13.とらわれて
女王の言葉通り、カサネの周囲は、静かになった。
今日は久々に、ミサキの家にきていた。スオウは、ミサキの夫と店先で話している。
「女王様の庇護下に入ったんでしょう?」
「そう、この年になって保護者がつくとは思わなかったわ~。」
「ま。身の安全が第一よ。で、カサネの本命はどっちなの?」
「ほんめい?」
カサネは首を傾げた。
「あの事件で、ほとんどの貴族が脱落して、カサネの結婚相手はスオウと騎士団長に絞られたって言うもっぱらの噂よ?」
「ええ!?何で?騎士団長なんてお城に行って時に挨拶するくらいだよ?スオウだって、王のいとこだもん。私となんてありえないって!」
「…うわ~、鈍いにも程があるわ~。」
「ひど~い、鈍くないわよ。」
ミサキはあきれてため息をついた。スオウに同情する。
「スオウが王のいとこなら、あんたは女王の被後見人でしょうが!?同等よ、同等!」
「そうなの?」
「そうなの!」
今一納得しきれないカサネとスオウが帰った後、ミサキはスオウに心から声援を送ったのであった。
そんなやり取りのあった数週間後、カサネとスオウは合同授業で、神殿を囲む森の中に来ていた。街中では医者がいる為に必要ではないが、小さな集落では、神官が簡単な治療を受け持つ。そのため、薬草の知識も必要とされるのだ。
鎮痛剤、傷薬、眠りやすくなる薬など。数種類の薬草を、採取する。
一通りつみ終えたシイナと共に、倒木に腰を下ろすと、どさっと下に落ちた。どうやら、落ち葉と倒木に隠れた洞窟に落ちたらしい。底もたまった落ち葉で柔らかかったのが幸いだ。
「あた~、シイナ、大丈夫?」
「はい、打ち身だけです~。」
立ち上がって、落ち葉をはたいていると、上からスオウの声がする。
「カサネ?そこにいるのか?」
「スオウ!シイナと二人よ。落ち葉の上に落ちたから怪我はないわ。」
ふわっと、スオウが飛び降りてきた。
「先にシイナをお願い。」
スオウがシイナをつれて、飛び上がった。カサネは無事にシイナが戻ったのを見上げる。ふと、後ろに視線を感じた気がした。振り返るが、もちろん誰もいない。真っ暗な洞窟が続くだけだ。消えない気配に首をひねっていると、スオウが迎えに来たので、気のせいだったのだろうと思うことにした。
次の日の午後。《鏡の舞》の授業後、スオウはヴァナートに呼ばれて城に出かけていった。カサネは、神殿でエドゥー商会の納品に立ち会った後、見送りに外にでると、すっと影に入り暗くなる。
え、と思うまもなく、カサネは巨大な物体に身体をつかまれ、そのまま持ち上げられた。意識を失う前に目に入ったのは、自分をつかんで飛んでいる、黒っぽい竜の姿だった。
竜が飛び立つ姿は、城でも確認された。連れ去られたのがカサネだとわかると、スオウは騎士団長が乗ろうとしていた馬に駆け寄った。
「借りますっ!」
「おい、その馬はオレ以外…!」
スオウは騎士団長を無視して、ひらりと馬にまたがると、馬の腹を蹴った。凄まじいスピードで竜を追っていく。
「なんて奴だ。オレ以上に乗りこなしてやがる。」
騎士団長は、にやりと笑うと、部下に他の馬を用意するように命じた。
「神官に遅れをとるな!」
騎士団は、スオウの後を追った。
カサネは、洞窟の中で目を覚ました。空が大きく見える、開けた場所だ。身体の下には、ふかふかの落ち葉が敷き詰めてある。
「う~ん、捨てられた?」
「捨ててないよ。」
上から声がしたので、ぎょっとすると、先ほどの竜が、手に果物をいっぱい持っておりてきた。大きいので、洞窟に入るだけでいっぱいいっぱいだ。
「はい、これ食べて?」
目の前に、大量の果物が落とされる。おそるおそる竜を見上げると、期待に満ちた目で見られた。
「あ、ありがとう。」
一つ手に取ると、うれしそうだ。
「それ、おいしいよね!」
びゅんと指差されて、思わず後ずさった。竜が首を傾げる。カサネは心の中でスオウに助けを求めた。竜の姿はクロスで慣れているけど、いかんせんこの竜は大きすぎる。何をされるかわからない。
「この姿はこわい?」
「ちょ、ちょっと。」
肯定すると、竜は考え込んだ。
「わかった。これなら、こわくない。」
竜は、そう言うと見る間に小さくなり、人の形をとった。
目の前には、10歳くらいの男の子。カサネと同じ濃い色の髪の毛に琥珀の瞳。
そして、その顔はスオウそっくりだった。




