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第二十八話 進路決定

「王立魔術学院に入学すればいいのさ。」

「どういうこと?」

 確か、王立魔術学院というのはトーニャが行きたがっていた魔術学院の筈だ。それに、父の母校でもある。

「あそこにはイレイシア王国に一つだけ存在する、全ての特殊魔術が記録された魔道具があるんだ。それを使えば、君の特殊魔術もわかる筈だよ。貴重なものだから使用許可を取るのは大変だと思うけど、リオちゃんなら卒業までには機会があると思うよ。」

 卒業までって、あそこは九年制だった筈だ。どうやら、入学したからといってすぐに使わせてもらえるものではないらしい。

「まあ、それまでに自力でわかる可能性の方が高いとは思うけどね。どちらにせよ、王立魔術学院に行くというのは、魔術師として大成するには一番の近道だと僕は思うよ。」

 卒業生であり、現在は一流の魔術師である父が言うのならそうなのだろう。

 ……九年か。来年入学して留年せずに卒業できても、そのときの僕は約一三歳だ。彼女との約束である一五歳まで、残り二年しかない。

 でも、この世界でできることを増やすには魔術師か魔装師になるのが一番だ。それなら、その一番の近道になるという王立魔術学院への入学は正解の筈だ。

 よし、決めた。

「父様、僕は王立魔術学院に入学するよ!」

 僕が結論を出す間で静かに待ってくれていた父は、その言葉に笑顔でうなずいてくれた。

「そうか、リオちゃんが決意してくれてよかったよ。……まあ拒否権はなかったんだけどね。」

「は?」

 どういうこと?

「実は王国からリオちゃんを王立魔術学院に推薦するという連絡が今朝あったんだ。予想はしてたけど。あまりにも連絡が早いからびっくりしちゃったよ。」

 そう言って父は笑っている。いや、何で推薦なのに拒否権がないんだよ。僕の言いたいことを察したのか、ノアが理由を説明する。

「王国からの推薦ということは、リオ様が王立魔術学院に行くことを王国が望んでいるということですからね。下っ端の旦那様は受けるしかないんですよ。」

「なるほど。」

 父がノアの辛辣な説明に肩を落としているが反論はない。ノアの言っていることは正しいようだ。

「ですがリオ様、拒否権がないとはいえ王立魔術学院への推薦というのはとても名誉なことでもあります。魔術師を目指すリオ様にとってはプラスになると思いますよ。」

「そうなの?」

「王国からの推薦というのはそれだけ期待されているということですから。講師や学習環境も最高のモノを用意してくれる筈です。」

 どうやら、ノアは推薦については良いことだと思っているようだ。僕も一応王立魔術学院に行くこと自体は自分で決めたことだし、拒否権がなくても問題はない。

 そんなわけで、僕は来年から王立魔術学院に通うことが決まったのだった。




「リオ!王立魔術学院に行くってホント!?」

 父の書斎から戻り、自室でアンと戯れているとトーニャが勢いよく飛び込んできた。突然のトーニャの出現に驚いたのか、アンの体が硬くなったのを感じる。ブラックスライムは体の硬度を魔力で変化させることができるので、敵に襲われたときはそうやって体を守るのだ。アンも成長したため、最近になってできるようになったのだ。

「トーニャ姉様、アンが驚いてるからもう少し静かに入ってね。」

「わかったわ!」

 返事は良いがまた繰り返される気がする。トーニャの姿を確認したアンは既に体の硬度を元に戻していた。たぶん、アンがトーニャの行動に慣れる方が早い気がする。

「それで、王立魔術学院に通うってホントなの?」

「本当だよ。来年から通うことになった。」

 それを聞いたトーニャは満面の笑みを浮かべた。

「それじゃあ、来年からリオは同級生ね!一緒にサイキョーの魔術師になりましょ!」

「……うん、頑張ろうね。」

 トーニャは最強の魔術師になりたいのか。何だか男の子みたいな目標だ。でも、トーニャが言うとあまり違和感はない。たぶん、僕が言うよりも違和感がない気がする。

「でも、最強の魔術師には一人しかなれないよ?」

 ふと疑問に思ってそう言った。言ってから気付いたが、少し意地悪な言葉だったかもしれない。だが、トーニャは全く気にすることなく答えた。

「私はさいきょーの属性魔術師になるから、リオはさいきょーの召喚魔術師になればいいのよ!」

 なるほど、確かにそれなら問題ない。

 目標は高いほどいい。父にはリオンを超えると言ってしまったし、それくらいの意気込みは持つ必要がある。

「わかったよ、トーニャ姉様。僕は最強の召喚魔術師を目指す。」

 トーニャの目を正面から見つめて、僕はそう宣言した。

 だが、トーニャの反応はない。何やら赤い顔でこちらをジッと見つめている。

「どうしたの?」

 僕が近寄って尋ねると、何故かトーニャはうろたえたように後ろに下がる。

「リ、リオってロベルト様に少し似てるわね。」

 そんな血迷ったことを言い出した。

「そんなことは全くこれっぽっちも全然ないと思いますよ。僕があの親馬鹿に似てるとかそんな事実は皆無です。僕は母親似です。」

「そ、そう?何だか、言葉遣いが変よ?」

 おっと、あまりにも受け入れがたい言葉だったため動揺してしまっていたみたいだ。僕は動揺を鎮めるために深呼吸をした。

「とにかく、王立魔術学院ではよろしくね。」

「任せなさい!リオはちっちゃくて女の子みたいだからいじめられそうだけど、お姉さまが守ってあげるわ!」

 ……僕ってそんなイメージなのか。たしかにトーニャより背は低いけど……。

「……ありがとう、頼りにしてるよ。」

 釈然としないものを感じつつも、目の前で胸を張るトーニャを見た僕はそう言うしかなかった。

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