18.見つけたものは
ササラが本の古語を解読するのに約一月。解読した文章の一部が暗号だったので、得意なハーンが解くまでに約一月。
この二月の間に、カサネとスオウは3回も女王のお茶会に呼ばれていた。
初回、カサネはそれはもう緊張していた。王と女王に会うのは、旅立ちと帰還の挨拶の時以来だ。あの時はその他大勢でくっついていただけだが、今日は間近にいらっしゃるのだ。話しかけられたらどうしよう。
半分パニックだったカサネを落ち着かせたのは、スオウだった。光の神への奉納舞を確認したいといって、カサネを舞に巻き込んだ。舞が終わる頃にはカサネは平常心になっていた。
いつのまにか席に座っていた王と女王に拍手をされ、真っ赤になって挨拶をする。王も女王も気さくで、カサネもいつの間にかすっかり馴染んでいた。
女王もカサネをすっかり気に入り、またいらっしゃいと帰された。本当は、毎回呼びたいらしいが、見習いの生活に支障が出るということでアカネの許可が下りなかったのだ。
お茶会に何度も呼ばれることで、カサネとスオウの周辺はますます騒がしい。カイのお蔭で実害は無いものの、常に何人もがちょろちょろ視界に入ってきてうるさい。更に神殿ではミサキは今回の試験でカサネに負けたのがよほど悔しいらしく、やたらと絡んでくる。伯父のリュウ神官がいさめてくれるが、なかなかおさまらない。
「はぁ、この4人でいる時だけ安らげるわ~。」
くつろぐカサネにスオウが苦笑する。4人は今神殿内の個室を拝借している。
「二人とも大変だね~。さて、これがぼくとササラが苦労して解読できた中身だよ。」
ハーンが紙を2枚広げる。
「こっちがササラの解読した、本の内容。で、こっちがぼくの解読した暗号ね。」
「本の内容は、この大神殿の創建に関する記述ね。暗号が関わってくる部分は、天界との門である泉とその守護者についてよ。」
ササラの説明にカサネは目を丸くする。
「天界への門って、あのおとぎ噺に出てくる?竜が守ってるって言う?」
「そう。この本によれば、その大神殿は泉の跡に建てられたらしいわ。」
スオウがテーブルをコツコツと指でたたく。
「…ふ~ん、竜ね。まぁ、無いこともないか。」
「一族に何か伝わってるのか?」
「…近いことは…。」
スオウはそれ以上話す気がなさそうなので、ハーンは諦めて話を進めた。
「でだ、この暗号部分によると、泉は無くなったのではなく、封印されたらしい。で、そこに通ずる道がこの大神殿の中にある、と。」
「どこどこ!?」
「まぁまぁ、落ち着いて、カサネ。」
ハーンは3人の顔を見回す。どの顔も好奇心でいっぱいだ。
「その道は、祭壇の裏にあると書かれてるんだ。」
そして、今は夜。就寝時間はとっくに過ぎている。4人はこっそり神殿の中にはいりこみ、祭殿の裏へと回った。
「ここ?」
カサネが声をひそめてハーンに聞く。
「うん、そのはずだよ。…あ、ここかな?彫刻にまぎれてるけど、扉になってる!」
「声が大きいわ、ハーン。」
ササラがあわてて、ハーンを制した。
「ごめん、つい興奮して。さて、スオウ君、ここからが君の出番だ。」
「だと思ったよ。封印を解けばいいんだろ?」
スオウが苦笑しつつ、扉とおぼしきものの前に立つ。
「どう?」
苦戦している様子のスオウをカサネが覗き込む。
「ん…、かなり頑丈な封印だけど、そうとう古いから綻んできて…。っと、できた!」
スオウが一歩下がると、キィという音を立てて、ゆっくり扉が開いた。
「よし、行こう!」
スオウを先頭に、4人は扉の中に入っていった。
真っ暗な道に、それぞれが明かりを掲げる。道は真っ暗な奥へと続いていた。
スオウが先頭を、ハーンが最後を守る。ササラとカサネは身を寄せ合いながら歩を進めた。
やがて、ぽっかり空いた空間に出た。天井が一部地上に繋がっているらしく、細い光がさしこんでいる。そして、その光は地面ではなく水を照らしていた。
「これが泉…?」
「以外に小さいな。」
明かりを動かしてよく見ようとした4人は、光に浮かんだ物体に固まった。巨大な身体。背にはコウモリのような大きな翼。口からのぞく牙。誰もが想像する伝説の竜の姿そのものだった。
すっとスオウが近づいた。カサネは声にならない悲鳴をあげる。だが、竜は微動だにしない。スオウは竜の体に手を伸ばした。
「…本物じゃないよ。彫像だ。」
「にせもの…?」
カサネは脱力した。
「なぁんだ。驚いたなぁ、もう。なんだってこんなの置いたんだ?」
「泉の伝説を再現したかったのかしら?」
「そんなとこだろうね。じゃぁ、この泉もあやしいなぁ。」
「ねぇ、位置的に考えると、裏庭の枯れ井戸じゃない?」
「あっ、そうかも。」
どうやら、ハーンとササラの中では結論が出たようだ。じゃぁ帰ろうかと戻りはじめたので、カサネも後を追う。
しばらくして、スオウがついてきていないことに気づき、二人に「見てくるから先に部屋に帰っていて」と言うとカサネは泉へと戻っていった。
そろそろ広い空間というところで、話し声が聞こえてきた。不思議に思いながら、空間に入る。
「スオウ、何一人で話して…。」
そこまで言ったところで、カサネの目に映ったのは、しまったという顔のスオウとその横でくつろぐ竜の姿だった。




