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14.4 魔水晶の眠る洞窟


 数日前、賠償金(ばいしょうきん)(だま)し盗ろうとした住民を逆に訴えた俺は今、魔水晶が取れると言う洞窟に来ている。


 逆に訴えた住民相手の裁判で大勝ちした際に色々あって洞窟の所有権を貰ったのだ。まあ、紆余曲折(うよきょくせつ)はあったものの、セートの街にきた当初の目的を果たすことができた感じだ。


 さて、俺が所有権を得た洞窟は第57番洞窟、魔水晶の含有量が特筆して多いものの、その魔力に引かれた魔物達の巣窟になっている洞窟だ。


 魔物の巣窟(そうくつ)とは言え、魔物自体は赤階級や橙階級の低級冒険者でも倒せるらしいのだが、冒険者を雇うと利益が激減するとのことで採掘作業は全く進んでいないそうだ。


 そんなわけで俺達5人はその魔物退治をすべく、今日洞窟を訪れた。


 現状、入り口から500m程度は奥に入ったと思うのだが、一向に魔物は出てこない。


 入り口に立てられた「危険 関係者以外立ち入り禁止」の看板が虚仮威(こけおど)しなんじゃないかと思うほどだ。


「ケンさん、そろそろ拠点でも作りませんか?」


「おう、そうだな」


 カレンの声に呼び止められて、俺は立ち止まる。


 今回の主な目的は魔物の討伐にあるが、もう1つの目的として拠点作りもあるのだ。


 拠点、と言ってもイメージとしては洞窟の壁を部屋の形にくり抜いて入り口に扉を設置する感じだ。主にカレンの魔法陣と採掘した魔水晶置き場としてしか使い道はない。


 そのため、あまり入り口付近に作ってしまうと魔水晶が盗まれるかも知れないし、入り口から遠すぎるとセートの街へと行くのが面倒になってしまうのだ。だが、500m付近のこの辺なら、その2つの心配はどちらもなさそうだ。


 さて、その拠点作りだが、洞窟の壁をくり抜くという作業はそんなに簡単な作業ではない。手作業で行えば時間や労力を使うし、時間をかけて作業をしていると途中で崩落するリスクが高まる。


 そんなわけで、拠点作りは(と言うよりは拠点作りも)カレンに一任することになっている。


「ケンさん、この辺りに作りますね」


 カレンは壁に手を当てながらそう言った。


「ああ、良いんじゃないか?」


「わかりました。では、《変動する強度 リコンストラクト》」


 カレンが壁に手を当てたまま魔法を使うも、うっすらと光った程度で特に変化があったようには見えない。


「カレン、今何したんだ?」


「辺りの壁の強度を上げたんですよ。いきなり掘るのは危険ですから」


「なるほどな。でも、強度を上げたら掘にくくないか?」


「あ、確かにそうですね」


「魔法の範囲を自由に変えられるなら掘るところだけ強度を下げるように使ってみれば良いんじゃないか?強度を変動させる魔法ならできるだろ?」


「はい、できると思います」


 カレンは再び壁に手を当てると、同じように魔法を使った。


「これ、本当に出来ているのか?見た目に変化がないんだよな」


「ええ、問題なく使えていますよ。早速掘ってみますね。《吹き飛ばす暴風 ブラスト》」


 カレンが魔法で起こした暴風を壁に当てるとみるみると壁が掘られていく。壁を構成していた石や岩、土は全て砂となって掘り出される。しかも、しっかりと部屋の形になっているのだ。部屋の入り口は扉を嵌め込めるように長方形に掘られ、所々では腰掛けられるようなところや棚のようなものが残るように掘られている。


随分(ずいぶん)と器用に掘ってるな」


「ケンさん、違いますよ。形は強度を下げた時に決めていて、今はただ風を当てているだけです」


「なるほどな。強度を下げた時点で部屋の内装は決まっていて、風は(もろ)くなった壁を砂に変えて掘っているに過ぎないわけか」


 まあ、でも、装飾品込みの部屋の形に強度を下げている時点で随分器用だと思うが。さらに言えば、掘った砂を風の力で外まで運んでいるしな。


 そんなわけでカレン以外何もしないまま、あっと言う間に拠点が完成した。


 入り口を入るとすぐに直方体のテーブルがあり、その周りに円柱の腰掛けが6つある。その奥には棚があり、倉庫の役割も充分に果たせそうだ。


 また、カレンが魔法陣を描く用にただ広くて平らな床も存在している。簡素ではあるが機能性は充分な部屋だ。


 さて、拠点作りを終えた俺達は本日の目的である魔物退治をすることになった。


 拠点作りの責務を果たしてくれたカレンは拠点で休憩しててもらうことにした。まあ、魔力が回復したら魔法陣を描いてもらうから残っているのもあるんだが。


 4人で洞窟内を進行している俺達だが、多種多様な魔法を使えるカレンがいない今、道を照らす役はアイリーンが担っている。「ライトメイス」と言う魔法で光のメイスを作り、松明のように(かか)げて進行している。火の魔法なら俺も使えないこともないんだが、一酸化炭素中毒や酸欠が発生したらひとたまりもないのでやめた。


