ep.24 もっと悩め。
エーギル「お?ホーアムじゃねェか。昨日は寝れたか?」
ホーアム「お、おかげさまです...。」
エーギル「未来の王なんだから敬語なんて使うんじゃねェよ。」
ホーアム「お、王??」
早朝から部屋の前で出くわしたエーギルにだる絡みをされるホーアムだった。
彼は言葉遣いや顔つきの割にフレンドリーに接してくる。
その大きな体格で肩を組まれ逃れようがない。
エーギル「そんなしかめっ面だと寄ってくる女も寄って来ねェぞ〜。」
アイ「恋に現を抜かしている女性なんてここにはいないわよ。」
エーギル「お、アイじゃねェか。珍しいな。」
ホーアム「お、おはようございます。」
アイ「朝に弱いのはあなたもでしょ?おはよう、ホーアム。朝食ならスルトが準備してるわよ。」
ホーアム「スルトさんが...?」
エーギル「あいつサラダですら焼きやがるからキライなんだよなァ〜。行こうぜホーアム。」
ホーアム(焼きサラダ???)
一同は昨日集った会議室へと向かった。
そこにはスルト、ニュクスと知らない人物が居た。
スルト「おはようございます。ホーアム、アネモイ。」
アイ「おはようスルト。」
ホーアム「おはようございます。」
エーギル「俺にはァ〜?」
スルト「おや、すっかり仲良しですね。」
エーギル「俺たちゃもう親友だぜ!」
ホーアム「昨日僕の事殺そうとしましたよね?」
ニュクス「朝から元気だね君達は。」
ホーアム「おはようございます。ニュクスさん。」
???「この男が?」
ニュクス「あぁ、そうだ。紹介するよ。この少年がホーアムだ。ホーアム、この方がケイ卿だ。これからこの拠点で一緒に生活するよ。」
ケイ「ケイだ。しばらくの間世話になる。」
その男はまるで旅人のような大荷物にしばらく洗っていないであろう汚れた上着、そして背中に大きな大剣を背負っており、角がない。おそらく人間で間違いない。
ホーアム「その、ケイ卿はどうしてここに?」
ケイ「貴公の世話を任された。」
ホーアム「僕の世話?」
ニュクス「魔人に囲まれなれない場所での生活となると不安だろう。知っておかねばならない事も多い。彼には君と同じ立場で色んな事を教えてもらおうと思ったんだ。」
エーギル「だったら俺でいいじゃねェかよ!」
スルト「口を慎みなさいエーギル。これはニュクス様の御意向ですよ。」
エーギル「てめェはいつから俺に指図できるようになったんだァ?」
ホーアム「じゃ、じゃあ僕は2人から教えて貰いますよ。」
ケイ「必要な時に呼ぶだけで構わない。こちらも必要な時だけ出向こう。」
ホーアム「これからよろしくお願いします。」
ケイ「これを。」
ケイはそう言うと小さなペンダントをホーアムへと手渡した。
そのペンダントには立体的な杯のチャームが付いている。
ケイ「主従契約の御守りみたいな物だ。持っておくといい。」
ホーアム「あ、ありがとうございます。」
お礼を言うホーアムを他所に受け取ったペンダントをアイが勝手に首に付ける。
世話焼きだ。
スルト「では朝食にしましょう。冷めてしまいます。」
ホーアム「そ、そうですね。」
エーギル「俺のだけ焦げてるだろこれ。」
一同はテーブルに着き朝食を取った。
全員が食事を終え、スルトとアイは皿を洗いに、エーギルは飼っている魔獣の餌やりに、ケイは用があるとすぐに拠点を出て行ってしまった。
ニュクス「彼の料理は絶品だろう?」
ホーアム「とても美味しかったです。」
ニュクス「さて、今後の予定だが、我々魔導師のアトリエはまず人類の魔人への進化を確実かつ安定し行えるようにサンプルを集める。いや、実は既に10年ほど集め続けていたんだ。」
ホーアム「そ、そもそもどうやって魔人に?」
ニュクス「魔人への突然変異は2パターン存在する。まずは自然での変異だ。この星には魔力がそこら中に満ちている。この魔力に人間が長い間晒されると魔獣へと変化する。しかしごく稀に魔力への適応能力が高い人間が魔力に晒され続けると人としての原型と理性を保ったまま魔獣へと変異する。これが魔人だ。」
ホーアム「ごく稀に?魔力への適応能力が高い人間はみんな魔人になるんじゃ...。」
ニュクス「いや、実はこの方法で魔人へと成った人間を私は見たことが無い。理論上は可能ってやつさ。」
ホーアム「身も蓋もない...。」
ニュクス「もうひとつは、意図的に魔人化させる方法だ。一度魔力への適応能力が高い肉体と魔人化させたい人間を同化させる。それを魔獣化させ、元あった人間と魔力への適応能力が高い肉体を分離させる。そうする事で失われるはずの人としての原型と理性を保ったまま魔人化させる事が可能だ。こちらについては前例が存在する。」
ホーアム「という事は人類の進化もその手段で?」
ニュクス「そう簡単ではないんだ。どちらの方法でも元の人間の魔力への適応能力が高くないと成立しない。後者の方法を確率させるべく我々は何百年もサンプルの回収を続けた。」
ホーアム「でも、だとすれば全人類と同化させるための肉体が大量に必要なんじゃ...。」
ニュクス「それもある。一応方法はありそうだが、まだ時間が必要でね、それまでの間は皆にサンプルを集めて貰っているよ。今日もみんなはこの後サンプル集めに行ってもらう。2、3日戻らない事もあるよ。大丈夫、君は拠点の中を自由にしててくれていいよ。」
ホーアム「すみません...ちょっと何もしない事に慣れてなくて...。」
ニュクス「ずっと奴隷として生きてきたんだ。少しくらい休んだ方がいい。」
ケイ「何かするべき事を探しているなら丁度いい。」
ホーアム「どどどどこから?!」
突然ホーアムの背後にケイが現れる。
ケイ「剣術の稽古を付けたい。今からいいか?」
ホーアム「い、いいですけど...。」
ニュクス「決まりだね。私はもう出るよ。また会おう少年。」
ーポリオンス西山群奥地にてー
ビュオォォッ!!
