撃退
村は、白き竜に蹂躙されていた。
炎を上げて焼け落ちる家々に、逃げ惑う村民。
勇敢にも竜に立ち向かい、倒れた村の男達の亡骸が哀れを誘う。
誰もが必死だった。
竜は、この世界において最強の魔獣である。
その存在は天災に等しく、出会ったならば逃げるしかない。
正確に言えば村を襲っている竜は亜竜であり、本物の竜とは大きな差があるのだが、ただの村民にそのような事がわかるはずもない。
もっとも、わかった所で村民達がすべき事は変わらないのだが。
亜竜は、竜にこそ劣るものの地方の村を壊滅させるくらいの事は簡単にやってのける。
亜竜の中でも特に強力な個体は、一頭で城塞都市を落とすことさえあるのだから。
ギャオオオオオォォッーーーー!!
竜の発する大音響が辺りの空間をビリビリと震わせる。
もはや自分に刃向かう者が消えた事を悟った竜は、満足げに村を徘徊し始めた。
少年は、かろうじて残った家の残骸に隠れていた。
隣には母もいるし、まだ幼い妹もいる。彼は、幼い妹を守るために家の残骸の陰となる狭い空間の入り口に立っているのだった。
少年とてまだたった10歳の子供ではあったが、自分達を逃がすために村の男達と竜に挑んで行った父親の背中を見ていた。
父親が戻って来るまで自分が母と妹を守るつもりだった。
憔悴した様子の母と泣き疲れた妹は、この小さな隠れ家でぐったりとしている。
少年は、母の元へ近付くと励ましの声を掛けた。
「母様、きっと大丈夫。父様も死なないって約束してくれたし、僕もリエラ(妹)も母様自身も生きてるんだから。」
「…そうね。ありがとうトール。お父さんが帰ってくるまでみんなで頑張りましょうね。」
そう言って微笑み、少年トールを抱き締める母。
「うん、母様。…そうだ、それにナスターシャ姉様がいるよ!」
自らの発見に興奮したように話すトール。
「…そう、そうよね。ナスターシャ様がいたわ。あの方なら何か出来るかもしれないわね。」
「うん!ナスターシャ姉様なら助けてくれるよ!ナスターシャ姉様はとっても強いから!」
「…ふふ、トールはナスターシャ様が大好きなのね?」
こんな状況ではあったが、息子の嬉しそうな様子に微笑む母。実際、トールはナスターシャが大好きだった。
四年程前にフラフラの状態で村に迷い込んだナスターシャは、村長に保護されてすぐに村に馴染んでいった。自分の過去を話したがらないために少し謎めいている所もあるが、彼女の面倒見がよい性格に子供達はすぐになついてしまった。以来子供達には頼れる良き姉として、大人達にはその驚くような深い知識と魔法の腕で頼りにされ、今ではすっかり村の大切な一員である。
1ヶ月前、村の近くに竜が住み着くとナスターシャは森に消えた。
自分に出来ることをするとトールに言い残して。
「…うん。ナスターシャ姉様は好きだよ。優しいし、色々教えてくれるから。」
はにかんだ様子で母に語るトール。10歳の少年の素直な心だ。
「そう、お母さんは良いことだと思うわ。」
暗い一時的な隠れ家に、初めて穏やかな空気が流れる。
「ねぇ、母様…
トールが口を開き……
唐突に日が差した。
トールの目の前に自らの影が黒々と落ちる。
母は、目を見開いて彼の背後を見つめていた。
トールがゆっくりと振り向くと、そこには白い竜鱗の巨体があった。
すぐ先に、粘着質な竜の唾液がボトボトと落ちる。
…ああ、死ぬんだな…
ただ、そう思った。
竜が身体をたわめ、口をガパリと開き……
どこからか飛んできた炎の塊に横っ面をぶん殴られた。
ギャオオオァァッー!?
初めて聞く竜の動揺したような鳴き声。
グ、グギャオオオオオオォォォォッーーーー!!
