19.守護者
「え~と、カサネ。一人?」
スオウの問いにカサネはカクカクとうなずく。明かりを持つ手は震え、腰は引けている。
竜がのそっと動くと、カサネがびくっと動く。
「ふむ、嬢ちゃんには、この姿は刺激が強いようじゃな。」
竜が首をかしげると、カサネは目を丸くした。
「しゃべった…。」
「ちょっと、待っちょれ。」
そう言うが早いか、竜はその白い巨体を揺らした。見る見るうちに縮んでゆき、あっという間に白髪の老人になった。
「おじいちゃんになっちゃった…。」
「これなら、大丈夫じゃろ。」
老人においでおいでをされて、カサネはそろそろと近づいた。スオウの背中に一度隠れて顔を出す。
「用心深いのう。」
「大丈夫だよ、カサネ。」
スオウがクスクス笑うので、ようやくカサネは前に出てきた。
「えっと、さっきの竜って本物だったの?」
「そうじゃよ~。人間に見つかると面倒くさいからなぁ。石像のフリをしておった。嬢ちゃんはカサネ、そっちの光の坊はスオウでよかったかの?」
「あ、はい。カサネです。」
あわててぺこりと挨拶をする。スオウもうなずき、肯定する。
「わしは、クロスリード。クロスでよいわ。」
「クロス殿は、天界への門の守護者でよろしいですか?」
「《殿》はいらんよ。確かにわしは天界への門たる泉の守護者じゃ。もっとも、門は今閉じておるがな。」
スオウの問いにクロスが、長い顎髭を撫でながら答える。
「閉じているのに、なぜ守護者が?」
「それは、お前たち光の末裔のためじゃ。」
スオウがハッと息を呑む。
「千年前、神々は天界と地上とを切り離したが、光の女神ヒルデの血を引く王家のことを忘れなかった。他の門は破壊したが、ここの門だけ閉じるだけにしたのじゃ。王家に何かあった時のためにな。」
カサネがスオウの顔を見上げる。振り向いたスオウはちょっと困ったような顔をしていた。クロスは懐かしいものを見るように目を細めて二人を見ている。
「ま、今のわしは守護者というより見張りじゃな。」
クロスはカハハと笑った。
「おじいちゃん、ずっと一人だったの?」
カサネはやっと、慣れてきたようだ。
「そうじゃの。たま~に鳥やら動物やらがまぎれてくるが、基本わし一人じゃ。」
「寂しくない?」
「ん~、もともと竜は孤独を好むし、わしは竜にしてもかなりの高齢だからの~、眠っているときが多いんじゃ。」
「でも、たまには人と話すのもいいよね。私、時々遊びに来るよ!」
「ちょ、カサネ!一人ではダメだよ、ぼくも一緒だ!」
「もちろんよ!私じゃ封印、どうにもできないもん。」
「―ぼくは封印係りか…。」
肩を落とすスオウに、クロスが爆笑する。
「ファファファ!若いのは面白いのぉ。」
「クロス、この件は、日輪王と月の女王に報告しますね。」
気を取り直したスオウがクロスに告げる。
「よいよ。王と女王には興味がある。いつでも会いに来いと伝えるがいい。今代は坊も含めて、ずいぶん力が強いようじゃな。」
クロスはにこにこしている。
「…今、念話で明日報告に行くと伝えました。カサネ、明日の午後、お城に行くよ。」
「えっ、わたしも!?」
「もちろん。」
カサネはがっくりと肩を落とす。
「…もしかして、また私ものすご~く重要な王家の秘密知っちゃった?」
「うん、また。」
「嬢ちゃんは、王家に縁があるみたいじゃの~。」
クロスの言葉がカサネに追い討ちをかける。
じゃ~またの~、とクロスに送り出され、カサネとスオウは、泉を後にするのだった。




