聖女と召喚師、隣国の皇子に溺愛される
「だっ、第三皇子!?」
私が素っ頓狂な声を上げると、アダムはにこやかに笑った。
「えぇ、私の父はルカ・エルナディアン三世……エルナディア帝国の皇帝です。なんでも、あなたは隣国のウェインフォード王国によって召喚された聖女だとか」
「そっ――それよりアダム! こっ、この剣を何とかしてくれ……!」
ハイゼンが絞り出すような声で懇願した。
アダムはヘルムの人物に言った。
「もういい、パウラ。彼は恐れ多くも聖女様の下僕だぞ、剣を退け」
「げっ、下僕……!?」
「は、申し訳ございません」
機械的な声でそう言い、ヘルムの人物がハイゼンの首元から剣を退かせた。
ハイゼンは大きく息を吐き出し。脂汗の浮いた額をローブの袖で拭った。
「とにかくコノヨ様。我が国――エルナディアは――少なくとも私は、あなたを《シジルの聖女》だと確信しております。どうか私の求めに応じ、帝都へご同行願いたい」
真剣な口調と表情で、アダムは言った。
私とハイゼンは、その言葉に顔を見合わせてしまった。
「あの、アダム……悪いんだけど、私には魔力が一滴もないのよ」
「存じ上げております。それ故にウェインフォード王はあなたを追放されたと。なんと愚かな事をしでかしたのかと私は思います」
「あはは……それなんだけど、あの日あなたの疲れを癒やしたのは私じゃない。ここのこの温泉なのよ」
私はそう言って、背中にある温泉を示した。
アダムは上品に片眉を上げてみせた。
「ん? つまりそれはコノヨ様が《シジルの聖女》の聖なる力でこの泉を癒しの泉にしていたと、そういうことでなのでは?」
「それが違うんだよね……」
とんでもない勘違いをされていたことを知って、私は照れたように頭を掻いた。
「正直、私にはそんな力ないのよ。生憎、この泉はここにしか湧かないし……。だから帝都に行ったとしてもダメなの。あくまで凄いのはこの温泉であって私じゃないの。だから王都に行っても私は全然お役に立てないんだよね……」
私の言葉に、アダムはぽかんとした表情を浮かべた。
「――つまり、あなたはご自分が聖女ではないと仰られる?」
「ん? まぁ、そういうことになる、のかな……」
「えぇ? そ、そう、なのですか……」
そう言われて、アダムはちょっと落胆したような表情になった。
「これはとんだ勘違いをしていたかも知れません。私はてっきり、貴方様さえお連れできればこの戦況が少しでも有利になるかと……」
その言葉に、私はアダムを見た。
「戦況? ――あぁ、そう言えば、あなたは戦争地帯から脱出してきたのよね? 言っちゃなんだけど、あなた皇子なんでしょ? どうして戦争なんかに?」
どこの世界でも、国の世継ぎは国の未来そのものだ。
その王子が自ら騎士となって戦争の最前線に出ることなんて、普通は考えられない。
だがあの時のアダムは正真正銘の敗残兵であったし、生きているのが不思議なぐらいのボロボロの有様だったのだ。
どう考えても、アダムが安全地帯でふんぞり返っていたとは思えなかった。
私の質問に、少し迷ったような沈黙の後、アダムが決然とした声で言った。
「コノヨ様、私はこの国の皇子です。であるから、民や兵士たちと苦楽を共にしなければならないのです」
「面白そう!」
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「温泉行きたい!」
「湯の花入れると風呂が硫黄臭い!」
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