12.霧の中
スオウにつかまって馬の背に揺られながら、カサネは夕べの話を思い浮かべていた。
シアは、本当はキエという名で、宵の一族の長の娘だったこと。王女付の女官で、エルトゥーリアが身を隠していた間は身代わりをしていたこと。キエは事件のときに負った怪我が元で死亡したとされ、記憶を消してゼント公爵の養女にしたこと。
いろんなことを考えて、なんだか分からなって、スオウをつかむ手にぎゅっと力が入る。スオウが大丈夫かというように手をトンとたたいてくれたら、なんだか落ち着いて力みが抜けた。
私はシアさんを助けに行くんだ。それだけでいい。暖かいスオウの背中でカサネはそう決心した。
馬を駆ること7日。まだ、追いつかない。情報を集めながら進んでいるので、距離をつめられないのだとカイは言う。
そして久しぶりに小さな町に泊まった翌日。出発前にカイが宿の主人に話を聞いている。
「このまま道なりに行けばヤトに通じるが、途中霧の出やすいところがあるので、注意が必要だそうだ。」
「え~、霧?いやねぇ。」
「それと、霧の出るあたりから、商売にくる連中がいるそうだ。」
「なんだか嫌な予感がしますね。」
「気をつけるに越したことはないな。」
カイの言葉に気を引き締めて、一行は出発した。
「こまったなぁ。」
カサネが水を汲みに、ちょっとだけ休憩場所からはなれたら、あっという間に霧に囲まれてしまった。
「もしかして、ここが今朝言ってたきりの出やすい場所?」
もう皆のもとにつくはずなのに、一向に見えない。さすがにまずいと立ち止まる。
「スオウどこぉ?ミオさ~ん、カイさ~ん、ここです~!」
呼んでも誰も応えない。下手に動かないで、探しに来てくれるのを待とうと思ったとき、カサネの耳は足音をとらえた。
ほっとして足音のした方を振り返ると、12歳くらいの少年がいた。
「こども…。」
「おねーさんも充分子供だと思うけど?」
そういう声は、女の子のもので、よく見れば後ろで縛っている髪の毛も長い。
「あなたも迷ったの?」
気を取り直してそう聞くカサネに、その少女は笑った。
「違うよ、おねーさんをさらいにきたの。」
そう言って、すっとカサネに弓を向けた。
水を汲みに行ったカサネが帰ってこない。しかも霧が急に出てきた。スオウは、いつになくあせっている。
「ミオ姉、カイさん。カサネが遅い。しかもこの霧だ。迷っているかもしれない。」
スオウの訴えに二人も同意する。
「このまま動いたら、私たちが迷ってしまうわ。スオウ、風で霧を掃いましょう。」
二人がかりで、周囲の霧を一掃した。
「いない…。」
「待って、向こうの端に何か落ちてるわ。」
ミオの言葉にスオウが飛び出した。また広がってきた霧を風で吹き飛ばし、落ちていたものを拾い上げる。
「カサネが持っていった水筒だ―。」
追いついたカイが周辺を調べる。
「足跡が2つある。連れていかれたか…。」
カイの言葉に、ミオは顔をゆがめた。スオウは手の中の水筒をただただ見つめていた。
カサネは、ユーリという少女に弓で脅されながら、霧の中を歩いていた。少女の村に連れて行くのだという。私を攫っても何もでないというと、お金なんかいらないと言う。
「じゃぁ、なんで私をさらったの?」
「決まってるじゃん、おねーさんが一番弱かったから。それに利用できるってユキト様が…。」
「ユキト様?」
「長様の代理だよ。あ、兄さん!」
いきなり霧の中からカサネと同年代の少年が現れた。
「よくやったな、ユーリ。いくぞ、ユキト様がお待ちだ。」
少年と少女の間に挟まれて、カサネは霧の中を行く。前後にいる兄妹もかすむほどに霧は濃い。しばらくすると霧の中から家々があらわれた。集落に入ったようだ。
家というよりは館という表現の合う建物に入り、奥へと通される。
「ここだ、騒ぐんじゃないぞ。」
少年がそう言ってから扉を開ける。
「カサネさん!」
そこにいたのは、驚いた顔のシアであった。
「シ、シアさん!」
二人して駆け寄り、思わず抱きしめあう。8日ぶりの再会だった。