ホーアム「も、もう少しゆっくり!!」
ゴーストワイバーンの背中にケイとホーアムは掴まりとある場所を目指している。
しかしケイによる操竜技術は荒く、ニュクスと乗った時とは別物だ。
ケイ「だらしないな。」
ホーアム「せめてもっと下を飛んでください!!!」
地獄のフライトを終え2人はある平地へと辿り着いた。
この場所は山脈に囲まれ、高所にある台地のような地形だ。
枯れ木なども一切なく、だだっ広い高野。
ケイ「さぁ、始めるぞ。」
ホーアム「ちょ待っ...」
ケイはホーアムが掴めるように優しく剣を投げたが、フライトで体力を使い切ってしまったホーアムは受け取る事が出来ず剣にぶつかるとそのまま倒れた。
ケイ「...少し休むか。」
倒れたホーアムの隣にケイは腰掛けた。
ホーアム「ケイさんは...どうして魔導師のアトリエに?」
ケイ「これが唯一の方法だったからだ。」
ホーアム「唯一の方法?」
ケイ「救いたいやつが居る。そいつは明るくて人懐っこくて、剣の才能は俺には劣るが、剣に認められたやつだった。」
ホーアム「その人の為に人類を進化させるんですか?」
ケイ「何か勘違いしているな。」
ホーアム「勘違い?」
ケイ「人類を進化させる事は人類を終わらせる事ではない。貴公は人類を進化させる事、いや、進化できない人間は魔獣になる事を危惧しているのであろう。」
ホーアム「...バレてましたか。」
ケイ「その考えも、悪くない。俺は別に人類の進化そのものに興味はない。ただ、自分の目的の為に魔導師のアトリエが必要だっただけだ。」
ホーアム「その人の事、好きなんですね。」
ケイ「好き...?」
ホーアム「だって、その人の為に今のあなたは頑張ってるじゃないですか。きっと大切な人なんですよね。」
ケイ「そうか...そうかもしれないな。」
ホーアム「どんな人か、気になります!」
ケイ「貴公のような男だ。長話が過ぎたな。稽古を始めよう。」
ホーアム「って、そもそもなんで僕剣術なんて身につけなきゃいけないんですか!」
ケイ「護身のためだ。立て。」
ホーアム「え〜...。」
差し伸べられたケイの手を掴みホーアムは立ち上がる。
ケイ「まずは守制流から覚えよう。」
ホーアム「守制流?」
ケイ「守って攻める。相手の行動に合わせ攻める隙を狙いつつ相手の攻撃にはカウンターを合わせる。柔軟に行動できる基礎的な流派だ。」
ホーアム「でも、僕剣術なんてやった事無いですよ。」
ケイ「剣を抜け。鋒を上へ。角度は相手の方へ約60度ほど。利き手は?」
ホーアム「右です。」
ケイ「なら自分から見て右上に10度ほど傾けろ。左足を後ろへ、ほんの少し前かがみに。対敵し剣を抜きあった際、自分を守るのは構えだ。この構えを体に覚えさせろ。」
ケイは剣を持つ構えを細かく指示し、ホーアムの腕や手、背筋をリードした。
ホーアム「こ、こうですか?」
ケイ「悪くない。防げよ。」
シュッ!!
