27.初めての贈り物
《鏡の舞》の舞い手は、お互いに装飾品を贈り、それを身に着けて本番の《鏡の舞》を神に捧げる慣わしがある。
というわけで、カサネとスオウは、カルラとライトに連れられて、王都でも指折りの装飾品を扱う店に来ていた。
「こんにちは、今年もお世話になります。」
カルラとライトが店主に挨拶をする。舞い手の装飾品は毎年この店が扱っている。
「こんにちは、カルラ先生。十年ぶりですかな、ライト先生?これからもよろしくお願いします。」
人当たりの良さそうな店主が、にこにことやってきた。店主自らが対応するようだ。
「こちらが、今年の舞い手です。」
「おお、噂の琥珀の舞姫と陽光の神官ですな。お会いするのを楽しみにしていました!」
店主は手放しで喜んで、カサネとスオウと挨拶をかわした。
「さて、カサネ、スオウ。舞い手はお互いに贈るものを自分で選びます。自分の目で見て、決めなさい。」
カルラの言葉に、店主が付け加える。
「もちろん、私どももお手伝いします。代金は王家からいただきますので、気になさいませんよう。それとスオウ君、女王さまから伝言です。《鏡の舞》で使う髪飾りを贈りたいので、カサネさんに似合うものを選ぶように、だそうです。」
「トゥーリア様…。」
ぷいと横を向いたスオウの頬が、かすかに赤かった。
「昨日のお茶会でご機嫌だったのは、これですか。」
ライトが苦笑しながら、スオウを髪飾りのコーナーへと引っ張っていった。カルラはカサネと一緒に違うコーナーへ向かった。
「女王様は、君にチャンスをくれたんですよ?」
こそっと耳打ちされた言葉に、スオウは飛び上がった。
「ラ、ライト先生!?」
「お茶会のメンバーはみんな君の見方ってことですよ、スオウ。」
ライトが面白そうにニヤッと笑った。いつも真面目で理知的なライトのそんな表情はとても珍しかった。スオウは真っ赤になってうなっている。自分の思いは皆に知られているということだ。この年頃にとって恥ずかしいこと極まりない。
「さて、どんなものがいいでしょうかねぇ?私の経験から言うと、こういうのは見た瞬間目に飛び込んでくるんですよ。」
10年前にカルラに贈っているライトがスオウに助言をあたえた。
その頃、カサネはどんな種類のものを贈るかで、頭を悩ませていた。なにしろ、家族以外の男性に贈り物をしたことがない。更に、今回贈るのは装飾品である。男に装飾品ってどうよ?と思うものの、決まりなので仕方がない。
というわけで、カサネはカルラに助けを求めた。
「先生たちの時は、何を贈り合ったんですか?」
「ライトは私に、イヤリングを贈ってくれました。赤い石のついた垂れ下がるタイプのものです。」
「うわぁ、ステキ。先生の銀髪に赤が映えそう。」
「はい。舞うと揺れてきれいだと皆に言われました。」
カルラがそっと微笑む。カルラ神と会ってから、カルラは喜怒哀楽を少しずつ表に出すようになってきていた。
「先生は何を贈ったんですか?」
「私は、白金のブローチを贈りましたよ。ライトは胸、ちょうど心臓の上につけました。そこで私を感じられるようにと。」
「そ、そうですか…。」
さらりとすごいことを言われてカサネはそう答えるしかなかった。
「カサネ、ちょっと来てくれる?」
スオウに呼ばれたのをこれ幸いと、カサネはその場を離れた。
何かを持っているスオウの横には、ライトと店主がいる。
「なぁに?それ?」
ライトの手の中には、金色の細い筒のようなものが2つあった。蔦模様が刻まれており、所々に碧石がはめ込まれている。腕環に似ているが、それにしては細すぎた。
「これは、髪飾りなんですよ。」
ほら、こうしてと店主が筒を開くとカサネのおさげをはさんだ。おさげが太すぎるため、半分はみ出ている。
「本来は、髪飾りの中に髪を収めるんですが。こんな感じで使います。」
「うわぁ、きれい…。」
うっとりするカサネに、スオウがほっとした顔になった。
「これでいいかな?」
「うん!」
カサネがかえした満面の笑みに、スオウは目を瞠った。
「気、気に入ってもらえて、よかった…。」
スオウがうつむき加減でもごもご言うのを大人たちはあたたかく見守るのだった。
「では、女王様からの髪飾りはこちらで。さぁ、後はお互いのものですよ?」
さりげなく、店主からプレッシャーをかけられ、カサネとスオウはあわてて装飾品探しに戻った。
あーでもない、こーでもないと探しまくった結果、お店を出たのはもうすっかり夕方だった。神殿に戻る頃には、日が暮れていそうだ。
結局スオウはカサネにネックレスを、カサネはスオウにブレスレットを選んだ。
ネックレスは3連で、鎖ではなく金で編んだ細い紐でできていて、髪飾りと同じ碧石がいくつか付いている。鎖のように絡まないし、舞った時の見栄えもいい。
ブレスレットは2本選ばれた。カサネは、スオウの瞳と同じ碧石のものを選んだのだが、スオウが琥珀のものを追加した。
「こうしたほうがカサネと一つになれる気がする」というスオウの言葉に、どきっとしたのは気のせいだと、カサネは思うことにした。
「お二人とも、よい品を選ばれましたね。相手のことをよくわかっている。さ、品物は後で神殿に納めさせていただきます。また、そのときに確認をお願いいたしますね。」
店主はにこやかにそう締めくくった。
《鏡の舞》は、だんだん近づいてきている。
でも今が楽しくて心地よくて。
ずっとこのままでいられればいいのにとカサネは思った。