―――


 俺達は4人で洞窟内を早500mは歩いたと思う。入り口から1kmも奥に進んだと思うと帰るのが億劫(おっくう)になる。


 と言うより、洞窟の終着点が予想もできない。この洞窟は入り口こそ地上にあるが、奥に進むにつれて地中に潜っていくような形になっている。それ(ゆえ)に終着点の想像もつかないのだ。


 歩き疲れて集中力が切れた俺達が重い足取りで歩いていると、岩陰からぶよぶよとした半透明な黄色い粘液の塊が出てきた。


「スライムか?」


 俺は「魔物 半透明 粘液」で脳内検索をかけた結果を口に出す。


「あー、そうかも。わたし、名前だけは聞いたことあるんだけど、姿はわかんないや」


 俺の言葉に反応したウェンディも確証はないようだ。


 カレンがいなくなると知識面の弱さが露呈(ろてい)する俺達のパーティ。


 そんな俺達に向けて液体を吹き出すスライム。


 俺が持ち前の反射神経で(かわ)すと、液体がかかった地面から、ジューと言う音が聞こえた。


「酸か?」


 俺は短絡的な発想をそのまま口に出す。


「かもね。でも、当たらなければ問題はないね」


「待て、ジン!」


 双剣を構えたジンを俺は止めた。


「なんだい、ケン?オレなら吹き出される酸を(かわ)してスライムを斬り裂くなんて造作もないよ」


「いや、確かにできるかも知れないが、多分剣が溶けるぞ」


「あー、そっか。そう言われれば、そうだね。でも、どうするんだい?」


「そうだな。アイリーン、鉄の剣を1本作ってくれ」


「あ、あたし?まあ、わかったよ。《創造する鉄の剣 アイアンソード》」


 俺はアイリーンが作った鉄の剣を受け取ると、スライムを一刀両断にする。


 しかし、スライムは一時的に両断されたものの、ムニョムニョと動いて再度1つになった。


 一方、スライムを両断した剣の方は案の定、酸で刃がなくなっていた。それどころか、あと一振りでもすればポキリと折れてしまいそうなほどボロボロだ。ほんの一瞬スライムの中に潜らせただけなのにこんな風になるなんて、どんな強力な酸だよ…。想像以上だ。


「アイリーン、もう数本頼む」


「ちょっと待って。今作るから」


 俺はアイリーンから剣を受け取ったそばからスライムに叩きつける。


 しかし、何度両断しようともスライムはやはりすぐ再生する。


 剣を6本ダメにしたところで俺はスライムの再生の法則性に気付く。スライムは両断された後、どちらか片方がもう片方を取り込むようにして再生される。常に片方が本体であるかのように。


 本体に素材がくっつくような、そんな不自然な再生を俺は知っている。


「アイリーン、もっとスライムを照らしてくれないか?」


「うん、わかった」


 俺の指示に従って、アイリーンは光のメイスをスライムに近付ける。


 俺は、光に照らされたスライムの身体を見つめる。すると、まるでレモンゼリーのようなスライムの身体の中に、ぼんやりと赤い球状のものが見えた。おそらく核であろう。


 俺はアイリーンからもらった剣の最後の1本をその体内の核めがけて振り下ろした。


 されど、その一撃は核を斬り裂くことはなかった。俺の攻撃が核に当たる寸前で、スライムは核の位置をずらしたのだ。


(かわ)すのか!アイリーン、剣を4本くれないか?」


「良いけど、あたしはカレンほど魔力がないからそんな勢いで剣を使い潰されたら魔力が持たないよ」


「大丈夫、これで決めるから」


 俺はアイリーンから剣を4本受け取ると、2本を両手で持ち、2本を地面に突き刺した。


 そして、右の剣でスライムを両断する。


 当然、この攻撃では核も斬れないし、両断されたスライムはもう片方の身体目掛けて飛びかかり再生を図る。しかし、俺は左手の剣で再生行動を図ったスライムをさらに両断する。


