1.少女、見習いとなる
アカトュキ大陸北部、王国の首都シエルレード別名月の都には、大神殿がある。
王と女王の居城に隣接し、大陸中の神殿の大本山であり、唯一の神官学校を有する。ずべての神官は、ここで2年間の修行をつむのだ。
今は春。大神殿が新しい見習いを迎え入れる季節。また一人、少女が大神殿へとやってきた。
「さぁ、着いたよ。カサネちゃん。それにしてもカサネちゃんが神官になるなんてねぇ。がんばって、立派な神官になるんだよ?」
「ありがとう、おじさん。わたしも思ってなかったわ。がんばるね。」
差し出された荷物を受け取りながら、少女カサネは苦笑いした。
自分を故郷から乗せてきた馬車を見送った後、カサネはゆっくりと大神殿の門を見上げる。
これから2年間過ごす学び舎。カサネはひとつ息を吐くと、その門をくぐった。
すぐに上級生らしき神官見習いがやってきて、案内してくれる。
大神殿の玄関まであと少しのところで、少女とよく似た青年がやってきた。
「よく来たな、カサネ。」
「…お兄ちゃん。」
ここからは私がと、案内してくれた上級生に礼を言う兄をカサネは琥珀の瞳でじとっと見つめる。
カサネが神官になるはめになった元凶。幼い頃から優秀で、家業(神官職)は兄が継ぐからとのんびり生きてきたのに、優秀すぎた兄は大神殿に残ることになったのだ。おかげで、カサネの人生設計はめちゃくちゃになってしまった。普通に結婚して子供生んで年取るはずだったのに。
「ほら、カサネ。なに睨んでるんだ。行くぞ。」
兄は荷物を奪うとさっさと歩き出した。
「あ、まってよ!」
カサネはあわてて後を追い、大神殿の中へと足を踏み入れたのだった。
大神殿は大きかった。カサネの実家の神殿も小さなほうではなかったが、祭殿だけでもその4〜5倍は大きい。更に祭殿部分を囲んで、図書館、神官学校、神官の居住区がある。
そう説明をうけて、どんだけ大きいんだと、カサネは思わず口を開けてあたりを見回す。兄はそれをみて一つため息をつき、妹の手をひっぱって先を進めた。
「ここが受付だ。おい、カサネ、ちゃんと挨拶しろよ。」
「わ、分かってるよ!子供じゃないもん。」
「・・・そう、思えないから言ってるんだが。・・・失礼します。」
ノックと同時に扉を開け中に入った兄に続くと、そこに絶世の美女がいた。
白銀の髪、ほとんど色のない水晶の瞳。名高き神殿の「白い魔女」。王族以外では珍しい能力者だ。
(う、うわぁ〜白い魔女だ〜!本物だ!!)
カサネは、そのあまりの美しさに固まってしまった。
「カルラ先生、新入生のカサネ・モリィです。」
「妹さんね?セナ神官。ようこそ、シエルレード神官学校へ。私が担当のカルラです。」
「よっ、よろしくお願いしますぅ!」
チョコレート色のお下げをゆらしてガクンとお辞儀する妹に兄はひきつりつつ退出していった。
手続きは、すぐに終わり、カサネは寮へと案内された。
「2階があなたたち新入生、3階が上級生です。荷物は、もう部屋に入れてあります。同室の子は先ほど着いていますから、協力してくださいね。」
カルラは、中ほどのドアの前で止まり、ノックについで声をかけた。
「カルラです。同部屋の生徒をつれてきました。」
「はい。」
ひかえめな声。ドアから出てきたのは、やっぱりおとなしそうなショートカットの女の子だった。
「はじめまして、ササラです。」
恥ずかしそうに微笑む様子がかわいい。
うん、いい友達になれそう!カサネはにっこりと笑う。
「はじめまして!カサネです。よろしくね!」