第四十一話 脊椎と脊髄、そしてニューロン
本日俺は、再びピンチに見舞われていた。
ただいつもと違うのは女神のめちゃくちゃに巻き込まれているわけではないということ。
昼休みも終わり、五限は体育。
俺はいつも通りトイレで着替えを済ませ、グラウンドに向かっていたわけだが。
今はこうして普段使われていない空き教室に閉じ込められているわけである。
鍵はかかってないんだけどね。
精神的にね。
対面に腰掛けるのは一人の女の子。
これをタイメンって呼んだ人が一般人。
トイメンと呼んだ人は麻雀のやりすぎ。
早くブラウザを閉じましょう。
紫がかった特徴的な長い髪。
前髪は片目を覆い隠すほど長い。
確か後ろ髪も長かったけど。
一つむすびにしていたはずだ。
爬虫類のような独特な顔つきも目の下のクマも、彼女の妖艶さを引き出している。
いるのだが、正直威圧感も半端ない。
可愛いがゆえに。
まさに俺は蛇に睨まれた蛙。
……。
誰が両生類だと?
「ねぇ、オウシキちゃん」
「は、はい!」
彼女、林道或は左の口角だけを上げてにやりと笑った。
「なんでうちの高校きたの?」
「うぇ?」
米酢玄師みたいになっちゃったよ。
「オウシキちゃんさ、うちらの数倍頭いいっしょ」
「いやいやそんなこと……」
「あと鈴木ちゃんも」
まあレビはそうかもな。
女神だし。
アホそうに見えるのに全知全能系っぽいもんな。
「ちなみにうちは近いからこの高校にしたよん」
近いから私立高校に入るって。
金持ってる家系何だろうな。
「それと水族館が近くにあるから」
「水族館好きなんだ」
急にかわいい部分出してきたな。
水族館デートってあんま外れないっていうけど本当かな。
俺は暗くて疲れるからあんまり好きじゃないんだけど。
「魚見てるだけで癒されるし、水槽に集中して警戒を解いてる人間を見るとおろかだなって思う」
なんで?
スリ常習犯?
「あと食パンが嫌い」
話飛躍しすぎじゃない?
「食パンってさ、DDだよね」
脈絡も言葉の意味ももわからなくて頭パンクしそうなんですけど。
「DD?」
「そ、誰でも大好き」
聞いてもわかんねーんだけど。
マジでなんだこいつ。
「あいつすぐ浮気すんじゃん」
なんにでも合うってことかな。
食材としては優秀ってことだと思うけど。
「塩辛とかさ」
塩辛ではない。
食パンに合わせるもので一番に出てくるのは塩辛ではない。
「最近オレンジの皮も好きなんだよ」
マーマレードって言え。
あと浮気してんの食パンじゃなくてお前。
「つまりファイブフォースモデル」
なにがどうつまってファイブフォースモデル?
つーかなにそれ。
「潜在的参入者の脅威だよなぁ」
知らん、分からん。
難しい言葉を使うな、バカがばれるぞ。
俺の。
「パキスタン同盟」
もう誰か助けて。
この人の思考回路どうなってんの?
脊髄が喋ってんの?
「オウシキちゃんって総理大臣になりたいと思う?」
なって君のお口に外出自粛をお願いしたいね。
今異常事態宣言出てるからね、俺に。
「うちお花屋さん」
小学生女子の二割が言うやつ。
あと二割がパティシエで、次の三割がアイドルで、残りはプリ〇ュア。
「トリカブト専門店」
それはもはや毒屋敷だよね。
負の遺産として世界遺産登録狙えるかもね。
「はちみつ食べたくなってきた」
のどの調子でも悪いのかな?
プロポリスでもなめたほうが早いよ・
ゲロ吐くほどまずいけどね。
「下呂温泉って何県だっけ」
心の声聞こえてたりします?
岐阜県ですね。
岐阜はいいとこですよ。
なんてったって面積が広い。
「ギフリート」
イフリートみたいに言うな。
「バリケード」
リズム遊びかな。
「イフリート」
イフリート言っちゃったよ。
「それでさー、最近橘が冷たいんだよー」
それでさの違法輸入。
どこがそれでさなんですかね。
橘さんが冷たい理由もよくわかるよ。
あの人最初から冷たい気もするけど。
「変温動物なのかな」
物理的に冷たいの?
それは今すぐ119案件だけども。
今夏だから変温動物なら体温高めだと思いますけどね。
「橘のスカートめくってすげー蔑んだ顔で見られたくない?」
それはそう。
あの眼光で目から冷凍ビーム飛ばされたら泣くけどね俺。
「踏まれたいわ」
わかる、ゴミでも踏む感じでね。
「四つん這いにされて上に乗られたい」
いいね、まるで本当に自分が椅子になったと錯覚するくらい普通に座ってほしい。
「普通にエッチしたいわ」
なげーよ。
センシティブな話題だけなげーよ。
最後直球すぎるだろ。
彼女はとうとうに席を立ち、小走りで教室を出る。
「あっ」
思い出したかのようにひょっこり顔だけを出した林道さんは、俺の方を見てこう言った。
「そういうことだから」
いや、どういうこと?




