」
「カ、カサネ。」
「うん、カサネ。ぼくと一緒にここでくらそう!」
シュウは、カサネから離れない。
「あ、あのね。そういう訳にもいかなくて…。」
「どうして?カサネはぼくがきらいなの?」
「そうじゃなくて…。」
「ぼくに気がついてくれたのは、カサネだけなのに…。」
泣きそうなシュウに、カサネは途方にくれる。困ったことになった。
その時、かすかにスオウが呼ぶ声がした。
「スオウ!ここよ!」
「カサネ、いっちゃヤダ!」
シュウがカサネに抱きつく。カサネはかまわずスオウを呼ぶ。
洞窟の中に舞い降りたスオウは、カサネに抱きつくシュウの顔を見て、絶句した。
シュウはスオウをにらみつけている。
「え~と、スオウ?この子シュウが、私を連れてきた竜なんだけど…。」
「あ、ああ。」
スオウは、まだシュウをまじまじとみている。自分の子供の頃を見ているようだ。
「シュウ…か。他に仲間はいる?」
スオウの問いにシュウは首をふる。
「わかんない。天界にいたのに、気がついたら、ここにいた。」
カサネとスオウが顔を見合わせる。
「クロスにまかせるか。」
「それがいいと思う。」
「ヤダ、カサネと一緒がいい!」
さらにぎゅっとカサネにしがみつく。
「あのね、私たちが住んでるすぐ側に泉を守る竜がいるの。そこにいかない?」
「すぐ側だから、いつでも会えるぞ?」
シュウが二人を見上げた。
「他にも竜が、いるの?カサネの近く?」
カサネとスオウがこっくりとうなずくと、シュウはしばらく考えてから、行くと答えた。
ほっとした、カサネとスオウの耳に、人馬の音が聞こえたきた。
「騎士団だ。追いついたか。」
「シュウのこと、どうしよう?」
カサネがうろたえると、スオウがシュウの前にしゃがんだ。
「シュウ、一芝居うとうか。」
「しばい?」
「そう。これから念話で伝えるとおりにするんだ。できるな?」
「うん!」
「いい子だ。」
スオウはシュウの頭をなでると、カサネを抱き上げ、すっと空まで飛び上がった。
「首につかまって、カサネ。今から竜体のシュウがでてくる。」
スオウの言うとおりにすると、先ほど出てきた洞窟から、竜のシュウが風をまといながら飛び出してきた。周りの騎士団員は、あわてて攻撃の用意をしている。
「団長、攻撃しないでください。」
スオウが騎士団長に呼びかけると、団長は騎士たちを制止した。
「迷い込みし天界の竜よ。ここはあなたのいる場所ではない。いるべき場所へいくがよい。」
スオウがシュウに呼びかけるのを、皆かたずを呑んで見守っている。
『迷惑をかけたな、光の末裔よ。お前の言うとおり、いるべき場所へと行こう。』
シュウはそう言うと、大きく翼をはばたかせ、空のかなたへと消えていった。
シュウが見えなくなると、カサネはつめていた息をはきだした。スオウがゆっくりと地上に降り立つ。
「ご無事で。」
騎士団長が近づいてきた。
「ええ、いきなり迷い込んで訳がわからなくなっていた様です。落ち着かせたら、話が通じました。」
「そうですか。周りを確認したら、帰りましょう。少々おまちください。」
騎士団長はそう言うと、指示を出しに行った。
スオウは、手近な倒木にカサネと腰を下ろした。カサネの怪我を調べたが、かすり傷だけだった。
「それより、髪の毛だわ。」
あちこちほつれた髪の毛をカサネは解き始めた。ピンを抜くのをスオウも手伝う。手で髪をすいて、ピンの取り残しが無いかをスオウが確かめる様子は、傍から見ると、恋人同士にしか見えない。
「そろそろ帰れそうだけど、馬まで歩ける?」
「…腰がぬけた…。」
スオウは苦笑すると、カサネを抱き上げて、先ほど乗ってきた馬に近づいた。
「また、お借りしても?」
騎士団長はあなたならと快く貸してくれた。
カサネが前にスオウが後ろに乗り、王都へと帰っていく。
「帰ったら、王と女王とクロスに話を通さないと。」
「う、それがあったか。」
カサネがスオウの胸にもたれて、馬で帰ってきた様子は、多くの人々に目撃され、二人の噂に拍車がかかるのであった。




