↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/13

策謀

本作はカクヨムにて総PV40万回、★2,500超えを記録した戦記のマルチ投稿作品です。

※カクヨム側は完結、こちらは予約投稿にて月水金で、一歩ずつ大切に配信してまいります。どうぞ安心してお楽しみください。

(本文のブラッシュアップにAIを一部利用して格調高く仕上げております)






「お主凄いでよぉー五百石かやー!」




近習の間に戻ると左馬助が感嘆の声を上げた。




「なんや、聞いておったんか」




「無論だわぁー、上様の御声はよく通るでよぉー」




左馬助はそういうと一変畏まって、




「儂はお主の補佐役をお申し付けられた故、これからは言葉遣いを改めねばならぬでよ」




「何を言うか、俺が今こうして生きておるのは左馬助のお陰じゃ、今まで通りで頼むわ」




俺達はそう言い合って、一緒に吹き出すと近習の間に戻った。



暫くして………名前を呼ばれたので立ち上がると、他の近習から一枚の書状を手渡された。



広げた書状の中身には力強い信長の花押かおうが添えられている。



見事な崩し字だが、俺にはなんとか読むことが出来た。


 



【この書状を持参の者の申出は儂の言葉として違背することなかれ。入り用の一切用立てるべし。金子はいくら費えようと勝手たるべし】




俺はそのお墨付きを外紙で包み直すと、下着の入った平包みを肩に掛けた。




「その平包み、随分と臭うでよぉー。城下に着いたら我家のもんに預けて洗ろうて貰うがや」




俺は左馬助の申し出に一も二もなく同意すると、感謝の言葉を述べて一緒に天守を退出した。



さて、必要なお墨付きは得た。



今度はまた城を降りなければ………。



俺が躊躇ためらっていると、またこれを使うか?と左馬助が天守台の横に片付けられた戸板を指さした。



………ここは止むを得ない。



という事で、俺はまた四人の足軽に担がれた戸板の上に載って搦手口から安土山を下りたのだった。



やっと天守を降りて城下の屋敷町に着いた時は日が中天を過ぎようとしていた。




◆◇◆




同時刻:京禁裏




「昨日、お上の御宸襟しんきんを悩ます悪逆の徒、織田右府とその嫡男岐阜中将を討ち取りました由、ここに奏上仕りまする」




光秀の言葉に列座する公卿たちの間にどよめきが走る。



ただならぬ空気の中、一人の公卿がやおら立ち上がると歩み出た。




「………うむ、惟任日向守大儀。お上においては殊の外お悦びであらせられますぞ」




それを受けて光秀は頭を下げなおも申し出た。



「ははっーー!、つきましては京の都の静謐せいひつを保ち、なおも逆らう織田の残党共を駆逐せんがため、どうか織田家討伐の勅命を賜りたく………」




光秀の言葉に件の公卿は気圧けおされながらも




「相分かった、お上に上奏し直ちに………禁裏守護の勅定ちょくじょうを差し遣わすゆえこれよりも務め怠るでないぞ」




公卿の言葉に光秀は歯噛みしながらも深く頷くと、無言で踵を返して殿中から立ち去った。



殿中から出てきた光秀を斎藤内蔵助利三が出迎える。




「殿、ご首尾は?」




光秀は首を振って答えると、利三に質した。




「西国には信長親子を討ったとの書状!ばら撒いておろうな?」




「はっ、それは抜かりなく。毛利へは使者を3重に立て申した。摂津・河内・堺・大和………紀州の根来衆や雑賀衆にも使者を遣わしておりまする」




「ならば畿内衆や堺の惟住五郎左衛門は容易に動けまい。大和の筒井は組下じゃ、いずれ与力致そうほどに………。筑前や修理亮、左近将監は遠国じゃ。後は信長を倒せば目論見通りよ!」




紅潮する光秀の横顔を見ながら、利三はそう上手くいけばいいがと胸中でため息をついた。




◆◇◆




同時刻:安土城天守四階




そこは八畳ほどの小部屋で、隣には右筆が控える十二畳程の部屋がある。



その部屋を仕切る豪華な障壁画が描かれた襖は今は無造作に外され、右筆が墨を刷る音や、筆を走らせる音が耳朶を打つ。



信長は文机を前に書状の花押を書くことに没頭していた。



文机の周辺には同じ内容の、宛先だけが違う書状が無数に散らばっている。




惟任日向守相背申候事、天下大逆人明智十兵衛、以是討伐之故、至急人数合召出赴安土可候。




真っ先に花押を書いた宛先は、山本山城主の阿閉淡路守貞征、石山城主の武田孫八郎元明、目と鼻の先の奥島の京極小兵衛高次。



この3人の名前は新一郎から直に耳打ちされた名前だ。



後は近江日野城主の蒲生忠三郎を中心とした近江周辺の地侍や越前や伊勢・尾張・美濃辺りまで………。



但し、東海道が光秀に抑えられている以上、大津から西には使者を出す事は出来ない。



伊賀から大和の宇陀を経由する方法もあるが、いかにもそれは遅い。



筆を走らせ、また一枚花押を書き終わると信長は凄絶な笑みを浮かべた。



金柑頭め、せいぜい今の内に束の間の天下を味わうがよかろうでや…………!




◆◇◆




同時刻:安土城下




俺は左馬助の家の者に下着の入った平包みを預けると、城下の町に出た。



天守をいただく壮麗な安土城の麓に広がる城下町は、当時としては信じられないほどの活気と異国情緒の漂う町だ。



甍を連ねた店が立ち並び、通りを行き交う通行人に物売りの声が愛想よく投げられる。



近くには三階建ての洋風建築のセミナリヨが、安土城天守と同じ青い甍に燦々と日を浴びて輝かせている。



広い通りの真ん中を、時々蹄を軋ませ土煙を上げて馬が走り去っていく。



俺はそんな城下町に圧倒されながらも、一歩を踏みだした。



さぁ、まずは靴と靴下だ!





補足:惟住五郎左衛門は丹羽長秀。左近将監は滝川一益。筒井は筒井順慶です。


信長が手紙を優先して送っているのは阿閉貞征と武田元明と京極高次、いずれも本能寺の変の際、史実では明智方についた武将です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。