第十九話[2] 僕らの席替え戦争
「な!?」
どういうことだ。
ありえない。
俺の読みは完ぺきだったはず。
「もー、勘弁してくださいよぉー」
レビはゆーっくりと顔を上げ、にやりと笑っている。
まさか、はめられた!?
え、なんで?
何のために?
「ほら、あらぬ疑いをかけたんですから。言う事がありますよね?」
彼女は心底嫌味な顔で言う。
クッソ腹立つ。
まさか女神パワーでくじを消した?
いや、彼女はできる限り人間らしく過ごそうとしている節がある。
力を使うのはギター出したり、コントラバス出したり、大掛かりなボケをするときくらいだ。
今回は多分使ってない。
そこまで終わってはない。
と信じたい。
「女神ちゃん、ごめんね。疑っちゃった」
「いいですよ、イリヤマ。あなたはオウシキにそそのかされただけですから。ほらあなたですよ、主犯。早く謝ってください」
「ここは謝っとこ、かえで。友達を疑っちゃったわけだし」
友達?
そいつはそんな甘っちょろいもんではない。
……そう、レビはそんなに甘くない。
「しゃっざっい! しゃっざっい!」
レビが手をたたきながら謝罪コールを始める。
それに乗せられ、クラスメイトも同調しだす。
クソ、完全アウェイだ。
もう手立てはないのか。
「ほらほらほらぁー、はっやく謝ってくださいよー! 女神にたてついてすいませんでしたー、今後は一生女神さまの奴隷として仕えさせていただきますーって!」
な、甘くないだろ?
ビターすぎるだろ? こいつ。
「ああ、謝ろう。私はお前を見誤っていた」
「ええそうでしょう」
「レビはそんな甘っちょろい策は立てない」
「……はい?」
俺はレビから袋を奪い、杏子に渡した。
「だが人間界での経験のなさが出たのか、それとも俺がお前を過大評価していたのか」
レビは首をかしげている。
まだわからんか。
「杏子、くじの枚数を数えてくれ」
途端レビの表情が焦りに変わる。
「な、そんなめんどくさいことしなくても」
「俺らは高校生だ。三十五枚の紙くらいすぐ数え終わる」
「三十三、三十四、……三十五」
杏子は袋をひっくり返し上下に振るが、何も起こらない。
「……一枚足りない」
「あれ、どっかで落としちゃいましたかね? じゃ、じゃあもう一回書いてもらっ」
「そんなめんどくさいことしなくても、そこにあるだろ?」
俺は彼女の肘を指さす。
「は、え? な、何のことですか?」
「萌え袖」
「はい?」
「最初に手を見せろって言われたとき、お前カーディガンの裾をつかんでたよな」
「……覚えてませんね」
「その時にくじを服の中に滑り込ませたんだろう?」
再びざわつき始めるクラスメイト。
疑いの目がレビに向く。
「また言いがかりですか、いい加減にしないと……」
ついに怒り始めたな。
それはうそつきの最後の手段だ。
ここで終わらせる。
「いいのかレビ。俺は今怒っているんだ」
「私もです」
「あらぬ疑いをかけられ、謝罪コールまでされて」
ちょっと泣きそうだったぞコノヤロウ。
「今の俺はなんだってできる、なんだってやれる」
「そうですか、でもオウシキのできることなんて……」
「そのカーディガンをひん剥いてやる」
「はい?」
レビは豆鉄砲をくらった鳩のような表情をした。
「それでも見つからなければそのシャツもな。そこにもないかもしれないな。 スカートの腰の部分に挟んであるのか、それとももっと……」
「ひっ! オウシキ、なんですかその目は、手の動きは! キモい、キモい! 寄らないでください! わかった! わかりました! 出します! 出しますからぁー!」
窓の外から差し込む太陽の光。
グラウンドからは体育の声が聞こえる。
素晴らしい、素晴らしいよ、この席は。
三十六番、窓際一番後ろ、主人公席。
席替えは学級委員の鶴井さんが袋係となって仕切りなおされた。
学級委員いるなら最初から彼女に任せればよかったのに。
俺はレビの悪事を明るみにし、彼女からくじを取り返し、杏子が数えたほかのくじを袋に入れて鶴井さんに渡した。
そう。
他のくじだけを入れて。
あとは右手にレビから奪ったくじを持ち、袋の中からくじを引くふりをするだけの簡単なお仕事。
二重の嘘はバレにくい。
策というのはこういうもののことを言うのだ。
悪いレビ、クラスメイトの皆。
俺は確かに謝罪コールをくらうような人間だ。
君たちは間違っちゃあいない。
だがな、世の中甘くねーんだ。
席替えはな、戦争なんだよ。
我ながら素晴らしい立ち回りだった。
そう思いながら悦に浸っていると、隣の席に人が来た。
ここから新しい高校生活がスタートするのだ。
隣になった女の子と淡い恋が、いや、今なら男の子でもいいのだ。
とにかく、これで新しい生活が……。
生活が……。
あれ。
なんか見覚えのあるカーディガン、茶髪、そしておっぱい。
「よろしくお願いしますね、オ・ウ・シ・キ」
ソーンナキハシテータ。




