第二十七話 天才属性魔術師トーニャちゃん
「どういった特殊魔術の適性があるかはこの魔道具で調べます。この魔道具を使えば、ボーティス家に縁のある特殊魔術ならすぐにわかります。以前も言いましたが、特殊魔術の適性は血によって受け継がれるものも多いので、リオ様の特殊魔術が何なのかもわかる可能性は高いですよ。」
ノアが机に置いた魔道具について説明してくれた。適性試験のときに使用した魔道具とよく似た、水晶の様な見た目をしている。
「……ふーん。」
その魔道具を見ても僕のテンションは非常に低かった。反応の薄い僕を見て、ノアが困ったような顔をする。
僕は最近子供部屋に設置されたばかりの大きな鏡を見た。これは三歳の誕生日に両親がプレゼントとしてくれた物だ。
……鏡はこの世界では高価なものなので、誕生日のプレゼントとしては珍しい物ではない。ただし、それは女の子の場合だ。男の子への誕生日プレゼントとしてはかなり珍しい部類に入るだろう。誕生日当日、とてもご機嫌な様子で自慢げにこの鏡を披露した母を思い出してさらにテンションが下がった。
一応、僕が鏡を貰っても嬉しくないと察した父がこっそりと他のプレゼントを渡してくれたけど。母?あの人は天然なので僕が本気で喜ぶと思っています。
そんな曰くつきの鏡には赤い瞳の少年が映っている。魔眼に隠された能力について盛り上がっていた僕とトーニャだったが、エレナの発言によって水を差された。
「うん、僕は召喚魔術師だからボーティスの魔眼なんていらないよ。別に悔しくないよ? ……トーニャ姉様、目が赤くできるようになったら見せてね。」
「わかったわ!今はまだ無理だけど使いこなせるようになったら見せてあげるわ!」
目の変色はボーティスの魔眼を完全に使いこなせるようになって初めて起こる現象らしい。それには魔術師としての修業が必要になる。後で聞いたところ、父が魔眼を使いこなせるようになったのは上級魔術師になる少し前くらいらしい。気長に待つことにしよう。
「それじゃあ、気を取り直して続けようか。ノア、その魔道具に触ればいいの?」
「はい、使い方は魔力適性試験で使用した魔道具と同じです。この水晶にはボーティス家縁の特殊魔術が登録されているので、該当するものがあればその名前が出てくるようになっています。」
「リオ、先にやっていいわよ。」
「わかった。もう触ればいいんだよね?」
トーニャが順番を譲ってくれたので早速水晶に触れてみる。すると、すぐに文字が浮かんできたのだが……。
「あれ?」
「どうしたのんですかー?」
水晶に触れた僕の困惑した様子を見て、エレナが水晶を覗き込む。
「あー。該当なしって出てますねー。」
「……どうやらこの水晶にはリオ様の特殊魔術は登録されていないみたいですね。この魔道具が製作される以前に存在した人から受け継いだのかもしれませんし、ボーティス家とは関係のない特殊魔術の可能性もあります。」
ノアはそう言って考え込む。
「何か心当たりはある?」
僕が尋ねるとノアは悩みながらも答えてくれた。
「初代当主のリオンには召喚魔術と併用して使うことのできる特殊魔術があったらしいので、もしかするとそれかもしれません。残念ですが詳細は伝わっていないのでわかりません。」
ノアもそれ以上は知らないようだ。
「ロベルト様に相談してみたらどうかしら?」
確かに、当主である父ならボーティス家の魔術について詳しいだろう。
「そうだね。父様なら何か心当たりがあるかもしれない。後で聞きに行くよ。今はトーニャ姉様の特殊魔術を調べよう。」
「わかったわ!」
僕の言葉に頷いたトーニャが水晶の前に立つ。そして、僕達三人の見守る中トーニャの手が水晶に触れた。
「わ!?」
トーニャが驚いた声を出した。水晶に触れた途端、大量の文字が水晶の表面に浮かびあがってきたからだ。
「これは……。すごいですね、トーニャ様。ボーティスの魔眼以外にも三つの特殊属性魔術の適性がありますよ。ここまで特殊魔術が多い人はほとんどいませんよ。」
「ホント!?」
ノアが驚いたように言った言葉にトーニャが大喜びしている。特殊魔術四つ、しかも全て属性魔術関連だ。トーニャは属性魔術の申し子と言えるだろう。属性魔術のボーティスと言うだけのことはある。
「おめでとう、トーニャ姉様。それにしても、特殊魔術四つはすごいね。一つでも珍しいって聞くのに。」
「そうですねー。ボーティス家には特殊魔術の適性がある人は結構いますけど、さすがに四つも使える人は聞いたことないですよねー、ロベルト様も特殊属性魔術は一種類しか使えませんし。あ、でも二代目当主はボーティスの魔眼以外に十種類の特殊属性魔術が使えたらしいですよ。」
……それはもはやチートと呼べるものじゃないでしょうか?二代目当主ということはリオンの弟の筈だ。兄弟そろって化け物だったらしい。もう一人いたという妹ももしかしたら普通じゃなかったかもしれない。
トーニャの特殊魔術がわかったので、僕とノアは父にボーティス家の特殊魔術について聞くために書斎に来ていた。ちなみに、トーニャはあの後すぐに結果を報告すると言って部屋を飛び出していった。 どうやら、叔父を探しに行ったらしい。エレナもその後を追いかけて行った。
「なるほど、リオちゃんの特殊魔術は不明か。それにしてもトーニャちゃんはすごいね。間違いなく僕よりすごい属性魔術師になるよ。彼女は魔力量も多いしね。」
「そうなの?」
「ああ、正直言うと今年彼女が合格できるとはあまり思っていなかった。あと数年は時間がかかると思っていたよ。魔力操作に関しても彼女は天才的だね。」
「はあ、トーニャ姉様すごいんだねー。」
僕が感心していると何故か父が呆れたような目で僕を見てくる。
「なんか感心してるけど、才能に関してはリオちゃんも負けてないよ。」
「え、なんで?」
僕の反応に父が額を抑えて黙り込む。なんだその反応……。
「リオ様は既にアンの召喚を成功させましたからね。ちゃんと修業すれば上級以上になれることは確実と言えます。それに、魔力量がトーニャ様より多いのにも拘らず、魔力操作試験は一度で合格です!特殊魔術に関してはまだ不明なので何とも言えませんが……。間違いなくリオ様は天才です!」
父の代わりにノアが説明してくれた。なんだかすごく生き生きしている。何故か自慢げに胸を張っているし。
そんなノアを見て父は笑う。
「ノアの言うとおりだよ。いやー、初代以来初めての召喚魔術師に魔眼を含む特殊魔術持ちの属性魔術師、次代のボーティスは安泰だね。」
父の言葉にノアも何度も頷いている。何だかくすぐったくなってきたので、ここに来た目的を果たすことにした。
「父様、僕の特殊魔術について心当たりはない?」
「あの水晶に登録してある特殊魔術以外はわからないな。でも、君の特殊魔術を調べる心当たりがあるよ。」
そう言って父は意味ありげに笑ったのだった。




