8.家族旅行(仮)2
最初の町に着くまでの公爵家の馬車の中で、ユーリ王子はすっかりカサネとスオウになついた。いつも、兄姉と一緒にいるので、100%自分に目が向くことはない。カサネとスオウは自分で独り占めできるのがうれしいらしい。9歳とはいえ、まだまだ甘えたいのだろう。
ユーリの外見は、父のいとこであるスオウと良く似ており、充分親子で通った。最初の町で、定期馬車に乗り換える待ち時間にも、お父さん似ねぇと声を掛けられた位だ。
休憩時間のたびに、ユーリは駆け回って遊び、旅を満喫していた。スオウは見守ったり、相手になったり。カサネは、それを見つつも他の客と女同士の話で盛り上がる。遊ぶのに満足するとおかーさんと抱きついてくるユーリ。
仮初めの家族のはずなのに、いつのまにかすっかり本当の家族のようだ。
4日目の夜。この日は昼から天気が崩れ、町についたころには雨が激しくなっていた。寝ようとする頃には、雷が鳴りはじめてきた。
カサネとユーリが一つのベッドに入る。二人とも、雷が鳴るたびにビクビクしているのに気付いたスオウが声を掛けた。
「だ、大丈夫よ。雷なんか、こ、こわくないわ。」
「そ、そうだよっ。」
抱き合って応えるカサネとユーリの声は震えている。
ドンっと大きな雷が落ちた。
「ひゃぁあ!!」
二人が飛び上がるのを見たスオウがため息をついた。
「仕方ないな。」
二人が震えてる布団に身体をすべりこませた。
「今夜だけだよ?」
ユーリを抱えるカサネごと抱きかかえる。
「わ~、あったかい。」
ユーリはご機嫌だ。
「ス、スオウ!?」
カサネの動揺は雷に負けた。バリバリという音と衝撃にカサネはスオウにしがみついた。
「近くに落ちたな。大丈夫だよ。」
スオウはそう言って、カサネの背中をさすってくれた。
その手が暖かくて。雷から守ってくれる気がして。カサネはいつの間にか眠ってしまった。
当然スオウは眠れるわけが無く。腕の中の幸せを感じつつも、明日は馬車の中で昼寝だなと自分の忍耐力をほめるスオウであった。
朝日と鳥の声で目が覚めた。目の前にあるスオウの寝顔。眠っているスオウはいつもより幼くて、あの旅の頃を思い出す。
カサネは抱きかかえられている腕を伸ばすと、スオウの顔にかかった金色の髪をそっと払った。
「ん…。」
スオウがゆっくりと目を開けた。
「おはよう。」
「…おはよう?」
まだ寝ぼけているスオウにカサネはくすくすと笑った。なんて幸せな一日の始まりなんだろう。これが本当ならいいのに、とカサネはこっそり心の中で思う。
二人の間にいるユーリがもぞもぞ動き始めている。こちらも起きたようだ。
「おはよう、ユーリ。いい天気よ。」
「う~、おはよう~。」
「おはよう、さあ起きようか。」
スオウの言葉に3人は起き上がった。
その日の昼の休憩で、走りに走り回ったユーリは、午後の馬車の中で、眠ってしまった。カサネとスオウの真ん中で、幸せそうにカサネにもたれている。
「ふふ、本当、眠っているときは天使ね。」
カサネがショールをかけながら、つぶやく。
「本当に。」
スオウが愛おしそうにユーリの頭を撫でた。
「うるわしい家族の図ですなぁ。」
昼から同乗した老人がにこにこと話しかけてきた。
「私は少し絵を描くんですが、スケッチしてもいいでしょうか?」
カサネとスオウは顔を見合わせた。スケッチくらいならいいだろう。
「ええ、かまいません。」
スオウの応えに老人は嬉々として、紙を取り出し、手を動かし始めた。
「どちらまで行かれるんですか?」
「ヒルドレードです。光の神殿で見る朝日は何度見ても感動しますよ。」
話しながらも手は休まない。あっという間に、スケッチは終わったようだ。老人は大陸中を旅しているのだという。
老人の話は楽しく、起きたユーリも交えて、その日の目的地まで馬車の中は笑いが絶えなかった。




