11.追跡
カサネが休んでいる間に、大人たちはこれからの方針を固めていた。シアを攫った男の使った風の力を考えると、日の王族の力を使えるミオと、王国有数の剣士であるカイで追跡するのが一番であるということになった。
二人とも8年前の王と女王の王位奪還の旅に同行しているので、旅も慣れたものだ。
ミオはドレスから乗馬服に着替え、結われた髪をほどき、ポニーテールに結び直した。鏡に映るのはもう城の侍女ではない。旅の仕度を済ますと、玄関へと向かう。
そこにはすでに旅姿のカイが待っていた。公爵となにやら話している。
「お待たせ、カイ。」
「今、ちょうど情報が入ってきた。西に向かって黒髪の男女を乗せた馬が走っていったそうだ。」
「そう、じゃぁ、とりあえず西ね。」
「なにかあれば、情報が入るようにしてある。二人とも頼んだぞ。」
公爵にうなづき、出発しようとしたところに、カサネが駆け込んできた。
「私も連れて行ってください!」
ドレス姿ではなく、いつもの神官服だ。荷物も背負っている。
「無理だ。危険すぎる。」
カイが一刀両断にするが、カサネは諦めない。
「あの男の顔を知ってるのは私だけです!」
「無理よ、カサネ。私たちあなたを守れるかわからないのよ。」
ミオも首を縦に振らない。
「僕が一緒にいくよ。僕がカサネを守ればいいでしょ?」
スオウが進み出る。
「スオウ、あなた…。」
戸惑うミオ。カイは大きくため息をついてミオの肩に手を置いた。
「仕方ない。置いてけば勝手に着いてきそうだしな。目の届くところにおいておくほうが安心だ。」
「「ありがとう、カイさん!」」
カサネとスオウのお礼が重なる。
「ちゃんと守れよ?」
「はい、わかってます。」
スオウはカイの目をまっすぐ見て、大きくうなづいた。
カイとミオ、スオウの3人が馬に駆る。カサネは馬に乗れないので、スオウの後ろだ。
父以外と一緒に馬に乗ったことのないカサネは内心あせっている。しかも相手は同じ年の男の子だ。緊張しないわけがない。
「カサネ、落ちないようにしっかりつかまって。」
「は、はいぃ!」
自分のことでいっぱいいっぱいのカサネは、ぴったりくっつかれたスオウの動揺には気がつかないのだった。
シアが攫われてから半日が過ぎているので、途中の集落情報を集めつつ進めるだけ進んで野宿することにした。
大人たちからは、何も得られなかったが、森で遊んでいた子供たちからその話を聞けた。
いわく、白馬に乗った王子様とお姫様が通り過ぎるのを見た。二人とも黒髪だった。お姫様のドレスはきれいな青だった。
「シアさんの着ていたドレスも青でした!」
「どうやら、当たりだったらしいな。」
休憩もそこそこに、出発する。
暗くなりこれ以上進むのは危険なため、森の中で野宿をする。
カイとミオがあっという間に仕度をする。食事が終わり、これからの話をしていると、ミオとスオウが急に黙って一点を見つめる。何だと思ってカサネも見ていると、一瞬空間が揺らいだ後、王と女王が現れた。二人とも表情がかたい。
「カイ、ミオ…。いても立ってもいられなくて…。」
「久しぶりだな、スオウ。それに、カサネ。すまない、お前たちまで巻き込んでしまって。」
「いえ、ヴァン様。自分達でついてきたんです。気になさらないでください。」
カサネは何もいえず、スオウの横で頭を下げた。
「お願いよ、あの人にこれ以上悲しい思いをさせたくないの…。」
「トゥーリア様、必ず義姉を取り戻します。」
カイの言葉に女王は泣き出しそうだ。
「もう帰らねば。カイ、ミオ、頼んだぞ。」
そういい残して、王と女王は消えていった。
「すごい…!今のが王族の力!?スオウも使えるの?」
カサネはスオウの服をつかんで疑問をぶつける。
「の、一部だよ。僕とミオ姉も少し使える。それよりカイさん、ミオ姉。隠してることがあるでしょ?」
スオウはじっとカイを見つめる。
「…こうなった以上お前たちも知っていたほうがいい。始まりは8年前の王位奪還の争いだ。」
「前王亡き後代理をつとめていた前王弟が王位を狙ってエルトゥーリア様を殺そうとした事件ですよね?」
「公式にはそうされている。」
「実際は…?」
「宵の一族の末裔がかかわってたのよ。」
「長が前王弟に成り代っていた。トゥーリアを殺害して、自分の娘を身代わりに立てるつもりが、ヴァンがトゥーリアを城から救い出した。」
「で、その娘がシアさんですか…?」
スオウはため息をつきながら、髪をかきあげた。カサネはあまりに話のスケールが大きくなり過ぎてスオウの服をつかんだまま固まっている。
「そうだ、本当の名前はキエ。黒髪の男はまず宵の一族だろう。これはただの誘拐事件ではない。」
カイの言葉に、自分が普通じゃない世界に足を踏み入れてしまったことに気づいたカサネであった。




