12.庇護
カサネはぼんやりと目覚めた。身体が重い。
「おはよう、カサネ。」
スオウの声に、飛び起きようとして止められる。
「足を怪我してる。気をつけて。」
布団をめくると足に包帯が巻かれていた。怪訝そうなカサネにスオウが問いかける。
「夕べのことは覚えてる?」
カサネは首を横に振った。頭も重い。右手で顔をおおう。
「…町で占いに入った辺りから、よく覚えてない。」
「そこで暗示をかけられたんだな。夕べ君は裸足で門の外まで出ようとしたんだ。」
「…なんで?」
「神殿内は結界で守られてるから、外まで出たところを攫うつもりだったんだろう。」
カサネは言葉も無かった。自分の立場の危うさに今更ながら気付き、動揺する。
横にすわったスオウがそっとカサネをだきしめる。
「ごめん。僕が甘かった。もう大丈夫だ。二度と君から離れない。ヴァン様とトゥーリア様にも話は通してある。食事をしたら、城に行くよ?誰がカサネを守るのかはっきりさせる。」
カサネはスオウにすがるしかなかった。
いざ、登城となった時、スオウはカサネを抱きかかえて歩き出した。カサネがどんなにいやがって拒否しても、頑として譲らない。最終的には、犯人に見せ付ける必要があるといわれて、カサネが折れた。
手配良く門前にまわされた馬車に乗り、城の入り口まで乗りつける。話が通っているらしく、普通に迎えられ、そのまま謁見の間まで通される。もちろん、お姫様だっこだ。カサネは視線と緊張とで死ねるかもしれないと思った。
謁見の間には、カサネの椅子が用意されていた。スオウはカサネを椅子におろすと、その後ろに立った。二人は、頭を下げた。
「頭をあげよ。挨拶はいい。スオウ、事情を話せ。」
頭をあげたスオウは両脇に陣取る家臣たちをチラッと見てから、昨夜の事件を話した。
「犯人は捕らえなかったのか?スオウ。」
「カサネの治療を優先させました。いつでも捕らえられますし。」
エルトゥーリアが心配そうにカサネを見た。
「怪我の具合は?カサネ。」
「は、はい。足ですので、歩くの、が…。」
急に息苦しくなって、カサネは言葉を切った。
「押さえろ、スオウ。皆が耐えられん。」
「申し訳ありません。」
王の言葉と共に、息苦しさがなくなった。スオウの力が暴走したらしい。
「頼むぞ、スオウ。お前が本気になったら、私でも止められるかどうか。」
苦笑する王に、スオウが頭を下げた。室内の家臣たちはどよめいている。スオウの力がこれほどとは思っていなかったのだろう。
「ヴァン。私決めましたわ。カサネを私の庇護下に置きます。保護者としてスオウをつけ、神殿の外出には必ず同行すること。カサネに害なすは私に害なすこととみなします。また、カサネとの婚姻には私とヴァナート王の許可を必要とします。よろしいですわね、ヴァナート王。」
エルトゥーリア女王がヴァナート王に視線を向けると、王は頷いた。
「よいな、スオウ、カサネ。」
「はい。」
カサネとスオウは、両王に頭をたれた。
「これで、そうそう手を出されることはないわ。」
優雅にお茶を口まで運びながら、エルトゥーリア女王は宣言した。
「トゥーリア様…。申し訳ありません。」
「あなたが謝ることはないのよ。カサネ。私たちが甘く見てたんだから。」
「そうだ。家臣たちがここまで馬鹿だとは思わなかったぞ。」
ヴァナート王が呆れたように言う。
「重臣たちは、カサネとスオウの価値をわかってるから、こんな事しないわ。考え無しにやったのは、出世をあせる小物よ。」
カサネの言葉は辛辣だった。
「どちらにせよ、僕が目を離したのが間違いだった。これからは、ずっと側にいるから。」
「う、うん。」
スオウが真剣にカサネを見つめる。勘違いしそうになる心をカサネは必死に押しとどめる。
「ま、スオウに任せとけば大丈夫でしょ。結婚は私とヴァンの許可が必要だしね。」
エルトゥーリアがカサネにウインクした。スオウが嫌そうな顔をした。
ふ~ん。私の結婚は、王家のための政略結婚になりそうだな~と、カサネはぼんやり思った。話が大きくなりすぎて、現実感がない。
面倒くさいから独身がいいんだけどな、とはさすがのカサネも言葉にはできなかった。




