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紅腕の白魔女  作者:
胎動
23/24

ep.23 慎重に進めないと

ニュクス「まぁ待て。大丈夫だ。」

ホーアム「大丈夫な訳ないじゃないですか!そこの人達、魔獣ですよね?!それにさっき魔獣を作ったって...」

ニュクス「彼らは魔獣じゃない。人語を話し意思疎通が可能だ。だから魔獣ではなく魔人なんだ。」

ホーアム「人間を食べるんでしょ?!なら魔獣と変わらないじゃないか!」

ニュクス「落ち着いてくれ。約束しただろう?何があっても驚かないって。」

ホーアム「魔獣を前に落ち着いてなんかいられないですよ!!」

???「さっきから聞いてりゃゴチャゴチャうるせェんだよ!」


ゴボボッ


ホーアム(なん...なんだこれ!水?!)


視界が突然ぼやけ呼吸ができない。肌に触れる感覚からそれが水だと瞬時に理解する。


ニュクス「辞めなさいエーギル。」

エーギル「チッ...」


パシャアッ!


ホーアム「ッカハッ!」

ニュクス「うちの者がすまない。」

???「大丈夫?」


ホーアムに手を差し伸べた女性は足が機導で大きな翼がある。また頭には羊のように巻いた角が生えている高身長な魔人だ。


ホーアム「ひっ!」

???「怖がらなくてもいいのよ。」


その女性がホーアムの手を掴むと、ブワッと下から吹き上げるような風が通った。

たちまち濡れていた服や肌、髪が乾き、体温が上昇する。


アイ「私はアネモイ。アイでいいわ。」

ニュクス「話をしに来たんだろう?奥で座って話さないかい?スルト!」


ニュクスがスルトの名を叫ぶと洞窟の壁の松明が順番に灯されていく。


スルト「私の友人が怖がらせてしまったみたいで申し訳ない。お茶だけでも楽しんで行ってくれ。彼には私から注意しておく。」

アイ「行きましょ!」

エーギル「お前らは?」

???「ワガハイには関係無いのである。祭司に呼ばれてないなら行かないのである。」

エーギル「ノリの悪ィロリっ子だぜ。他は?」

???「僕は兄さんの機導の手入れがある。」

???「僕も弟の機導の手入れがある。」

エーギル「あーオメェらは来なくてもいいや。」

アイ「アネーティアは?」

ニュクス「彼女は自身の発明に忙しいのだろう。そっとして置いてくれ。」

スルト「しかし、全員が顔を合わせるのが目的でお呼びされたのですよね?少し彼女に甘すぎるのでは?」

ニュクス「構わない。どうせ来てもホーアムの顔を見たらすぐ部屋へ帰ったさ。」


軽い話し合いの末、洞窟の奥へと向かったのはニュクス、スルト、アネモイ、エーギル、ホーアムの5人だけだった。


スルトがスっと手を振ると奥の部屋の蝋燭や松明が一気に着火した。

部屋の中央には石でできた大きな丸い机があり、それを囲むように椅子が10個あった。それぞれの椅子は形は同じでも綺麗なものがあったり、倒れていたり、原型がないほど粉々なものまである。


エーギル「コイツの椅子ねぇけど。」

スルト「ケイの席を渡しては?」

ニュクス「いや、あの子はまだ魔導師のアトリエだ。ヅタの席を譲ろう。アイ。」


ニュクスが指示をすると、アネモイは先程見せた魔法で椅子の汚れや蜘蛛の巣などを綺麗に吹き消した。


アイ「どうぞ。」

ホーアム「ど、どうも...。」

アイ「そう警戒しなくても大丈夫よ?食べる必要が無いもの。」


彼女はそう言うと不吉な笑顔を見せた。


スルト「はぁ...彼女の冗談は趣味が悪い。我々魔人は人間を捕食したりはしません。」

ニュクス「では、どこから話したものか...君の疑問も分かる。だからまずは我々の目的から説明しよう。」


ニュクスが机を撫でると、読めない特殊な文字がスっと浮かび上がり、まるでうねる水面のように光る魔力が過去の光景を映し出した。


ニュクス「今から約3000年ほど前の話だ。君も聞いた事くらいはあるだろうが、この星は元、青と緑の美しい星だった。だが、この星に住まう人類と呼ばれる知的生命体はその発達した技術力により本来生物の持つ寿命を著しく上昇させ、遂にはこの星は人類で溢れかえった。故に彼らは同じ種族同士での殺戮を始めた。ホーアム、君は戦争と聞いてどのような光景を想像する?」

