16.《閑話》女王様のお茶会
時間的には、3.旅にでるのは の前です。
今回、カサネ出てきません。大人たちの裏話です。
月の国の女王様は、よくお茶会を開く。参加者は、ごく限られている。
今日は、女王、副神官長アカネ、女王の学友であるカルラ、女王付女官のミオである。いつもなら参加する王と近衛団長のカイは、仕事で遅れている。
「で、アカネ先生とミオと一緒に行く見習いは決まったの?」
エルトゥーリアが、優雅にティーカップを持って首をかしげる。肩から艶やかな黒髪がこぼれ落ちてきた。
「ええ、カサネ・モリィに決めました。」
アカネはそう言うと、お茶に口をつけた。
「モリィ…、ああ、セナ神官の妹ね。選んだ理由は?」
エルトゥーリアの青い瞳は好奇心でキラキラしている。
「男女共にすぐ打ち解けます。新しく受け入れる見習いも、神官学校に来てから馴染みやすいでしょう。」
「カサネなら、大丈夫ですよ。」
カルラが心配そうなミオに向けて言う。ミオは新しく受け入れる見習いのいとこなのだ。
アカネとカルラ、二人に大丈夫だと言われて、ミオはほっとしたようにため息をつく。
「お二人がそう言ってくださると、安心できます。なにしろ、8年ぶりに会うので、どんな風に育っているか…。スオウはとても責任感の強い子だったのですが。」
「見た目はヴァンに似てたわよね~。髪も同じ金髪だったし。」
と、エルトゥーリアが一言。スオウはヴァナート王のいとこでもある。
「ええ、ヴァン様より線が細い感じでしたが。」
「今16か~。うふふ、会うの楽しみ~。」
「陛下、見習いをおもちゃにしないでくださいまし。」
アカネのするどい突込みがはいる。この赤毛の副神官長は、意外とお茶目なところがある。
一同が笑っていると、遅れていた王とカイがやってきた。
「やぁ、楽しそうだね。」
「お疲れ様。今ね、日の隠れ里のスオウの話をしていたの。」
王は二人がけのソファーに座っているエルトゥーリアの横に腰を下ろし、当然のように妻の肩に手をまわす。
この夫婦は結婚して8年、3人の子供もいるのだが、いまだに新婚のようである。
「隠れ里のスオウ?ああ、あいつか。おばばの弟子だろ?真面目な少年。」
何度か王の代理で日の隠れ里に行っているカイがつぶやく。
「そう、カイがみて真面目ならよかった。」
ミオがほっとしている。
「ねぇねぇ、ヴァンの若い頃に似てる?」
エルトゥーリアはそこが気になるようだ。
「パッと見はな。だがヴァンは剣士だったが、スオウは文官タイプだよ。細身だし、宰相補佐みたいな…。」
「えっ、裏で策略タイプ!?」
ミオがギョッとしている。
「…俺はいかにも神官って言おうと思ったんだが…。」
カイとミオのやり取りにヴァナート王がクックッと笑う。
「見ていて飽きないな、お前たちは。ともかく、スオウは神官にぴったりということか。8年ぶりだ、大きくなったろう。」
「そうなのよ!だからね…。」
楽しい話は更に続き、やがてお開きとなった。
皆退出し、部屋には王と女王のみとなる。
「ねぇ、カイに総督のこと言ったの?」
「ああ、ついでにオレは兄としてお前にミオをまかせるし、トゥーリアは結婚式を執り行うのを楽しみにしてるって言っておいた。」
「で、カイは?」
「どっちも全力でがんばるってさ。」
「当たり前よ!こんだけお膳立てしておいて、ミオを口説けなかったら、承知しないんだから!総督の話もなかったことにしてやる。」
ぷんぷんしているエルトゥーリアを、ヴァナートはいとしげに見つめた。彼の妻は、親友二人の仲がなかなか進展しないことがお気に召さないのだ。
カイとミオが都を離れるのは寂しいが、スオウがやってくれば、妻も気が晴れるだろう。神殿からの極秘情報では、来年《彼》が帰ってくるらしい。こちらも妻は何とかしようと奮闘するだろう。
優秀な《夫》であるヴァナートは、常に《妻》の周辺に気を配っている。そして、それはまた《日の王》としての彼が、神殿の長である《月の女王》周辺に気を配ることに他ならない。
8年前の王位奪還の乱から、短期間で国が立ち直ったのは、彼の力に依るところが大きい。そして、その助けとなったのが茶会のメンバーたちだ。
いずれにせよ、カイとミオには幸せになってほしい。
「大丈夫だろう。両方の親の了解も得てから申し込むらしい。」
ヴァナートは妻をなだめながら、親友と妹のようないとこの顔を思い微笑んだ。
カイとミオが、総督夫妻として王領ヤトに旅立つのは、半年後のことであった。