 そのまま間髪を入れず、地面から抜き取っていた右手の剣で核のみとなるように斬り裂いた。


 スライムの核は地面にポトリと落ちる。核の周りの粘液は(わず)かにしか残っておらず、(ほとん)ど核のみとなったスライムは動くことすらままならなかった。


 俺は地面に刺した残り1本の剣を手に取ると、少ない粘液を根のように伸ばして再生を図るスライムの核目掛けて振り下ろした。


 俺の一撃を逃れることができなくなったスライムは核を両断され、死に絶えた。


「倒したの?」


 後衛でスライムの姿をはっきりと(とら)えることができていないウェンディは俺に向かってそう言った。


「ああ、やっと倒した。駄目にした剣は12本か。痛い魔力消費量だが、次からは4本で行けると思えば、まだましか」


「なあ、ケン」


「ん?どうした、ジン?」


「魔法が使えないオレや武器生成系の魔法しか使えないアイリーンちゃんはともかく、攻撃の魔法が使えるケンなら今やったことと同じことを魔法でできたんじゃない?」


「た、確かに」


 完全に目から(うろこ)だった。


 ジンが双剣で斬りかかろうとしてたから、溶けても良い剣を作って斬る方法で倒したが、そもそも別に剣を使う必要すらないのか。もしかしたら、他の魔法ならもっと楽に倒せたかも知れないしな。


「あ、でも、ほら、今の方法ならあたしでもスライムを倒せるし、その方法を教えてくれたと思えば」


 予想外の発想に呆然(ぼうぜん)としている俺をフォローするように、アイリーンはそう言った。


「うんうん。確かにアイリーンちゃんの言い分は一理あるね。そして、実践する機会もすぐに来たようだよ」


 そう言ったジンの視線の先には数匹の黄色いスライムがいた。


「各自、散開。俺とジンはスライムを倒すぞ。ウェンディは俺達の援護、アイリーンはウェンディを守りながら剣を生成しておいてくれ!後ろから奇襲されるかも知れないから警戒を(おこた)るなよ」


 俺の指示を受けて、各々戦闘体勢をとる。


「《ウインドナイフ》、《ウインドナイフ》、《ウインドナイフ》」


 俺は続け様に風の刃を連投する。先程のスライムと同様の要領で動かせる粘液が減ったスライムは攻撃を(かわ)すことができずに核が斬られる。


 つか、魔法使った方が100倍くらい楽だな。


 一方、ジンはと言うと、一太刀(ごと)に剣を替えてスライムを攻撃している、と思う。速過ぎて見えないが。


 俺は1度ジンの動きをじっくりと見てみる。すると、ジンはあろうことか一太刀でスライムを仕留めていた。


「何、ケン?そんなにこっちを見て」


「ジン、お前、スライムを一太刀で仕留めていないか?」


「うん、一太刀って言っても二撃だけどね」


「どう言うことだ?」


 俺は向かってくるスライムを処理しながらジンに問いかける。


「まあ、見ててよ」


「あ、ああ、わかった」


 その言葉に促されるままに、俺はジンの一振りに注目を向ける。


 時間にして1秒にも満たないその一振りは、極限にまで研ぎ澄まされた俺の集中によって、ピタリと時を止める。かと思えば、まるでパラパラ漫画のページを1枚ずつめくっているかのように鮮明にゆっくりと動き出した。


「どう、ケン。わかった?」


「ああ、わかった。再現はできなそうだがな」


 ジンの一振りがスライムの核付近を通過する時、スライムは粘液を動かし、核をジンの攻撃の軌道からズラす。


 しかし、ジンはその核の初動を捉えて躱した方へ向かって攻撃の軌道を切り替えていた。


 切り替えた後の攻撃の速度は、切り替える前の速度とは比べ物にならないほどに速く、動き止まって見えているはずの俺の目でもその動きを鮮明に捉えることはできなかった。


 一振りで二撃、まるで燕返しだな。


 そういえば、ジンの技量は高かったな。これくらいの芸当はわけなく実現できるわけか。


 そんなことはさておき、俺達はスライムを倒しまくった。ジンは燕返し(仮)で、俺は風の刃で、各々が自分のやり方でスライムを倒し続けた。


 しかし、しばらくして俺達は異変に気付く。


 俺とジンの戦闘を剣を作りながら見ていたアイリーンがこんなことを言い出したのだ。


「なんか、スライム大きくなってきてない?」


 その言葉の通りスライムは大きくなっていた。


 そして、その原因は俺達にあった。スライム達は洞窟の奥から次々と出てきているわけだが、そのスライム達が俺達に到達する間には、俺達が倒したスライムの粘液が飛び散っている。新しく出てきたスライムはそれらの飛び散った粘液を吸収して大きくなっているのだ。


 身体が大きくなるということは攻撃が核に届き辛いということだ。


 つまり、戦えば戦うほどに俺達は苦戦を強いられる。


 ならば、俺の選ぶ策は1つ。


「逃げるぞ、みんな」


 俺達は身体を(ひるがえ)して、出口の方へ走った。

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