共闘〜Felis's turn〜
「これどこですか〜?」
ロトがそう叫びながら蜘蛛の山を掘り起こす。…戦いの最中とは思えない、間の抜けた声だ。
「動きに規則性があるはずだ。規律正しく動いている中に1個体だけ、別の動きをしている蜘蛛が…」
「ロト、動いていないやつが1体だけいるはずだ。…目を凝らして探せ。」
俺の説明を遮り、先程までいた後ろのビルから声が聞こえた。
「おい。戦闘の邪魔だ。帰れ。」
「お前が守れ。」
ビルの屋上でパソコンを操作しながら、深くフードを被った男が偉そうにそう言った。
「初対面の相手を、買い被りすぎなんじゃないか。」
「そんなことないな。俺はロトのイヤホンから、常にお前を見ていた。」
「見つかんない!」
ロトはそう叫びながらも、ニコニコと笑っている。
「…状況をわかっているのか…」
俺が行くべきだったか。
夜も更けた。ロトはこの状況で頭も使えず、やみくもに探すのみ。効率が悪い。やはり…
「使えないな。」
俺はそう呟き、翼に風を乗せた。
「おい、鳥。」
後ろから男が声をかけてきた。
俺は一瞬、降らす矢を止めた。
男の方は振り返らず、声だけ聞く。
「お前は、ロトの何を知ってるんだ?」
「…」
「名前も歳も、その実力も、知らないだろ。」
男の声が、どんどん低くなっていく。
「…無駄口が過ぎるな。」
これ以上時間を無駄にするわけにはいかない。
ロトは、使えない。戦いに必要ない。
俺は、男の目の前まで瞬時に移動する。首に手刀を叩き込む…前に、
「見つけた。」
ロトの声が聞こえた。
俺はため息まじりに呟いた。
「…やっと見つけた…か…」
振り返って、俺は思わず目を見張った。
蜘蛛の群れの中から覗くロトの顔。2つの金色の目が妖しく光り、闇の中にその表情を浮かび上がらせる。
ニヤリと口の端を上げ、目はらんらんと輝いている。
俺はその圧倒的な力を秘めたような顔に、あの人の面影をみたような気がした。
…そう感じたのは、たったの一瞬だった。
「絶対この蜘蛛だ!」
パッと満面の笑みで、一匹の蜘蛛をつまみ上げる。まるで宝を見つけた子どものようだ。
…確証はあるのだろうか。勘で見つけたと言っているなら…
「よくやった。ロト。」
後ろで男がマイクからロトに話しかける。
この男は確認をしないのだろうか。
「うん!」
それを聞き、ロトは褒められた子どものように笑みを深くした。
「じゃ、倒します!」
…あとは、あっという間だった。ロトが鍵爪を蜘蛛に突き刺した途端、全ての蜘蛛が一瞬にして消えていった。
…不思議だ。
蜘蛛を見つけた時のロトの顔が、頭から離れない。
圧倒的な強さがあるわけでも、冷静沈着な頭脳があるわけでもない。
猫から力を借り、自分より頭の切れる存在に知恵を借してもらっているだけの、普通の…。だが、あのときの顔に、戦いへの躊躇は一切感じなかった。
何度もロトが言っていた。
「…人を助けたい、か…」
たったそれだけのことが、彼女に命をかける価値を与えたのだろうか。
…責任は、なかったのか。
「おい、フェリス。お前も街直すの手伝え。」
「お前は手伝わないのか?」
「俺が変に手伝いに行くと、ロトとの関係が組織にバレる。」
「そうか。」
俺は翼を広げたが、一度立ち止まり振り返った。
「お前、名は?」
「誰が言うか。」
…どこまで行っても、いけ好かない奴だ。
「鳥さん!」
人の気配のしない静かな都会の夜。
街中に響き渡る声で、ロトは俺を呼んだ。
…先程まで戦っていた者とは思えない、キラキラとした笑顔だった。
俺は、チラリとロトの方を見た後、その頭上を通り過ぎた。
「あれ?手伝いに来てくれたんじゃないの?!」
「俺が協力すると言ったのは戦いだけだ。」
「え〜」
背後から残念そうだが、どこか笑いを含んだ声が聞こえた。
「…ロト。」
「何?」
「あのとき、どうやって蜘蛛の中心を見つけた?」
「うん?え〜っと…」
ロトは少し考えた後、パッと笑って言った。
「直感!」
「…」
…直感?そんなものを、こいつらは信じているのか。
俺が何も言わずにいると、ロトは少しきょとんとした後、ハッとした顔になって叫んだ。
「え?!何?私なんか変なこと言った?!」
ギャアギャア騒ぐロトをよそに、俺は翼を大きく振り、高度を上げた。
ティアの準備している車へと向かう。
…ロト。
今はまだ遊び半分な戦い方でリスクが大きい。
だが、いずれ使えるかもしれない。