ホーアム「戦争って...それは、兵士が隊列を組んで銃で戦う、見たいな?」

エーギル「当事者じゃねぇんだから分かんなくて障害者ないよなァ〜。」

ニュクス「昔の戦争は今の戦争とは全く違う。聞き馴染みはないと思うが、決定的なのは核だ。」

ホーアム「核?」

ニュクス「彼らの使った兵器だよ。」

ホーアム「機導兵が使う爆弾とかと同じですか?」

ニュクス「イメージは近いけど理屈は違うかな?核を使った場合、その地一体は放射能汚染される。汚染された地には生物が生息する事ができず、植物は正常な成長を阻害される。」

ホーアム「過去の人類はそんな物を使ってまで何を?」

ニュクス「彼らはもう土地や資源には興味がなかったと思うよ。自国に仇なす者の殲滅、そんなところだろう。でなければ核なんていう終末兵器には手を出さなかっただろうし。」

ホーアム「資源を巡っての争いのはずなのに...。」

ニュクス「それが人類さ。彼らは心ゆくまでこの星を核を使って汚染し続けた。お互いの息が続くまで。そしてこの星は死の星となった。」

ホーアム「核の汚染...」

ニュクス「この星の生命の殆どが汚染によって消えた。生物だけじゃない。土壌が汚染された事で植物も消えた。」

ホーアム「待ってください。それじゃあ人類は、どうやって今日まで?」

ニュクス「人類の暴走、終末のカウントダウンを止めたのは、人類が悪としてきた【白嵐】だよ。」

ホーアム「【白嵐】が?!」

ニュクス「【白嵐】はこの星の最後の抵抗だよ。免疫反応のようなものさ。【白嵐】でこの星に住まう生物をリセットし新たな生態系を生み出す。だが人類は絶滅しなかった。それどころがハーツと呼ばれる生体動力を発見し、ハーツの消失反応により生み出される魔力により新たな汚染を行った。魔力によりこの星に残った植物や動物、人類さえも魔獣と化す。我々魔導師のアトリエはハーツと魔力の循環、調和を行い人類に新たな進化を促す事が目的だ。」

ホーアム「そんな事が、可能なんですか?」

ニュクス「現に我々は既にハーツと魔力の同時消費を肉体の中で常に行っている。我々から漏出する魔力やハーツは常に無いに等しい。」

ホーアム「それが出来るなら、サテライトの人達と協力すれば...」

ニュクス「端的に言おう。無理だ。」

ホーアム「な、なんで...」

ニュクス「ハーツは全ての人間がその肉体から作り出す事ができる。これは生命本来の成長や代謝、身体の生きる力由来だからだ。だが、魔力は違う。魔力はハーツの消失反応により代わりに生み出される。また生み出した魔力を消費する手段が無いからだ。」

ホーアム「じゃあどうやって、その、調和を?」

ニュクス「全人類を魔人にする。」

ホーアム「全人類を?!」

ニュクス「生物は魔力に触れ続けると魔獣と化す。魔獣になる人類は肉体の持つハーツと魔力の耐性が釣り合っていないからだ。ハーツと魔力の耐性が釣り合っている人間は体内でのハーツと魔力の循環消費を円滑に行う事ができ進化が可能なのだ。」

ホーアム「ハーツと魔力の耐性が釣り合っていない人は?」

ニュクス「残念ながら魔獣になるだろうね。」

ホーアム「だろうねって...」

ニュクス「この進化は新たな次元へと進む人間の選別でもある。魔人化に成功し、ハーツと魔力の調和と循環を己の肉体のみで完結させる事が出来る者こそ、新人類となるのだ。」


