15.初恋の行方
文中に未成年の飲酒場面がでてきますが、これは故意ではなく事故です。そしてフィクションです。未成年の飲酒はいけません。念のため。
「うぅ~、きもちわるい~、あたまいたい~。」
さわやかな朝。カサネはただ今絶賛二日酔い中である。
「何か食べられそう…にもないか。はい、お水。少しは楽になるわ。」
ミオに差し出された水を涙目になりながら飲むカサネであった。
話は昨日にさかのぼる。シアとユキトを加えた一行は、5日前に宵の里を出た。明日は、ソレスに着くという最後の晩、宿での夕食時にみな気が緩んでいたのか酒が回ったのか、話に花が咲いた。
世間話から始まり、いつしか初恋談議になっていた。
「ミオの初恋はヴァンだもんな。がんばってトゥーリアとヴァンの旅に引っ付いてきたくらいだ。」
カイがニヤニヤしながらミオを見る。
「ちょっと、カイ!なんてこというのよ。」
「…ミオ姉が旅に出た理由ってそれ…?」
「わ~!もう、昔のことよ!」
ミオがスオウの口をふさいだ。
「そういうカイはどうなのよ?」
「俺か?ん~、9歳上のいとこのお姉さんだな~。結婚したときは泣けたな~。」
「まぁ、泣いている小さなカイさん、見てみたかったわ。」
「カイさんより私を見てほしいな、シア。」
いちゃいちゃし始めたバカップルはほっておこう、とカサネはスオウに話をふる。
「スオウはどうなの?誰?」
スオウが一瞬固まった。
「…エルトゥーリア様…。」
聞こえるか聞こえないかの声で言った後、顔をそむけた。頬がかすかに赤い。
カイが真っ先に爆笑した。
「ぶはっ、トゥーリアってお前、あの旅の時だろ?初恋直後に失恋じゃないか。かわいそーに。」
かわいそうにと言いながら、笑いが止まらない。皆もこらえきれずに笑い始めた。
「だから言いたくなかったのに…。」
スオウがぼやいている。
カサネも大笑いしてのどが渇いたのでコップを手にとり一気に飲んだ瞬間、盛大に咳き込んだ。
「何これ~。水じゃない~。」
「あ、カサネ、これは俺の酒…!!」
カイが叫んでるのが遠いところから聞こえる。体が熱くてふわふわする。体に力が入らないな~っと思ったところで、カサネの意識は途切れた。
そして、現在。カサネはスオウの腕の中で馬に揺られている。しっかりつかまれないので、いつものようにスオウの後ろに乗れなかったのだ。横座りになりスオウの胸にもたれながら、お姫様みたい~、などとぼーっとしている。
普通なら、恥ずかしいと大騒ぎになるところだが、いかんせん二日酔いの頭では、そこまで回らないのだ。コトンとスオウの胸に頭を預ける。
「う~、なんで皆お酒を美味しいなんていうのかしら?」
「適量だと楽しいらしいよ?でも、カサネは弱いみたいだし、すぐ寝ちゃうから、気をつけないとね。」
「ん~、そうする~。ねぇ、スオウ。カイさんてば、ミオさんのこと絶対好きよね~?」
「そう見えるね。」
「そうよね~。」
話しているうちに、カサネがうつらうつらし始めたので、スオウは口を閉じた。やがて、規則正しい寝息が聞こえてくると、スオウはカサネが落ちないように抱え直し、そっと微笑んだ。
公爵家では、温かく迎えられた。公爵夫人は、泣き笑いでシアを抱きしめる。カイが早馬で手紙を送っていたので、皆、事情はわかっている。
「おかえり、シア。そちらが…?」
公爵が、シアの後ろに控えていたユキトをチラッと見る。
「助けていただいたユキト様ですわ、お父様。ユキト様、父です。」
「ユキトと申します。お叱りを覚悟でまいりました。」
「ふむ、中で話を聞こう。みな、疲れているだろうしな。」
少々渋い顔で、公爵が皆をうながした。
カイが送った手紙には、ユキトは攫われたシアを救った人物で、二人は恋に落ちたので結婚の許しを得に行く、という事にしたと書かれていた。出迎えの時は、そのつもりで、とも。
そういうわけで、公爵はちょっと機嫌が悪い。応接間に全員が落ち着いても、ぶすっとしている。
「あなた、少しは愛想よくしたらどうですか。」
「父上、往生際が悪いですよ。」
夫人と長男にたしなめられ、仕方なく居住まいを正す公爵。それを見たカイが、ユキトに合図を送った。
「ゼント公爵、突然ですが、シア嬢との結婚をお許しいただきたい。」
ユキトがまっすぐに公爵を見つめる。
「…許すも許さないもないだろうが。勝手に決めおって。いいだろう。結婚を許可する。そのかわり…。」
部屋中の空気がピンと凍りついた。
「シアを不幸にしたら、承知しないぞ。」
「はい、全力で幸せにします!」
その言葉に部屋中がシアとユキトを祝福し、館中が祝福ムードにつつまれた。
夕食は婚約を祝う豪華な食事会になり、ようやく体調の戻ったカサネも食事を堪能できた。
大人たちは、色々細かいことを決めるために日付が変わるまで相談していたらしいが、カサネとスオウは早々に休まされた。さすがに疲れていたので、二人とも素直に従う。
翌日、全員がそろった昼食時に、カイとミオの婚約が発表された。スオウは気をつかってくれたけど、カサネは素直に「おめでとう」が言えた。
きけば、身を引こうとしたミオに、カイは両家の親、女王と王の了解もとりつけて口説き落としたとか。そんなにしてまで思われるなんてうらやましいなぁとカサネは笑った。
「カサネ、その…大丈夫?カイさんのこと、好きだったんだよね?」
あとで、二人になった時にスオウがカサネに聞いた。
「うん。でもカイさんが好きはミオさんが好きと同じだったみたい。大好きな二人が幸せになってくれてうれしいの。」
「…そっか、強いね、カサネは。」
スオウがぽんぽんとカサネの頭をたたく。
「む~、子ども扱いしないでよ、同い年のくせに~!」
あはは、とスオウが笑いながら逃げていく。
カサネの初恋は、こうして温かい思い出になった。




