10.7 ジン・クロスの不穏な日常
帝都にて、俺がメアリーからこの世界の知識を、カレンがクリフさんから多くの魔法を教えてもらっている丁度その頃、1人王国に残ったジンは王都の平民が住む街を歩いていた。
平民街は道が複雑で、もう何日も街を散策しているというのに、ジンは平民街を周りきることができていなかった。
王都の平民街は治安が良いとは言えないところではあったが、日々殺人が起こるスラム街で生まれ育ったジンからしてみれば、「治安が良いとは言えない」程度の平民街はぬるま湯のようでむしろ居心地の良い所であった。
そんなことを考えているジンに何者かが、後ろから声をかけてきた。
「兄ちゃん、この街の者じゃねぇだろ?」
ジンが振り返るといかにもチンピラと言わんばかりの男がそこにいた。
「そうだけど、なんでわかったんだい?」
「この街の人間は常に片手を隠して歩くのさ、特にこんな裏路地ではな。自分が武器を隠し持っていることを臭わせて、相手を牽制するのさ」
「なるほどね」
「さて、兄ちゃん、良い話が聞けて良かったな。さっさと授業料を置いて帰んな。そして次からはちゃんと片手を隠して歩くんだな」
そう言うと、男はナイフを取り出した。
そして、そのナイフを見て、ジンは自分がカツアゲをされていることに気付いた。
ジンがその事に気付いた瞬間、男はバタリと倒れる。
ほんの一瞬前まで男の正面にいたはずのジンは男の後ろ側に立っていた。そう、男が倒れた理由は当然ジンによる攻撃だ。
「今度カツアゲをする時はちゃんと相手を見てからにするんだね。じゃあ、授業料は貰っていくからね」
ジンは毒により倒れて動けない男の懐から財布を抜き取った。
そして、ジンはその金で適当に肉まんでも食べようと、男を放置して、その場を後にした。
しかし、この行動がジンの立場を大きく変えるきっかけであったことを、この時のジンはまだ気付いていないのであった。
―――
翌日、またもジンが街を散策していると、どこからか数十人のチンピラ達がずらずらと姿を現してジンを囲んだ。
そして、その中の1人、身長が190cmはあるんじゃないかと言う大男が口を開いた。
「あんただな、昨日うちの若い者が世話になったって言う男は」
「まあ、そうだけど。そちらは昨日の授業に対するお礼参りってところかな?」
「随分と肝の据わった男だ。それともこれだけの人数を前にして、正常な判断ができなくなったのか?」
「キミ達みたいなのが何千人集まってもオレには勝てないよ」
その言葉と共にジンの後ろ側を囲っていたチンピラ達はドサドサと音を立てて倒れる。
「なっ!?」
「キミ達の目では追うことも難しかったようだね。逃げるかい?逃がさないけどね」
「お、お前ら!何をしている!殺せ!」
大男に命じられるまま残りのチンピラ達はジンの方へと駆け出した。
しかし、その全員が3歩目を踏み出す前までには倒れてしまっていた。そして、大男も倒れる。
「ゆっくりと寝てると良いよ。オレを相手にしたことを後悔しながらね」
「…ま、待て」
大男は倒れたままジンを呼び止める。
「へぇ、まだ話せるんだ。やっぱり身体が大きいと毒の巡りは遅くなるのかな」
「お前がどこに逃げようとも我ら『サギッタ商会』はお前を地の果てまで追いかけて、殺すぞ」
「暇潰しにだってなりはしないよ」
「…」
「おっと、毒が全身に巡ったようだね。じゃあ、オレは帰るから、キミ達も毒が切れたら帰りなよ」
またもジンの勝利であった。