意味不明である。

本来人間の身体からはハーツしか作られない。

人間が魔獣化する原因は肉体に溜まる魔力が肉体の魔力耐性を大きく上回ってしまうからだ。

彼らは魔人と化す事で魔法を会得し、体内の魔力を消費、その際生まれるハーツを機導で消費、この循環を可能とする新人類へと旧人類を進化させる事が目的らしい。

その目的を聞いてなお意味不明である。


ホーアム「方法はあるんですか?」

ニュクス「これ以上の説明は不可能だ。」

ホーアム「な、なんで...」

ニュクス「君が魔導師のアトリエじゃないからだ。」

スルト「もう分かるでしょう?君に、『魔導師のアトリエ』へ加入して頂きたい。」

ホーアム「僕が『魔導師のアトリエ』に?!そもそも僕は機導を使えないし、魔人でも無いです!」

ニュクス「魔人化は心配しなくてもいいよ。見て分かる。君はここにいる誰よりも強い魔人になれる。」

ホーアム「なんでそんな事が分かるんですか?」

ニュクス「それもまだ説明できない。」


ホーアム(加入しろって言ったって...新人類に進化出来ない人間を魔獣にする事へ加担しろって言ってるようなものじゃないか...!)


ホーアムは眉間に皺を寄せ思い悩む。


ニュクス「あぁ、すまない。すぐに答えを出す必要は無いよ。決まるまでここで生活するといい。君の部屋も空けよう。」

ホーアム「断った場合は?」

ニュクス「その時は君を好きな所まで送り届けよう。次に会う時は進化の儀礼日かもね。」


ホーアム(いや、答えを出すまでこの洞窟で拘束するつもりだ...断った場合は殺される...)


ホーアムの推測は半分当たっていた。

ニュクスはホーアムが断った場合その場で魔人化させるつもりだったが、正直彼にとってホーアムの生死は変わらない。

断ったとして本当に帰しても構わなかった。


ホーアム「少し...待ってください...」

ニュクス「そう言うと思ったよ。アイ、部屋まで案内してやってくれ。」

アイ「分かったわ。行きましょう。」


ホーアムはアネモイと部屋を後にした。


スルト「しかし本当に彼が?」

ニュクス「あぁ。肉体の修復は順調だ。あとは魔人化の工程を経て、心臓さえ回収出来れば。」

エーギル「もう適当に拘束して無理やり魔人化させりゃいいじゃねぇか。」

ニュクス「ダメだ。肉体の修復が完了していても、彼の精神が呼び覚まされていない。計画が順調な分、慎重に進めないと。」



ーホーアムの部屋にてー


アイ「ここがあなたの部屋よ。」


廊下の壁に手のひらで触れると、岩壁がスっと消えた。

おそらく魔法だろう。

部屋の中は洞窟の割にかなり綺麗で床は反射するほど綺麗な大理石、部屋の壁には松明、天井はシャンデリアだ。

ベッドやテーブルにソファなども設置されており、洞窟の薄暗さは一切感じない綺麗な部屋である。


アイ「ごめんなさいね。いきなり難しい話しちゃって。」

ホーアム「いえ、そんな...アネモイさんは元は人間なんですか?」

アイ「アイでいいわ。私はニュクス様に造られたから人間じゃないの。私以外にも魔導師のアトリエの魔人はみんなニュクス様に造られたのよ。」

ホーアム「アイさんは、この計画が嫌じゃないんですか?だって、魔人になれなかった人間は魔獣になるんですよ?殺してるのと変わらないんじゃ...」

アイ「私は人間が愛おしいの。だからこそ絶滅して欲しくない。このままだといづれ人間は魔獣に負ける。だから進化して欲しいの。」

ホーアム「そう、ですか...」

アイ「もう少し落ち着いて考えていいのよ。私達は基本的にさっきの部屋にいるから、話せる時にいらっしゃい。またね。」


アネモイは最後に美しい笑顔をホーアムに見せ部屋を出ていった。


ホーアム「あ、僕を生かした理由、聞けてなかった...それどころじゃない話されちゃったしな...」


ボスッ

ホーアムはベッドに横たわり今一度考える。


ホーアム(確かに...このままじゃ人類は絶滅するだろう。でも...人間を選別して、進化させるなんて間違ってる。やっぱり何か別の方法がある筈だ。全ての人間が救われる方法が。)


多分誤字無いはず...

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