9.光の神殿ふたたび
翌日も、老人と一緒になった。ユーリはすっかり懐いて、おじいちゃんと呼んでいた。
夕方、馬車はヒルドレードに到着した。老人とはお別れだ。
「おじいちゃん、バイバイ!」
老人は宿へと向かった。スオウ達は神殿だ。
神殿に向かうと、門が閉ざされていた。気付いた神官がこちらへやってきた。
「参拝の方ですか?もうお時間が過ぎています。明日おいでください。」
「いえ。神官長にユーリが来たとお伝えください。」
そういうと神官の顔色がさっと変わった。
「少々お待ちください。」
門の中に消えると、すぐに戻ってきた。
「お待たせいたしました。神官長がお待ちしております。どうぞ、こちらへ。」
神官に先導されて、光の神殿の中に入った。緊張するユーリはカサネとスオウの手をつかんでいる。
祭壇の前で神官長は待っていた。祭壇の後ろに大きく開いた場補から夕日が見える。
壮年の神官長は、ユーリの前にひざを着いた。
「ようこそ、光の神殿へ。」
「ありがとう。月王エルトゥーリアの第3子ユーリアートです。お世話になります。」
ユーリは言い終わると確認するようにスオウを見上げる。スオウがうなずくとほっとした表情を浮かべた。
「大きくなられましたなぁ。3年ぶりだが、覚えていらっしゃいますか?」
神官長はにこやかにユーリに話しかける。ユーリが困ったように首を傾げるので、神官長はお小さかったから無理も無いと笑った。
「さて、お久しぶりですな。スオウ殿、カサネ殿。お二人にお願いがありましてね。是非琥珀の舞姫と陽光の神官に奉納舞を捧げていただきたい。」
神官長の言葉にユーリが目を輝かせた。
「僕も見たい!」
キラキラと見つめるユーリに二人はうなずく他なかった。
カサネの支度にはニイナがついた。ニイナの娘シイナのことを話しながら、衣装を身に着けていく。
「うちの娘どう?」
「がんばってますよ~。《鏡の舞》が楽しみです!」
「よかったわ。そう言ってもらえて。さ、出来た。」
《鏡の舞》の衣装ほどではないが、豪華な衣装だ。本来なら、儀式で使用するものであろう。
スオウと合流する。おお、凛々しさ3割り増しだ、と少しドキッとした。
「おまじない、する?」
スオウの問いにこくんとうなずく。
お互いの胸に手を当て、こつんと額をつける。
「うん、じゃ行こうか。」
そろって祭壇の前に進む二人の後には、きゃぁと声を上げ頬をそめた女性の神官たちが残されていた。
位置に着くと、ユーリの隣で手をふっている女王と王が目に入った。思わずスオウを振り返ると、スオウもあ然としている。知らなかったようだ。
伴奏が流れてきた。気を取り直して、舞に集中する。光の神ヒルデに捧げる舞の始まりだ。
月の光を浴びて舞う二人は、幻想的だった。水晶の粉を散りばめた衣装がキラキラと光る。まるで、精霊のようだった。
やがて、舞が終わり二人が礼をすると、祭殿は賞賛で沸きかえった。
興奮したユーリが二人に駆け寄る。
「カサネ、スオウ!すごかったの、きれいで、それで…。」
うまく言葉に出来ない自分をユーリは悔しがった。カサネとスオウがひざを折って、目線を合わせる。
「ありがとうございます。ユーリ王子。」
「お褒めの言葉、うれしいです。」
「あのね、あのね。また舞を見せてくれる?」
カサネとスオウはにっこり笑った。
「もちろんです、月の王子様。」
ユーリは喜んで二人に抱きつく。その後ろでエルトゥーリア女王が満足げに笑っていた。
その後、歓迎会が行われた。主役のユーリが休んだ後は、酒が飛び交う宴会へとなだれ込んだ。
カサネがニイナをはじめとする女性神官たちとユーリを寝かせてきた女王とおしゃべりしていると、そこへ、スオウがやってきた。ずいぶんとご機嫌だ。
「カサネ~。」
スオウはカサネに抱きつくと、お腹に頭をぐりぐり押し付けてきた。
「ちょ、どんだけ飲ませたんですか!?」
スオウを連れてきた神官にかみつく。
「いや~、なかなか酔わないもんだから。火酒を2本ほど…。」
「2本って…!」
1本で熊が倒れると言われる火酒を2本。カサネは信じられないとスオウをみる。カサネにしがみついたまま、眠ってる。
「スオウ、ここで寝ちゃダメよ!起きて!!」
声を掛けてもゆすっても起きない。カサネにしがみつく手がきつくなっただけだった。
「あ~、もう起きないわね、これは。」
女王が面白そうに言う。
「このまま、ここで寝ちゃえば?お布団持ってきてあげる。どうせ、皆ここで雑魚寝だし。」
ニイナや他の女性神官が動き出した。みな、ほろ酔いだ。
「そんな~!?」
カサネの叫びは無視され、結局朝までスオウから逃れることは出来なかった。