ケイは突然ホーアムの左肩目掛けて突きを放つ。
ホーアムは驚き、咄嗟に剣を目の前で振り回した。
運良くその突きの側面を弾き、ホーアムへ当たる事はなかった。
ケイ「よく防いだ。」
ホーアム「よく防いだじゃないですよ!!なんでいきなり刺して来るんですか?!」
ケイ「理解させる為だ。今の突き、見えたか?」
ホーアム「見えなかったに決まってるじゃないですか。煽ってるんですか?」
ケイ「ならこれは?」
またしても会話の最中にケイは攻撃する。
今度は右下からの切り上げだが、ホーアムは剣をそのまま下に落とすだけで弾いてしまう。
ホーアム「後でニュクスさんに報告しますからね。」
ケイ「攻撃を見切れなくとも、その構え方なら最速で反応できる。守りに特化した流派の構えだ。まずは防御に慣れ、相手の動きを見る余裕ができ始めたら攻撃の隙を見つけよう。」
ホーアム「ケイさんの教え方は実戦しかないんですか?!」
ケイ「ケイでいい。実際に剣を交わす方が覚えも早いだろう。」
ケイはそのままホーアムへ攻撃を続けた。
手加減してくれているようで、ホーアムもだんだん攻撃に慣れケイの攻撃を弾く速さも上がってきた。
2人はそのまましばらく剣を振りあった。
夕方、日が山に差しかかる頃、遂に限界を迎えたホーアムが地面へと倒れこむ。
ホーアム「ハァ...ハァ...。」
ケイ「筋がいい。上出来だ。この調子なら1週間で次の流派も会得可能だろう。」
ホーアム「魔法を覚えた方が...早いんじゃないですか...?」
ケイ「魔法も剣術も、まずは戦闘の知識を積んでからだ。それに魔法は魔人にしか扱えない。」
ホーアム「でも魔法があれば、魔獣みたいに範囲攻撃とかで近付けないようにしながら攻撃とか...出来るんじゃないですか?」
ケイ「そうだな。」
ホーアム「魔法って、どんな感じなんだろう。」
ケイ「見てみるか?」
ホーアム「え?魔法は魔人しか使えないんじゃ...。」
するとケイは後ろの髪をかきあげて見せた。
後頭部から下の方へと伸びる、細くて美しい2本の角を。
ケイ「俺は魔人だ。」
ホーアム「そ、そんな所に角があるんですね...って事はケイさんもニュクスさんに造られたんですか?」
ケイ「何度も言わせるな。ケイでいい。俺は元は人間だ。」
その時ふとニュクスの前例があるというセリフが頭に浮かぶ。
ホーアム「あれケイさんの事だったんだ...。」
ケイ「おい。」
ホーアム「あ、えと...ケイ...。」
ケイ「それでいい。」
ケイはホーアムから距離を取るように歩き出し、訓練用の剣を仕舞うと、背中に担いだ巨刀を取り出す。
ケイ「少し離れろ。」
ケイの指示に従い、ホーアムは小走りで岩陰まで逃げた。
ケイ「来い。カリバーン。」
ケイが引き抜いた巨刀の周辺の空間に亀裂が入る。
ピシッパキッと音を立て、亀裂の向こうから真っ黒い深淵が見える。
ケイ「【崩壊】。」
ケイが振るった巨刀が砕いた周辺空間の破片が前へ打ち出され、その破片が周囲の空間を更に割る。
ガラスの割れるような音と轟音が辺りへ響き、少し遅れてから凄まじい衝撃波が発生した。
ホーアム「...ひえぇ...。」
ケイ「これはあくまで俺の持つ魔法をこのカリバーンを経由して使用しているに過ぎない。」
ホーアム「す...凄い...。」
ケイ「だからと言って使い勝手が良い物ではない。カリバーンを介して使う俺の魔法は攻撃にしか有用性がない。」
ホーアム「ケイの魔法?」
ケイ「【鏡界魔法】だ。現実世界を原型として仮想の世界を創り出す。俺の魔法はこの鏡像世界と現実世界の境目と、鏡像世界に干渉する事を可能にする。今の【崩壊】は壊した鏡像世界の破片に質量を与え現実世界に衝撃を与える魔法だ。」
ホーアム「む、難しいですね。」
ケイ「魔法も機導と同じで理論だ。理屈を知り応用する事が重要だ。」
ホーアム「他の魔法は使えないんですか?エーギルさんの水みたいな魔法とか...。」
ケイ「いや、全ての生命は命の持つ魔法しか使えない。」
ホーアム「って事はケイがほかの魔法を練習しても今の魔法しか使えないって事ですね。」
ケイ「物分りが良くて助かる。」
ホーアム「魔人になれば魔法が使えるのか...。」
ケイ「魔導師のアトリエに入る気になったのか?」
ホーアム「え、いや...そんな事は...。」
ケイ「もっと悩め。」
ホーアム「え?」
ケイ「貴公は進化出来ない人間の安否を心配しているのだろう。」
ホーアム「そ、そうです...。」
ケイ「魔導師のアトリエに入るという事は、言い換えてしまえば大殺戮に加担するという事だ。もちろん救われる命も多い。旧人類を絶滅される、これは神を否定する罪深き行為に等しい。魔導師のアトリエはこの大罪を背負う覚悟のある者を受け入れる。」
ホーアム「大殺戮...神を否定...。」
ケイ「貴公はまだ若い。もっと悩んで生き方を決めろ。」
ホーアム「そう...ですよね...。」
ケイ「じき日も暮れる。帰投しようか。」
ホーアム「か、帰りは低空飛行で...。」
ケイ「飛ばしても?」
ホーアム「...低速飛行で...。」
ホーアム「その岩、カリバーンって言うんですね。」
ケイ「カリバーンは岩ではない。誰がそんな事を教えたんだ。」




