10.12 新たな仲間Ⅲ
宿屋へと帰える途中、ジンは俺にこう言った。
「アイリーンちゃんさ、絶対オレに気があると思うんだよね」
お前良くそんな恥ずかしいこと臆面なく言えるなとは思ったが、俺もデザートメッセンジャーの依頼の時にそう思う瞬間があったので否定はしない。
「かもな」
「冷たいなあ。でさ、ケンにお願いがあるんだけど、こっそりさ、聞いてみてくれない?アイリーンちゃんがオレのことどう思っているのか」
「聞いておくよ」
中学生か、と内心ツッコミを入れつつ、俺はジンからの頼みを承諾する。
「ありがとう、よろしく!」
まあ、そんな会話があったので、俺はウェンディとアイリーンに面談という形でパーティの様子を聞いてみようかと思っていた。
そして、そのニューランズ姉妹はというと、どうやらメアリーのところに行く前にこの宿屋に集合した時に、元の宿屋からこの宿屋へと部屋を移したらしい。
そのため、今は2人を含めた5人全員がこの宿屋にいるとのことなので、早速俺は2人に会うことにした。
まずは、アイリーンの部屋だ。
俺がノックをして部屋に入ると、アイリーンは部屋に備え付けてある椅子に座っていた。
備え付けの椅子は1つしかなかったので、俺はアイリーンに促されるまま、ベッドへと座った。
「ケン、どうかしたの?」
「ちょっと面談をしたくてな、これから上手くやって行けそうかどうか聞きたくてな」
アイリーンは風呂上がりだったのだろうか、髪が少し濡れていた。こりゃ来るタイミング悪かったかな。
「優しいね」
そう言ってアイリーンは立ち上がると、俺の横に座った。
「そんなことないけど、いきなりなんでこっちに来たんだ?」
「遠いと話辛いじゃん」
「ああ、なるほどな。それでどうだ、今日一日パーティに参加してみて?」
「うん、良いパーティだなって思う。ケンはこうして気を使ってくれるし、カレンも仲良くしているし、まさかお姫様とお話する日が来るなんて思ってもいなかった」
「そうか、それは良かった。それでジンはどうだ?」
パーティに対してだいぶ好印象だったのはリーダーとして嬉しい限りだが、今回わざわざ面談を開いた目的であるジンのことについて、何も言っていなかったので俺は問う。
しかし、これが災難の始まりだった。
「生理的に無理」
「えっ!?」
予想外の回答に俺は驚きがそのまま声に出る。
「あたし、ああいう軟派な男嫌いなの。やっぱりケンみたいに硬派じゃないと」
「でも、デザートメッセンジャーから助けて貰ったとき、結構気を許してなかった?」
「確かに仲間として見れば、長所もたくさんあるけど、人として男として見たときには無理」
こ、これは小学生男子が良くやりがちなパターン!好きな子にちょっかいかけて嫌われているにもかかわらず、その女子の気を使った言葉や行動に「俺のこと好きなんじゃね?」とか勘違いしちゃうパターンだ!
全然関係性良くなってないじゃないか。
「そうか。まあ、でもジンはジンで良いやつだぞ。俺もあの性格に救われることも良くあった」
「あんな男のことを褒めるなんて、ケンは優しいね」
「いや、本心さ」
なんかさっきからやたらと褒めてくるな。
そう思っていると、アイリーンが距離を詰めて肩が触れる。
「あたしね、ケンのこと好きなんだ」
「いきなりどうした」
「ウェンディからあたしを助けてくれたときのこと聞いてからずっとかっこいいなって思っていたんだけど、今日もずっと優しくてますます好きになったよ」
そう言ってアイリーンはさらに密着してくる。
「ちょっ!当たってる」
「当ててるんだよ。ケン、こういうの好きなんでしょ。メアリーさんの時も嬉しそうな顔してたもんね」
アイリーンは顔を赤らめながらそう言った。
メアリー程の大きさはないものの、充分な大きさを持った柔らかな感触を肩で感じる。
アイリーンの赤らめた顔に濡れた髪がなんだか扇情的でいけないことをしている気持ちになる。
いや、実際いけないことをしているのだが。
幸せな災難が俺を襲う。
だ、誰か助けて。
そう思った瞬間、扉は開く。
扉を開けたのはウェンディだった。
最悪か!姉であるアイリーンととこんなことをしている様を見られたら、俺の信頼は失墜する。
いや、まあ、例え見られたのがカレンであってもジンであっても最悪だが。むしろジンが1番ダメだな、殺されかねない。
「お姉ちゃん、なんでわたしのケンにそんなにべったりくっついているの?」
ウェンディのその言葉にアイリーンの顔は青ざめはパッと俺から離れる。
助かった。いや、助かってない!
「いつから俺はウェンディのものになったんだ?つか、なんだか雰囲気違くないか?」
「それはウェンディの超体質のせいよ。ウェンディは昼は弱気、夜は強気になる超体質なの」
「そう、それはお姉ちゃんもだけどね。昼は強気、夜は弱気だからわたしとは昼夜逆だけど」
「なるほど、二重人格ってことか?」
「それは違うかな。お姉ちゃんはきっと昼間のあの時だってさっきみたいにケンとくっつきたいと思っていながらも照れてできなかっただけだろうし、わたしだって昼間のメアリーさんの行動を見て不満を言いたかったけど言えなかったわけだし」
深夜テンションでテンションが激変するとか酔って本音が出てしまうとかみたいなものか?
「なるほどな、そっちは理解した。もう片方の疑問はまだ解決していないんだが」
「え?だってケンはわたしのこと好きでしょ?だからあの時だって身を呈してまで庇ってくれたし、メアリーさんの求婚だって断ったんでしょ?」
好きだなんて一言も言ってないよな。そもそもメアリーの求婚を断ったのだってウェンディに会う前だし。
そう言おうとしたが、ハイライトの消えたウェンディの瞳を見たら何も言えなくなった。
「えっと…」
「どうなの?はっきりしてよ」
怖すぎる、正直「憤怒」と対峙した時よりも怖い。穏やかな口調ながら、恐怖心はものすごく煽られる。
が、しかし言わなくてはならないだろう。
ええい、儘よ。
「別に好きじゃない」
「え?」
「今は、今はね!」
ウェンディの絶望とも怒りとも悲しみとも捉えることのできる声に、俺はビビって言葉を付け足す。
情けないな。本当に情けない。
「そう、そういうことね。少しも障害がなく運命の2人が一緒になるなんてことありえないよね。いずれ必ずわたしを選んでくれるわけだし、少しくらい我慢するよ」
とりあえず、何とか、なったか?
やはり昼間に感じたメアリーとウェンディの間で散った火花は俺の勘違いではなかったようだ。
同族嫌悪って言うのか?お互いに察するところがあったのだろう。
メアリーはまだ歯止めが効いてるけど、ウェンディは多分進み出したら止まらないタイプだろ。
逃げ道のできた俺はウェンディとの面談なんて忘れて、そそくさと自分の部屋へと帰った。
ウェンディとの面談はまたいつかやろう、絶対に昼間に。
部屋の鍵をかけた瞬間、緊張の糸が切れて、俺はベッドに倒れ込むように眠った。




