26.自覚
日付が変わろうとする頃、スオウは眠ることを諦めて、横を向いた。隣のベッドには、こうなった原因のハーンが安らかに寝息を立てている。
もともと、寮長のハーンが二人部屋を一人で使っていたのだが、後からスオウが加わったのであった。
「この男が結婚ねぇ…。」
スオウが小さくつぶやいた。
きっかけは今日の夕食時のおしゃべりだった。何かの話から、進路について話題が変わった。
「ぼくとカサネは、実家の神官になるためにここに来たから、当然として、他の人は?」
「私は、神学者になりたいの。できれば、大神殿に勤めたいわ。」
ササラは皆が納得の答えを口にする。
「あ、ボクも実家の神殿。で、2,3年したら許婚と結婚。」
ハーンの爆弾発言に、一同はぽかんとした。
「い、許婚いるの?ハーンに?!」
カサネがつっこむ。
「ん?神官にはそんなに珍しい話じゃないでしょ。」
「いや、でも…。」
カサネはまだ信じられないようだ。変なものを見るような目でハーンを見ている。
「どんな人?」
スオウが興味深げに聞いた。
「いわゆる幼馴染。隣町の神官の娘でいっこ下。」
「どうやって決めたの?親からの縁談?それとも自分で?」
復活したカサネが質問に加わった。
「半分半分かなぁ?このままだと親たちが話進めそうだけどどうするって話したら、まあ、いいかってなった。」
「…なんか、ハーンらしいな。」
「それだけ?ロマンチックな話はないの!?」
「ボクにそれを求める?」
「…すみませんでした。」
カサネは素直に頭を下げた。
「まあいいか」で、この男は結婚するのかと、スオウはハーンを眺めた。他にも同様の者は多いだろう。この世界の結婚適齢期は20歳前後だし、不思議はない。ましてや神官は神官同士または神官の血縁と結ばれることが多かった。早いうちから、縁談が舞い込むのだ。
ただ自分は結婚なんて、何も考えていなかった。日の隠れ里の初代神官になることで手一杯だった。いずれは里の誰かとでも結婚するのだろうが、今は何も想像できない。
カサネは、どうなのだろう?スオウは、ふと考えた。今まで聞いた事もないし、今日の様子からも婚約者はいないようだった。
カサネはラウの神殿を継ぐ。ということは、相手は神官が望ましい。
スオウは頭の中で花嫁衣裳のカサネの横にとりあえず同級生を並べてみた。
眉間にしわがよる。気に食わない。違う同級生に換えてみた。眉間のしわは消えない。
ぼくはカサネの結婚が気に気にくわないのか?スオウは、知ってる限りの神官と見習いを、片っ端からカサネの横に並べてみた。
そして、数十分後、最後に自分を並べたときに、衝撃がスオウを襲った。
なんて事だ。カサネの結婚が気に食わないんじゃない。カサネの横にぼく以外が並ぶのが気に食わないんだ。
その事実はスオウの頭と心を混乱させるのに充分だった。
しばらく放心した後、スオウは起き上がった。
そうか、ぼくはカサネが好きなのか。そう自覚したスオウの行動は早かった。
今更ぐっすり眠れるわけもないので、もう起きてしまおうとベッドを降り、机に向かう。
実りある未来の為に、協力を取り付けるべき人物のリストを書き始めた。
まずは、エルトゥーリア女王。カサネは女王のお気に入りだし、女王は神殿の人事にも関与できる。
次に、カサネの兄、セナ神官。スオウは彼に認められていると感じていた。カサネの両親との橋渡しもしてくれそうだ。
それからあの人にこの人…。
スオウは、楽しそうにリストを書いていった――。




