7.家族旅行(仮)1
それは、突然だった。教師生活も3ヶ月目に入り、落ち着いた頃。いつものように女王のお茶会に呼ばれた。
全員がそろってお茶をいただき、ひとしきり話をした後、エルトゥーリア女王が爆弾を落としたのだ。
「あ、そうそう。カサネとスオウにね、お願いがあるの。第2王子のユーリを光の神殿に行かせたいから、一緒に行ってね。」
エルトゥーリアがにっこりと命令する。語尾にハートマークがつきそうだ。
「ユーリに、普通の旅をさせてみたいの!あ、親子っていう設定がいいかしら。」
カサネとスオウは固まっている。ヴァナートはもう説得を諦めたようだ。
「…とりあえず、王子と顔合わせしましょうか。」
カルラの言葉で、お茶会はお開きになった。
翌日、カサネはミサキの店で盛大な溜め息をついた。
「あら、お疲れねぇ。」
「あ~、ちょっとね。仕事のことで…。」
うそは言ってない。確かに仕事だ。
昨日はあれから、カルラとライトを巻きこんで大変だった。日程の調整、王子との顔合わせ、留守中の授業の代行などやらなければならないことが山積みだったのだ。いまも、スオウは城に打ち合わせに行っている。
「ん~、出張に行くことになりそうなのよね~。」
「ふ~ん、大変ねぇ。それより、これ読んだ?さっき買ってきたの。琥珀の舞姫と陽光の神官の特集号よ!」
ミサキがテーブルに新聞を広げた。
「え~と、何々?
琥珀の舞姫と陽光の神官が帰ってきた!
6年前に百年に一度の舞い手と絶賛された二人が神官学校の教師として呼び戻された。女王自ら呼び戻したという二人に期待がかかる。
ですって!」
「ひえ~、褒めすぎだよ~。あ、この写真、ゼント公爵家に行った時のだ。うわ、いつの間に撮ったんだろ?」
「…あなたの交友関係を聞くと、イラッとするのはなぜかしら?」
「へ?」
「女王のお茶会には呼ばれる。ゼント公爵家とは親しい。カイ総督夫妻とも懇意。陰陽の一対の愛弟子。たしか光の神殿にも親しい神官いたわね?」
「う、うん。」
「主要な都市全部押さえてるじゃないの。自分が貴族や商人にとってどれだけ価値があるか、わかってる?」
「だ、大体は。絶対一人になるなって言われてる。だから、今日も後でスオウが迎えに来るの。」
「そう。それならいいけど。…いい?くれぐれも変な男に引っかからないのよ?」
「わかってますって。」
「不安だわ~。この娘。」
二人の掛け合いは、スオウが迎えに来るまで続いたのであった。
翌週、カサネとスオウはゼント公爵家の馬車に乗って出発した。ユーリ王子はお忍びなので、公爵家で落ち合うのだ。
公爵家に着くと、神官服から一般の服へと着替える。後からやってきた王子も同様だ。
エルトゥーリアいわく、小金持ちの親子が光の神殿にお参りするという設定なのだそうだ。
「トゥーリア様、完全に楽しんでますよね…。」
ぽろっとこぼすと、王子についてきた女官も否定しなかった。
念のために、おとりの馬車を出し、ついで、目立たない馬車で次の街までいく。次の街からは一般の馬車に乗り換えることになる。
おとりの馬車に乗るのは、公爵家の使用人だ。カサネ役はなんと霧の里のユーリだった。いまや宵の一族の若者の多くは、王都やソレスで働いていた。
お久しぶりですと挨拶されたカサネはわからなかったが、「おねーさん、相変わらずニブいね」と言われてやっと思い出した。少年のようだった女の子は、すっかりお年頃になっていた。
シア、ユキトをはじめ、ゼント公爵家総出の見送りをうけ、おとりの馬車は旅立っていった。カイ総督のところまで行くことになっている。
ややあってから、王子とカサネ、スオウは裏口からひっそりと出発した。
「さて、今から、私たちは親子です。王子、ユーリと呼びますよ。私とカサネのことはお父さん、お母さんと。」
「うん、わかったよ。お父さん、お母さん。」
「上出来です、ユーリ。」
3人は、にっこりと笑いあった。
こうして、家族旅行(仮)は、始まったのである。




