2.見習い、勉強中
神官学校の一日は、午前と午後とで分かれている。午前中は神学・儀式作法・奉納舞の勉強で、午後は各所の当番に入る。祭殿・図書館・清掃・食堂だ。
カサネとササラは今週図書館の当番だ。終わりがけに借りた今日の宿題で使う本をかかえていると、廊下で同級生に出会った。
(うわ~、ミサキだ。やだなぁ~)
都一の豪商の娘であるミサキは、なぜかカサネを眼の敵にする。たまたま成績が同じくらいなだけじゃないか、他の人にしてくれとカサネは思うのだが。
ほとんどの見習いが神官の家の生まれの中で、ミサキは珍しい。伯父が大神殿の神官なので、自分もと希望したという。とてもおだやかなその伯父にあった時、ミサキとの血のつながりをカサネは信じられなかった。
「あ~ら、学年代表と同室だといいわね~。お勉強もみてもらえるなんて。」
「ほんとよね~。」「ずるいわ~。」
取り巻きの娘たちもかしましい。ミサキの家と取引のある神殿の娘たちだという話だ。
「あ、あの、私、勉強をみているなんて…。」
ササラがうろたえている。
「なにか勘違いしてない?同じ本を使うだけよ。じゃ、宿題があるから、失礼。」
カサネは、さっさと歩き出した。
「カサネ、次の試験は絶対私が勝つから!」
ミサキの宣言は聞こえないふりをした。
部屋に戻ると、どさりとベッドにすわりこみ、カサネはため息をついた。
「はー、めんどくさい人に目をつけられちゃったなぁ。」
「お嬢様だものね、彼女。カサネはカルラ先生や侍女のミオさんと親しいでしょ?なんで自分じゃないのって思ってるんじゃないかしら。」
「それに学年代表と同室だしね。」
「そ、それは関係ないと思うけど…。」
頬を染めてあわてるササラ。ササラはこういうところがかわいいとカサネは思うのだ。
「でも、カルラ先生とミオさんとは、普通だと思うんだけど。」
「カルラ先生とあんなに話せる人はいないわよ。表情変えないし美しすぎて近寄れない感じ?」
「え~、表情あるよ。笑うとかわいくなるの!」
カサネの発言にササラは目を丸くした。氷の美女とも言われるカルラをかわいいなんていうのはカサネだけだ。
「アカネ先生に頼まれて、塔の上に迎えに行った時にね、すっごい鳥がいっぱい集まってたの。扉の開く音で一斉に飛び立ったんだけど、その羽根が舞い落ちる中に立ってるカルラ先生、まるで羽根のある精霊みたいだったの。迎えに来たっていったら、ふって笑って…。きれいだった~。」
うっとりするカサネに、ササラは微笑んだ。
「私も見てみたかったわ。ねぇ、そろそろ食堂に行かないと、食べそびれちゃうわよ。」
「行く行くっ!」
この後廊下を走って、ばっちり注意されたカサネだった。
翌日、今日の授業は奉納舞だ。カサネは朝から楽しみにしている。
「うふふ~、早く授業にならないかな~。」
「カサネは本当に奉納舞が好きね。それに上手。」
「えへへ、舞はね~小さい頃から好きだったから。神学と儀式作法は神官になるつもりなかったから適当に流してたけどね。」
「私は形にするのがやっとだわ。カサネがうらやましい。」
「え~、うらやましいのはササラだよ!神学も儀式作法も完璧じゃない。」
「お互い無いものねだりよね。」
笑いあっていると、教師のアカネが入ってきた。カサネとササラをじろっとみる。二人はあわてて居住まいを正す。。
「さあ、授業をはじめますよ。今日は宵の女神ユーシャナに捧げる舞です。」
「はい!」
生徒たちの返事で授業が始められた。
アカネは50歳代の女性の神官だ。神官学校の責任者であり、この大神殿の副神官長でもある。神官長は対外的な仕事が主なので城にいることが多く、大神殿の実質的なトップだ。かつてはエルトゥーリア女王の家庭教師を務め、カルラの養母でもある。
規律に厳しく、見習いたちをビシバシ鍛え、立派な神官にしていくのだ。
アカネは舞を舞う生徒たちを見回した。いいだろう、全員合格レベルだ。
つ、とカサネに目を留める。普段のにぎやかな娘ではなかった。カサネは舞うときはまるで別人だ。纏う空気が違う。千年に一度の舞い手と言われたカルラには劣るが、やはり一神官で終わらせるのは惜しい。
アカネは心を決めた。
こうしてカサネの知らないところで、運命の歯車は回り始めるのであった。