そして、本気で激怒した鳴き声。
だが、彼はもう竜を恐れてはいなかった。
視線の先で風に揺れる美しい銀色。
何故か、大きな箱を背負ってはいたが……
「母様、もう大丈夫。…ナスターシャ姉様が来たよ。」
彼女は、息子のトールほど現実を甘く見てはいなかった。
(いくらナスターシャ様でも一人で竜と戦えるはずがない。……でも、今の私に出来る事もない。それならせめてナスターシャ様の応援をしよう。私達を助けてくれるように。)
その願いは…叶う。
/////
今にも子供を襲おうとしているホワイト・レッサードラゴンを発見した俺は、まずは挨拶代わりに《フレイム・キャノン》をぶっ放した。フフフフ、ナスターシャも驚いてるようだな。やべっ、結構楽しい。
「…おい、今のはなんだ?」
-ん?炎属性魔術だが。-
「魔術を使えるのか?」
-うん。…でも、魔界で使うより威力が下がった気がするな。-
鈍ったかな?
「…いや、魔術というのは原始的な技術だからな、周辺の魔力によって威力のブレが激しい。その分、完全に制御された魔法より感覚的に使えるし高い時の威力も上なんだが…それに、私が召喚して契約していることで貴方自身の力も多少落ちているんだ。」
ふ~ん。そういうものなのか。
っと、どうやら敵さんがお怒りのようだ。
「すまない、えっと……」
-ああ、悪いね。俺には今の所名前が無いんだ。……ん、せっかくだからナーシャちゃんにつけてもらうか。俺の名前何がいいと思う?-
「今はそんな事を話している場合ではないと思うが……ッ!!こっちに来るぞ!」
-全く…落ち着いて名前くらい考えさせろよ。-
-《グラビティ・ネスト》-
ギャオオオァァッー!?
こっちに飛びかかろうとしたホワイト・レッサードラゴンに闇属性魔術を発動した。
足元に発生した重力場に足を取られてたたらを踏むドラゴン。
…やっぱりしょぼいな、あいつ。
「…確かに負ける気がしないな。貴方と会うまでは全くまともな抵抗すら出来る気がしなかったのにな…」
-まぁ、俺だって本物の竜には勝てないよ。でも、ドラゴンとレッサードラゴンには圧倒的な差があるからな。-
さて、せっかくだからさっさと終わらせるか。
-《フレイム・キャノン》-
-《フレイム・キャノン》-
-《フレイム・キャノン》-
-《フレイム・キャノン》-
-《フレイム・キャノン》-
「……なんだかあの竜が可哀想になってきたな。」
ホワイト・レッサードラゴンはボロボロになって地面に転がっていた。
まぁ、当然だろう。《フレイム・キャノン》の5連射で元気だったら俺がビビる。
-さて、ナーシャちゃんや。俺をあの竜に投げつけてくれ。-
「え?あ、ああ、わかった。」
背中の俺を降ろし、振りかぶるナスターシャ。
※現在ミミックは重さゼロ
こうして俺は、ホワイト・レッサードラゴンを美味しく頂いたのだった。
……ま、味なんてわからんけどね。
以上で宝箱転生記本編を終了します。
少々強引な終わり方で申し訳ないのですが…
この後一話だけエピローグを投稿して完結です。
この作品はあくまで習作なため、続いて正式な作品を新たに書き始める予定です。
次回作品も人外転生モノにする予定ですが、転生先を募集します。
…と、いうか知恵を貸して下さい。
今の所、
再びミミック(続編ではない)
意外に少ない鎧系(ド◯クエのさまよう鎧とか)
ゴーストとか、霊体系(精霊とかもアリかも)
と、いった所を考えていますが……
協力いただける方は、作者インテグラルへのメッセージか宝箱転生記の感想欄へ清き一票を!……ではなく、ご意見をよろしくお願いします。
本作を気に入ってくれていた皆様、次作は本作での実験、経験をもとにより読みやすいようにしていくつもりですので、これからもインテグラルをよろしくお願いします。