14.5 魔水晶の眠る洞窟Ⅱ
俺達は走った。
ひたすら出口に向かってただ走った。
決して急とは言えないものの、その緩やかな勾配は俺達の体力をどんどん削っていく。
そして、身体が大きくなったからか、俺達を追いかけてくるスライムの動きは早くなっていた。
もう500mくらい走っただろうか。
見慣れた白一色の魔法使いの姿が見える。
カレンだ。
カレンは俺達の走る足音が聞こえたのか、少し大きめの声で俺達に声をかける。
「ケンさん、みんな、どうかしたんですか?」
「カレン、敵だ!スライムだ!俺達を追ってきている!」
「ケンさん、カームです!風の壁で皆さんを包んでください!」
「《カーム》」
俺が魔法を発動させると、カレンを除く4人を包み込むように風の壁ができあがる。
俺達を追ってきたスライムはベチョベチョとその壁にぶつかって張り付いた。
と、次の瞬間。
「《焼き尽くす龍の吐息 ドラゴンブレス》」
という詠唱が微かに聞こえたかと思うと、壁の外側は炎で真っ赤に染め上がった。
圧倒的な高温の熱が多少壁を貫通し、肌が少しヒリヒリとした。
吹き付ける炎と俺達を守る風の壁が消えた途端、俺達の意識は遠かった。
―――
ほんのりと冷ややかな風が頰にあたり、俺は目を覚ます。目を開けると、青空が目に入る。
ここは洞窟の外か?
「ケンさん、目が覚めたんですね」
目を覚ました俺を見て、カレンはそう言った。
「あれ?俺、なんで気を失っていたんだ?」
「いえ、それが私にもわからないんです。私が魔法を使って、ケンさんの風の壁が消えたと思ったら、みんなが気絶してしまったんですよ。私も意識が朦朧としたんですが、なんとか魔法で皆さんを洞窟の外へと運び出しました」
まあ、原因は酸欠だろう。ただでさえ洞窟内で空気が悪いんだ、あんな炎魔法を使ったら酸欠なんてすぐに発生するだろう。
それにしても、全員気絶なんてことにならなくて良かった。つか、カレンが気絶しなくて良かった。カレン以外だと4人を500m近く運ぶなんてことは難しいからな。
俺が辺りを見回すと残りの3人も地面に横たわっていた。
「てか、みんなちょっと浮いてないか?」
「あ、そこには魔法で空気の板を敷いてあります。地面にそのまま寝かせるのも悪いと思いまして」
「あー、なるほど。確かに、俺もちょっと浮いているしな。つか、みんなが意識を取り戻す前にちょっと頼みがあるんだが良いか?」
「はい。まあ、内容によりますけど」
「魔法を使って、洞窟内に新鮮な空気を送り込んでくれないか?このままの状態の洞窟に入るのは難しいからな」
「あ、なるほど、わかりました」
カレンは洞窟の入り口に立つと魔法を使って風を送り込み始めた。
風の勢いは凄まじく、洞窟内の古い空気は壁伝いに移動し、吹き出してきた。
洞窟内から出てくる風で森の木々はその枝葉を激しく揺らしている。
流石に未だ見ぬ最深部の空気は入れ替えられないにしても、これなら俺達が今日探索する範囲くらいは新鮮な空気になっていることだろう。
なんてことを俺が考えていると、あまりにも五月蝿い木々の騒めきによって他の3人も目を覚まし始めた。
俺は3人に現状を説明し、それが終わるとカレンを呼び戻した。
「カレン、お疲れ様。じゃあ、今から作戦会議でもするか」
「作戦会議って。ケン、今からもう1回洞窟に潜るのかい?」
「ああ、まだ日も高いしな。今日中に拠点の準備と鉱脈の発見ぐらいはやっておきたいんだが」
「それってもう1度あの長い移動をするってことだよね?」
「なんだ、ジン?疲れたのか」
「いや、オレは大丈夫なんだけど、女の子達がね。特に体力のないウェンディちゃんと、魔法をたくさん使ったカレンちゃんがオレ的には心配かな」
「わたしはまだ大丈夫だよ。ケンが行くって言うなら、わたしも付いて行くよ」
「そうですね、私も問題はないです。さっきから魔法を使い続けているので、魔力は多少減ってはいますが援護くらいは充分にできると思います」
「そう?2人がそう言うならオレは別に良いんだけど」
「アイリーンはどうだ?」
俺は一応、アイリーンにも声をかける。
「あ、あたし?あたしは全然疲れてないよ」
「そうか。なら、全員で行けそうだな。そう言えば、カレン」
「はい。何ですか、ケンさん?」
「あのスライムについて教えてくれないか?習性や対策を知ってると知らないとじゃ勝手が変わってくるからな」
「あれはイエロースライムですね。酸で獲物を溶かして捕食するスライムです。これはスライム全般に言えることですが、身体にある核を破壊すれば死滅します。また、高温で核を包んでいる粘液を蒸発させるのも有効です」
「なるほどな。カレンは熱を発せられる魔法を使えるか?」
「当然、使えますよ。散々火を出してきているじゃないですか」
「あ、いや、そうじゃなくて、火を出さずに熱だけを出せる魔法が良いんだ。洞窟の中で火を使うとさっきみたいになるから」
「火を出さずに熱を出す魔法ですか…。その条件だと多分ないですね」
「そうか。まあ、ないのは仕方がない。核を潰す戦法で行くか。残骸のスライムの粘液には充分注意しよう。さっきの二の舞になるからな」
話はまとまったので、俺達は洞窟の中へと再び潜った。




